友人が来てくれました
『――これからそっち行くわ。ええか、絶対に外に出るんちゃうぞ!』
「アッハイ」
凄い剣幕で捲し立てる武道さんに俺は「アッハイ」としか返せなかった。にしても何で武道さんは俺がエルフになってしまったことを知っていたのだろうか。配信見てた?でも、あの人なら見たなら見たって言うけどなぁ。
とりあえず武道さんが来るまでの間、アプリゲームでもしていよう。少しでも稼いでおかなくちゃね。
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ピンポーン
おっと、武道さん来たみたいだね。小走りで玄関に向かうと扉の窓から見慣れたシルエットが見え
「おーい、譲二さん来たでぇ!」
……うん、間違いなく武道さんだわ。分かってるからそんなに大声出さなくても……田舎で近所から離れているとは言え夜に玄関前で大声はダメだってば。
とは言え、やはり来てくれたことは滅茶苦茶嬉しい。正直心細かった感はあったからね。ちょっと気分を紛らわすために1本ほど飲んじゃったからね。
「はいはーい、今開けますよー!」
ガラリと引き戸を開け、訪問者――武道さんを迎え入れる。ひょろっとした体躯に細目、大抵の人からは第一印象は狐みたいと言われ、どこか信用でき無さそうな見た目をした俺の数少ないリア友の1人だ。
そんな武道さんと目が合うのだが、彼は特徴的な細目をカッ開き俺を凝視し、固まってしまう。まぁ分からんでもないけど……友人がエルフになったらそりゃね。
「おーい、武道さん?」
「……」
へんじが ない ただ の しかばね の ようだ。
勿論死んではいない。……が、目の前で手を振っても反応がない。フリーズしちゃったのかな?起きてもらわねば虫が入って来ちゃうから困るんだけども。こういう時は猫だまし!武道さんの眼前で思いっきり手のひらを叩き、音を響かせる。
これでようやく意識が覚醒したようで武道さんが驚きの声を上げた。
「うぉっ!?なんや、驚かせんといてや!」
「驚いて固まってたのは武道さんだろ?ほら、虫が入ってくるから中に入って!」
「待て待てぇ!本当に譲二さんなんやな!?」
なおも疑いますか。では俺と武道さんしか知らないはずの……そうだ、アレでいこう。
「俺だって。今日、薬草卸しただろ?それに山ダンジョンで見つけたふきのとうおすそ分けしてあげただろ?」
「ムムッ!それは俺と譲二さんしか知らんはずの取引……ホンマなんやな」
とりあえず、このまま玄関で話してるのも何なので、家に入ってもらった。
入るなり武道さんに「いくら元男の友人とは言え、一人暮らしの女性の家に入り込むのはアカンのでは?」とぼやかれたが、アンタが有無を言わせぬ勢いで俺んちに来たんでしょうが。と心の中で突っ込んでおく。
とりあえず、居間に案内して椅子に座ってもらう。何か飲み物……これでいいか。
「オォイ!ビールを置くなや!」
「えっ、酎ハイがよかった……?」
「酒置くな言うてんねん!真面目な話しに来たんやぞ!?」
「冗談だってお茶淹れるよ」
「お茶割ってオチはアカンで?」
こいつ、読んでいやがる!そんでもって凄いドヤ顔決めてくる!――とまぁ、俺と武道さんはこういう軽いノリで話す仲だ。
まぁ、酒を出すのは本当に冗談だ。急須で玄米茶を入れ、武道さんの前に差し出す。勿論俺も飲むからね。彼の体面に座り、ズズズと音を立てながらお茶を飲む。あぁ、玄米茶の温もりが染み渡るぜ……。
武道さんも一服すると、少しため息をつき頭を掻いた。
「譲二さん、今のところ体調に問題はあるんか?」
「うん?いや、寧ろ体が軽くなってるくらいなんだけど」
「せやろな、あんなについてた筋肉が見る影もないわ。まぁ俺より細っこい美人さんになってもうて……」
「いや、それなんだけどね?」
俺は席を立ち冷蔵庫から1つのリンゴを取り出し、再び席に戻る。
突然リンゴを持ち込まれた武道さんは何回も俺とリンゴを見比べる。「ツッコミ待ちか?」とでも言いたげだけど、そうじゃないんだ。俺は軽く咳払いをし、リンゴを片手に取りメロディを歌う。
「ちゃららららー」
「え?手品?」
「ちゃららら、らーららー」
「何?リンゴ消しますー的なあれか?」
「ふん!」
油断したところで手のひらに力を籠め――リンゴを握り込む。するとアッと不思議。リンゴは果汁をまき散らしながら木っ端微塵に消し飛んだではありませんか!
まぁ、果汁はもれなく2人に飛び散ったんだけどもね?それはさておいて、パフォーマンスが終わったので一言。
「イリュージョン!」
「イリュージョン【物理】やめんかい!ってかアンタ、果汁を見越して少し厚手の服着とったんか!スケスケにならん為に!偉い!」
「こんな感じで、どういう訳か力は増しているくらいなんだよね。」
前は腰を落として気合を入れないとジワジワ握り潰せなかったんだけど、今では直立で爆発四散だからね?なにこれ超人になっちゃった?あ、エルフか失礼。HAHAHA!
はい、すみませんでした。腰を90度曲げタオルを武道さんに差し出す。言い訳をさせていただくと酒飲んだせいでテンション上がっててだね……
「まぁ、ええわ。それよりも譲二さん、これから俺と一緒にうちのダンジョンが贔屓しとる病院に行ってもらうで!」
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