ある日、山ダンジョンの中、妖精さんに出会った

 妖精、人の姿を持つ小さなモンスター。比較的人間に対して友好的な種族で時に人を助け、時に遊び感覚で悪戯を仕掛けてくる気紛れな存在。魔法に長けているが、各妖精それぞれに得意属性があり、成長するとその属性に見合った存在へ進化する。進化前は知性はあるが、人間に合わせた言語能力を持つ存在は稀。


「その妖精……だよな、この生き物」

「――?」


 俺の肩に乗って楽しそうにこちらを見る妖精を突くと、妖精はくすぐったそうに身をよじり、声にならない声を上げる。その姿には敵意を微塵も感じられない。もしあったとしたら、気づかない間に肩を叩かれた時点で俺はお陀仏だっただろう。

 おっと、俺の指が抱え込まれるように2つの腕につかまってしまった。うん、ちょっと動かしただけで振りほどけそうなほどだね。少し子供っぽさを感じるが、知性はありそうだ。会話を試みようか。


「あー、こんにちは。ここにはお前しかいないのか?」

「――?――!」


 妖精は首を傾げると俺を指さした。


「いや、確かに俺もいるけどな?俺とお前を除いて他の妖精とかモンスターはいないのか?」

「――!」


 見たことない、か。いや待て、妖精は言葉を発していないはずなのに、何で俺は彼女の言っていることを理解できているんだ?これが心で理解したってことなのか?不思議だが、コミュニケーションが取れているのならばそれに越したことはない。

 さて、話を戻すか。彼女が言うことが本当ならこの空間には俺と妖精以外誰もいないことになる。ん?どうした妖精。あぁ、魚もいるのね。たまに背中に乗って遊んでたのね。それはいいとして次だ。


「妖精、ここに宝箱ってあるか?」

「――」


 帰ってきた答えは、否。この隠しエリアの範囲を飛び回ってきたが、そのような物は見たことがないらしい。現地人ならぬ現地妖精がそう言うのであれば、そうなのだろう。俺の目には彼女が嘘をついているようには見えない。

 じゃあここは……ただ妖精が1人と湖と巨木があるだけのただの空間ってコト!?


「マジ、かぁ……」


 意気込んで来たのはなんだったのか。己の空回りさに脱力した俺は大きくため息をついて蹲った。命の危険が無いのはよかったよ?でも、こう、さぁ?ちょっぴり冒険したかった感はあった。

 ちくしょう、脱力したらお腹が空いてきたよ。体は正直だなぁ……用意してたお弁当でも食べるか。

 草原にどっかりと座り込み、Aカードから取り出したるはスープジャー!山ダンジョンに入ってから入れていたんだよね。このスープジャー中には昨日の晩御飯のブラウンシチューが入っているのだ!これに付け合せるのは食パン!


「もはやこれピクニックでは?」


 無駄に心地よい日光とそよ風が俺の肌を撫でるので、更なるピクニック感を煽らせる。ダンジョンだよな?ここ。

 考えても仕方ないか。食パンをちぎり、ブラウンシチューに浸してパクりと頬張る。うむ、カレー同様に一晩冷蔵庫で寝かせたからかしっかりと美味しくなっている。酒が欲しくなるが、ここはダンジョン。自重しろ俺。


「――?」

「うん?妖精、お前も食べるか?」

「――!」


 興味深そうに俺の顔の周りをぐるぐると飛行するので、大人しくさせる目的で提案すると食べたかったようで頷いてきた。浸したものを渡そうとしたけど、どうやら自分でやりたかったようで自分でパンをちぎりシチューに浸し俺と同じ様にパクリといった。

 さて、ブラウンシチューは妖精様のお口に合うのか――!ジョージシェフ運命の瞬間!


「――!?――♪」


 おぉ、気に入ったようだ。顔中にブラウンシチューを付けて嬉しそうにビュンビュン飛んでいらっしゃる。

 その後も妖精はパンをちぎっては浸けて食べ、ちぎっては浸けて食べを繰り返したが俺は気づいた。この子、明らかに自分の体の体積を超える量食べてるよな。人間ではありえないことだけどモンスターでは普通なのか?

 すっかり食べつくしてしまったが、妖精はそれでも満腹になって横になるなんてことは無く今も元気に飛び回っている。

 俺も腹を満たしたが、どうしようか。今日は隠しエリアに当たるつもりだったが当てが外れすぎたし、今日はもう帰るか。


「んじゃ、俺はもう帰るよ。妖精、元気でな」

「――!?――!」


 別れを告げると、妖精は「はぁ!?何言ってんの!?」と言いたげに口をポカーンと開けると、俺の顔に引っ付いてきた。こらこらフェイスハガーは止めなさい?息がしづらいからね?

 さて、妖精が何を言っているかというと、俺について行きたいんだと。本気?と尋ねると頷きをもって返される。うーむ、幸い俺の家には俺しかいないし、犬猫の類もいない。俺としても一緒にご飯を食べたことで少なからずの情が湧いてしまったことは否めない。


「分かったよ、一緒に帰ろうか」

「――♪」


 こうして俺に1人、家族が増えた。ただこの妖精、嬉しいの表現方法の最上がフェイスハガーなのどうにかしてほしい。

 今日の配信は何だかまたお祭りになりそうな気がする。



「はぁ!?うちのダンジョンに妖精!?しかも懐いた!?」

「友風さん、他の冒険者いないからいいけど声デカいって。他の職員さん睨んでるぞ?」

「ていうかその子裸じゃないですか!丁度お人形の服があるんです!1着あげますんで着せてあげてください!」

「ありがたいけど何で持ってるの?ここ職場だよな?」

「休憩時間に見てにやつくために決まってます!」

「アッハイ」


 よく分からない流れで妖精用の服が手に入ってしまった。よくよく考えたら真っ裸の状態で配信に出すのはいくらモンスターとは言え人型はアカンかった。危ない、BANされるところだったよ。

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