病院、行きましょうか?
「病院、連れてってくれるのか?」
「当たり前やろ!Twitterで見たけど、アンタ酒飲んでたやろうが」
「ごもっともで」
もとよりそんなつもりはなかったけど、飲酒運転はダメ絶対。しかし、武道さんはTwitterのトレンドから俺がエルフになったことを知ったみたい。Twitterの動画は見てないけど、エルフになる前の俺も10秒くらい映っていたみたいだ。エルフになってからの配信はずっと載ってたみたいだけど。あれ?男の俺に興味なくない?
「ただなぁ、問題があんねん」
「国に報告とか?」
「おおう、分かっとるやんか。正直隠し通すのは無理があると思う」
「いやぁ、いいよ遅かれ早かれエルフが俺だってバレるんだろうし、それなら率先して報告した方が印象良さそうじゃない?」
間違いなく面倒ごとは舞い込んでくるかもしれないけれど、それでもビクビクしながら隠れるよかマシだ。それに国に報告っても本当にお偉いさん方くらいにしか話は行かないでしょ。
そういう訳で、病院に行くことになったわけだけれども……うーむ持ってる服がダボダボだ。幸い、胸がポロンとすることは無いから今はこれで行こう。そうか、女になったんだからブラジャーとかも考えなきゃいけないのね。うわ、そう考えると出費が怖いなぁ。
「よし、先生に連絡取れたから行くでぇ。Aカードは持ったんかぁ?」
「財布に入れてる」
Adventurerカード、通称Aカード。これは言うならば冒険者用の免許証だ。ダンジョンに入る際に必要になる他にも、これをダンジョンや病院・市役所と言った公的施設にある機械に読み込む。すると所持者の情報が確認できるようになっている。それだけでも凄いのだが、なんとこのカード、ダンジョンで使用する装備品を収納することが出来るのだ。勿論、ダンジョンの外で装備を出すことは出来ない。普通に人を殺傷できる代物だからね、当然と言える。
ちなみに俺の武器はショートソードだ。とは言え、俺は積極的にモンスターと戦うのではなく薬草や鉱物といった採取、後は罠を仕掛けて弱いモンスターを狩るのが主となる。とどめを刺す以外、あまり出番が無かったりする。
「うーん、流石に病院に入るまではその耳は出さん方がええよなぁ……こう、耳まで入る防寒キャップみたいなんないん?」
「そんな都合よくあるわけないって。お、良い物発見伝!」
俺は見つけ出したそれにはさみを入れる。紙なのでスムーズに刃が通り、少し歪だけど2つの縁が出来たあとはこれを被る!よし、少し耳が擦れるが、痛いという訳じゃないから許容範囲内だ。早速被った姿を武道さんに見せるか。
「武道さーん」
「おわっ!?あぁ、紙袋か……まぁ今から用意できるのはそれくらいしかないか。にしても珍妙な格好やっちゃなぁまぁええわ、先生待たせとるしさっさと行こか。アカン、忘れるところやった!譲二さんの男ん時のDNA情報あるやついるんやった!」
「抜け毛は?」
「毛根残ってないとアカンらしい。せや歯ブラシ!」
「残念、歯磨きした後だ!鼻血出した時のティッシュならあるよ?」
「それや!」
こうして俺は武道さんの車に乗り込み、病院へと向かうのであった。
「念のため言うとくけど、知らん男についてったらアカンで?いや、今だと女もアカンか……」
「お母さんかアンタ」
・
・
・
「譲二さん、こちら粒源紅子先生や。粒源先生、こちら木原譲二さん。電話した通りエルフになってしもうた人や」
「いやぁ~!和藤君から連絡が来たときは眉唾物だと思っていたけど、本当にエルフを連れて来てくれるなんてねぇ!いやぁ、持つべきものは友人だねぇ!」
何だこの癖つよ女医。なまじ顔がいいのに目の下にでっかい隈があるせいで狂気性が垣間見えるんだけど?こういう人って実際にいるんだね?
ってかめっちゃ見てくる。めっちゃ見て手元のバインダーに挟まれた紙に何か書いてる。凄い俺の周りを歩きながら書いてる。どうしよう、エルフになって一番の恐怖を感じてるんですけど。
「武道さん、知らない女について行きたくないんですけど?」
「俺が知っとるから勘弁したって……!こんなんでも優秀なんや……!」
「耳!良い耳だねぇ!それ動くのかい!動かして見せてよ!」
めっちゃグイグイくるぅ……!くそう、武道さんの推薦じゃなきゃ振り切って逃げだしたいレベルだ!言われた通りに耳を動かしたらこれまたうるさいし!
「ふぅむ、外見だけで言うと、耳以外はあまり人間と比べて変わった点は見当たらないなぁ。逆にこの耳はどうしてこうなったのか、興味が尽きないねぇ!」
「ソッスカ……」
「性別が変わっただけならTS病なんだけどねぇ!人種まで変わるのは聞いたことがない!早速検査をしようじゃあないか!あぁ、そうだ検体として色々頂くからよろしくねぇ……?」
不意に後ろから回り込まれて肩を掴まれてしまう。あの、怖いんですけど?マッドな研究しないですよね?俺、生きてこの病院から出られるのだろうか。
俺、帰ったら酒を浴びるほど飲むんだ……!!
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