【カクカク】ジョージ+?の酒飲み配信【シカニク】

妖精は両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げ挨拶をする。ヨーロッパでカーテシーと呼ばれる伝統的な挨拶だ。何の気なしにその動画を見せてみたらそれはもう乗り気で練習し始めた。その練習の成果は


『は?可愛い』

『やっぱ妖精連れてる人ってみんな着飾るんすねぇ』

『これはフェアリークイーン』

『うわすご』

『あー、この服有名メーカーのやつじゃん。良い物着せてるねぇ』

「これは知人からもらったからね、服はよく知らんのよ」


 素人目からしても上等なものだと思ったからね、支払おうとしたんだけど友風さんは頑なに受け取ろうとはしなかった。「配信を楽しみにしてますからね!」とだけ言い、しっしっと追い払われてしまった。後日、しっかりお礼させて貰おう。


「さ、そんな訳で今日の酒のお供は木々鹿肉のローストだ!」

『今日はもう妖精さんの配信でよくない?』

『(・ワ・)<われらのじだい』

『(・ワ・)<エルフさんはすいたいしますか?』

「エルフ的に29歳はまだ衰退するような歳じゃないのでは?」

『(・ワ・)<作品によってはまだ赤子』


 クソッ!懸念していたことが当たりやがった!妖精のインパクトが強くてみんな今日のおかずに目が行ってない!結構手間かかってるんだぞこれ!

 まぁ初出演だからね、仕方ないところではあるんだけど。妖精は妖精で、視聴者の反応が嬉しいのかコメントに反応して色んなポーズをとっている。……当然のように反応しているけれど文字理解してんのね。

 俺は放っておかれてるので、鹿肉ローストと妖精のスクショ大会を肴に今日は日本酒でも飲んでよ。

 まずは何もつけずそのまま――うん、匂いもしっかりとれてるな。ローストビーフにも引けを取らない美味さだ。ホースラディッシュにもよく合う。そんでもって日本酒!ッカァ、美味い!


『1人で飲んでて草』

『置いてけぼりにしたのは俺だしまぁ』

『鹿肉美味いよな割と癖無いし』

「――!――!!」


 コメントに反応して妖精は後ろを向き、信じられないものを見る様な目でこちらを見る。うん、何言ってるか分かるよ。抜け駆けすんなって言いたいんでしょ?

 弁明しようと口を開こうとしたところで、顔面に強い衝撃ぃ!


「おぶぇ!」

『妖精ちゃん抗議の頭突き』

『そら1人で満喫してんだぞ?ギルティだわ』

「悪かったって!ちゃんと分けてあるから!」


 腰に手を当て、ぷんぷんと怒って見せる妖精の前に、小皿に小さく切り分けた鹿肉ローストを乗っける。当然、ホースラディッシュも付けている。これで妖精の機嫌は元通り!……になるはずだったのに、その目は「まだ足りないんだけど?」と訴えてくる。

 俺にあって取り分けた鹿肉ローストに足りない物?……え、もしかして


「日本酒飲むつもり?」

「――!!」


 はい正解だそうです。


『まさかのw』

『飼い主と同じものを食べたいペットかな?』

「大丈夫なのか?」

「――!」

『あんだって?』

「本人は大丈夫だから寄越せって言ってる」


 妖精の意思は固いようで、俺の日本酒が入っているグラスをがっしりと掴んで諦めそうにない。しょうがない、俺は願いを受け入れ、あるものを取ってくるために席を立つからと妖精に場を持たせるように言っておいた。ねぇ、敬礼はどこで学んだの?


「はい、お待ち」

『ペットボトルのキャップか』

『それなら妖精ちゃんに丁度いいね』

「――♪」


 とりあえず今は愛飲している特定保健用食品の緑茶のペットボトルのキャップでお許しいただきたい。キャップを両手で受け取る本人は嬉しそうだからいいか。勿論、ちゃんと洗ってる。

 妖精はキャップをこちらに向け、注いでと促してくる。本当に飲むつもりなんですね……


「はい、お客様どうぞお飲みください」

「――♪」


 なみなみと注がれた日本酒が零れそうになると、おっとっとと言わんばかりにキャップのバランスをとる妖精。


『動きがちょっとおっさんっぽいなw』

『ってか服そのままでいいん?』

「服脱がしてもいいけどその場合妖精はフェードアウトするけどいいの?」

『妖精ちゃん、服は汚さないようにな!』

『紙ナプキン付けたれや!ティッシュあるやろ!』

「視聴者ナイス」


 全く失念していたよ。やはり持つべきものは視聴者!一旦キャップを下ろさせ、ティッシュで作った紙ナプキンを装着。本当なら汚さないように脱がさせるべきなんだけど視聴者がそれを許さないからな。

 さて、気を取り直して……妖精初日本酒に挑戦!キャップを持ち上げ、口を付け、飲み始める。


『お、噴き出さない』

『ニッコニコで飲むなぁ』

『かわいい』

『妖精ちゃんいける口なんやね』

『あれ?まだ飲むの?』

『止まらないね?』

『止まるんじゃねぇぞ……』

『え、一気しようとしてる?』

『僕たち強要してませんよ!?』

「――♪」

「うわ、飲み干したよ。妖精、大丈夫なん?」

「――!」


 まさかの一気飲みに焦ったが、当の本人は満足そうに笑っている。そして日本酒の美味しさに喜んでいるのか、はたまた酔っているのか上機嫌で飛び始めた。ただ、その飛行は一切のブレを感じさせないので泥酔しているという訳ではなさそう。


「どうやら妖精も酒に強いようだね……」

『いや、飼い主にそこまで似なくてもよくない?』

『まぁ飲み相手が出来て良かったんじゃない?』


 確かに。ずっと1人で飲んでたもんなぁ。いや、たまに武道さんとも飲んでたけど。エルフになった今じゃ気軽に飲めなくなるよね。武道さん奥さんいるし。

 突然出来たモンスターの飲み友達。ジョージの酒飲み配信の楽しみが増えたかもしれない。


「――!」

「あ、おかわりですねすんません」

『おかわり催促にほっぺ叩くの可愛いね』

『ところでさ、妖精ちゃんの名前は?』


 …………


「あ゛」

『こーれは忘れてましたね』

『ずっと妖精妖精言ってたから変だと思った』

『はい、名付け配信に変更しまーす』


 俺と視聴者たちから飛び交う妖精の名前案。

 最終決定権があるのは勿論妖精だ。彼女が選んだのは――"オーロラ"。酒言葉で『偶然の出会い』を意味するカクテルだ。

 ふっ、いい名前じゃないの、飲んだことないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る