買い物に行かなければ!

「そろそろ不味いなぁ……」

「――?」


 腕を組み、冷蔵庫を睨む俺の頭に妖精のオーロラが同じように悩んでいるという気持ちを飛ばしてくる。大方、ポーズも俺を真似て腕を組んでいるんだろう。

 目下、今俺たちを悩ませている種と言うのは……そろそろ野菜や色んな生活必需品が切れかかっていることにある。肉は十分に在庫があるんだけど野菜系がね。他にもトイレットペーパーとか洗剤とか……そろそろ買っておきたいほど無くなってきている。

 昔ならまだしも、今はAmazonとかあるから荷物は届きはするんだ。でも田舎故に注文してすぐに来るわけではない。買い物のことを完全に失念していたよ。となればスーパーに行くしかないんだが、スーパーってダンジョンより難易度高いよ。まず人がいないなんてあり得ないからね。どこかしらに誰かの目はあるから隠れて買い物するなんて出来ない。かと言って武道さんに頼りすぎるのもいただけない。あの人のことだから二つ返事で受けてくれるんだろうけど。


「行くしか、ないか……!」

「――!」


 このままずっとダンジョンに潜る以外で家にこもっているわけには行かない。今こそ外に出るべきだ!さて、そうと決まったらまず病院に行くときに使った穴あき紙袋をだね。


「――!?」

「冗談だよ冗談。エルフ以前に不審者として捕まっちゃう」


 たった1人のエルフ、不審者然な格好をして通報だなんて笑い話にもならない。だから紙袋以外の対策を用意したのだ。それがこれ、耳当て付き帽子!ふふふ、存在を思い出してこれを探すのに2時間ほどかかってしまった。

 今春だから割と季節外れだけれど、紙袋よりもずっと怪しまれないだろう。一度被ってみようか!


「ん゛……っ!これは……」


 予想していたことだけど、滅茶苦茶引っ掛かる。が、いけないわけじゃない!何とか無理やり押し込めて――いけた!違和感がすごいし、鏡を見たら耳の辺りもっこりしてるけどね!後は眼鏡やらサングラスがあればいいけどそっちは持っていた記憶はない。

 後取れる手と言えば、マスク!布の物はなかったけど紙の奴なら……よし、あった。男の時に買ったものだから少し大きいが些細な問題だ。これにて準備は完了!それでは……イクゾー!


「――!」

「え?どしたのオーロラ」

「――!」

「連れて行けと?」


 拳を固め、大きく頷くオーロラ。留守番していて欲しいんだけれど……外を見せておくのも大事か?彼女の奔放さから、置いていこうとしたら無理やりついてきてひと悶着ありそうだから連れて行ったほうがいいか。


「分かった、オーロラも一緒に行こうか。ただし!オーロラはこのショルダーバッグに隠れていること!チャックは開けておくから、そこから外を見るんだ。顔を出しちゃダメだからな!?」

「――!」


 敬礼したので与えられたミッションはしっかりとこなしてくれるだろう。それでは行くかな。ショルダーバッグよし、財布よし、スマホよし、エコバックよし!車のカギよし!

 目指すは近所のスーパー!今日は特に特売日じゃなかったはずだから人は少ないはず!



 ふふふ、俺はフラグを踏まない男!時刻は14時過ぎ、スーパーが最も客が少ない時間帯だ!案の定、店内はガラガラでたまにすれ違う客も微振動している爺さんやプライスカードと睨めっこしているおばちゃんくらいのものだ。

 今回は大量買いだからね、ちゃんと大カートを使用だ。


「いらっしゃっせー」


 ……ッ!?視覚外意識外からの挨拶だと……!?まぁ俺が他の客ばかり集中して店員に気付かなかっただけなんだけど。ふむ、特に見られているという感じはしないな。よし、ちゃちゃっと買い物済ませてしまおう!

 えーじゃがいも玉ねぎかぼちゃにー白菜・人参・ピーマンも買っておこう。おっ、パクチーじゃん!今日はこれでサラダにしよう、ごまだれは家にまだあったはずだ。


「らっしゃっせー」


 肉はいいから魚……お、冷凍されたカツオのたたきだ。買ったことないけど滅多にスーパーに来れそうにないなら買っておこう。他にも冷凍もののお刺身や魚の切り身。……塩辛とか珍味系も買っとこ。


「しゃっせー」


 なんかさっきから同じ店員と遭遇する気がするんですが?2回目ならまだしも3回もすれ違うのは明らかな意図を感じる。この場合はエルフとばれたか、万引きと疑われているか!後者であって欲しいようなそうでないような。勿論、万引きなんてしていない。木原譲二はお天道様に顔向けできないことはしたことないからね!

 とは言え、それでも監視されている風なのは居心地が悪い。さっさと買い物を終わらせてしまおう。えーっと、油にトイレットペーパー、ティッシュペーパー、ごみ袋も買わなきゃ。あとはお菓子!家にいる時、俺もオーロラも小腹が空いたときに食べているからね、お徳用の物を買っておこう。後は酒!パック系はともかくストゼロとか缶系はすぐ無くなっちゃうからね!補充しておこう!


「っせー」


 鬱陶しいな君は!分かるよ?万が一万引きなら店の損失だからね!でも俺無罪だから!心臓に悪いからやめて欲しいよ!ほら、レジ向かうからね!夕方くらいなら学生がレジをしていることもあるが、今の時間帯だと、大体おばちゃんが多い。早々気付かれないでしょ。


「ハイ、いらっしゃあい。あら?外国の方かしら?袋いりますかぁ?」

「いらないです」

「あら日本語お上手ねぇ!」


 ヤバい、客相手に話してくるタイプのおばちゃんか!くそ、選択を誤った!日本語が分からないふりをしていれば話してくることは無かったのに!見ない顔だの美人さんだの知らんって!はよ、レジ進めて!なんて言えるわけもなく、「あはは」と愛想笑いを返しておいた。


「な、何とか終わった……」


 合計金額は万を超えたが、必要経費だと割り切ろう。最後に大量に商品が詰め込まれたレジカゴを軽々しく持ったことに驚かれたが、必殺の愛想笑いでまた切り抜けた。今度来るときはあのおばちゃんのところには行くまい。

 何だか長い時間買い物してた気分だよ……さっさと帰ってゆっくりしながら晩御飯の支度をしようか。なんて考えながら商品を車に詰めていると極小さな音で「パシャリ」と聞こえた。背中に冷たいものが走った気がする。俺は音が聞こえた方向に視線を向けずあくまで平静を装って車に乗り込んだ。気のせいだといいんだけどな。

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