エルフになってから初めての山ダンジョン!

「よし、入ることには成功したな」


 検査の結果発表の翌日、俺は予告通り男の時からずっと足繫く通っていた山ダンジョンに来ていた。一日ぶりなのにどこか久しぶりに感じてしまうのは何故だろうか。

 それにしてもここは相変わらずの過疎っぷりだなぁ。おかげで誰かに見つかることなくダンジョンに入ることが出来たけれども。いや、今日は受付が武道さんだったからすんなり行けたというのもあったな。「自分、本当に大丈夫なん?」なんて心配する言葉をもらったけど、今は男の時より動きやすいから安全まである。

 ただ、潜る用の防具が当然というべきかぶかぶかだったので、それだけは貸し出しがされている防具をお借りした。別に1回2回のレンタル料で痛む財布をしていないから大丈夫。


「今日の目的は山菜と肉があればいいかなぁ……宝箱もあればいいけど」


 ダンジョンには宝箱が存在し、入手するには2つの方法がある。まず1つはモンスターからのドロップ。これはモンスターが強力になればなるほど入手する確率が上がっていくというゲームみたいな法則性がある。もう1つは、ダンジョンにそのまま落ちているパターンだ。そのまま落ちていると言っても簡単に見つかるわけじゃない。前者と比べて運が必要となってくる。

 だから俺的にはあればラッキーぐらいのものだ。エルフになった時点で相当にラッキー(?)だから今後見つからない可能性もあるけどな!


「よし、こんなもんだろう」


 俺は鼻歌を歌いながら地面にモンスターを捕らえるための罠、トラバサミを設置した。このトラバサミ、何と不思議なことに野生のモンスターにしか反応しないという都合のいいアイテムなのだ。実はこれは宝箱から出てきたアイテムで、これのお陰で俺は薬草集めが主な冒険者から罠も使う冒険者へと進化することが出来たのだ。ちなみに4つセット。

 そんな訳で4つのトラバサミをセットし、それぞれにトラバサミの所有者が俺と示すタグをつけて今度は薬草集めに取り掛かる。


「我ながら地味だなぁ……絶対絵にならんよなこれ」


 薬草――ではなく好物の大葉を回収しながらため息交じりにそうぼやく。罠を仕掛けて薬草集め。配信ではなく、編集された動画とするならばやり様はあるのかもしれないけど、俺にそんな技術はない。配信、楽。

 勿論俺だって(元)男だ。格好いいアクションをしたいと思ったことはある。けどなぁ、俺にそんな才能は無かった。力はそれなりにあれど、動きがあまりよくなかったから正面切ってモンスターと戦うのは厳しいものがあった。……もしかして今ならいけるのでは?いや駄目だ。そういう考えの奴からダンジョンでは怪我していくんだ。安全に安全に。さ、どんどん探していくぞー!



 小一時間後


「いや、なんだよこれ」


 俺は目の前に積まれた大量の野草薬草と罠にかかり、俺の手で解体された角ウサギ2匹・木々鹿2匹の肉塊に驚きを隠せないでいた。

 違和感はあったんだよ。歩いている最中に虫の知らせかピーンと来てその方向へ向かったら薬草の群生地が見つかる見つかる。勿論、採りすぎるなんて真似はしないんだけどそれでもまた別の場所で見つかるという無限ループ。少し怖くなったね。

 罠の方も1匹かかればいい方なんだよ。高性能とは言え、トラバサミは失敗する可能性も十分ある。それが全部とかどうなってんの?


「とりあえず、Aカードに入れておこう」


 ポケットからAカードを取り出し、採取した薬草類に近づけると一瞬にして山のようにあった薬草が消失した。Aカードの中に収納されたのだ。ダンジョン内でしか収納できないとはいえ、本当に便利なアイテムだよなぁこれ。この技術をダンジョン外でも使えれば流通が一気に進化するんだろうけど、今まで解析できたものはいない。

 さて、時計を見ると時刻は17時を回り空が赤く染まりだしている。ダンジョンは夜でも潜ることは出来るが、夜は暗いしモンスターも活発になっていくので、俺は日が暮れる前に降りることにしている。


「よし、今日は折角取れた角兎の肉でブラウンシチューにしよう!となると今日はワインだな!……まだあったよな?」


 今日の晩御飯に思いを馳せながら帰路につこうとしたところで俺の足は不意に立ち止まる。


「うん?」


 この感覚は今日散々体感した虫の知らせだ。

 俺自身、何に反応したか分からないまま、帰路とは別方向に歩きだし――何の変哲もない山の一角で足を止めた。


「何かあるのか?」


 少しばかりの恐怖を覚えながら手を伸ばすと、見えないものが手に当たった。カーテン?俺は勇気を振り絞り、そのカーテンの奥に足を踏み入れた。

 そこには――山の中とは思えない湖と巨木が佇む草原が広がっていた。


「隠しエリア!?」


 目の前に広がるあり得ない景色に、記憶から捻りだした単語を口にする。

 ダンジョンには隠しエリアと呼ばれる、普通では発見しづらいエリアが存在する。それを発見することは幸か不幸かは分からない。宝が眠る空間もあれば、四方八方からモンスターに囲まれる、いわゆるモンスターハウスのパターンも有る。


「これは予想外と言うか……こんな山ダンジョンにも隠しエリアって存在するんだなぁ……でも今日はもう遅いしなぁ」


 こうしている間にも日は沈んでいく。普通の冒険者であれば中に入るのが正しいのだろうが、俺は今回足を踏み入れることは止めにしておいた。俺の口は既にブラウンシチューの口になっちゃってるからこの欲求を抑えるために一刻も早く帰りたいのだ。

 とは言え、これを逃すのも少々気が引けるので、俺は透明のカーテンがあった地点にトラバサミを仕掛けておく。これを目印にすればまた見つけることが出来るだろう。


「さぁ、カラスが鳴くから帰ろう帰ろう!トロットロに煮込んでやるからなぁ!」


 ブラウンシチューに思いを馳せ、ウキウキ気分で帰る俺は気づいていなかった。

 隠しエリアの巨木から何者かが俺をじっと見ていたことに。

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