お酒取りに行ってる間にバズってました。

『一応聞くけど、ジョージなんだよね?』

『π割とあるね』

「お、おう。俺はジョージのはず。本名も覚えているし、今までの人生もそれなりに憶えてる。ちゃんと男としての俺の記憶だ」


 それは間違いない。記憶の中の俺が画面の中のエルフと置き換わっていないことに少し安堵する。リスナーたちの反応からするにジョージもとい木原譲二と言う男が消えたわけじゃなかったみたいだ。

 ……しかし、安心したら口元が寂しくなってきたな。あ、この缶にビール残ってんじゃーん。


『飲んどる場合かーッ!』

「だってお酒残ってるし……?」

『当事者もっと慌ててどうぞ』

『マジカルマッシュルームにそんな効果もあるとは』

『これ他の人に見られたら拡散されるんじゃね?』

「されるだろうなぁ……」


 なんだかとても嫌な予感を覚えながら、残っていたビールを流し込む。

 ふむ、エルフになって驚いたから酔いも醒めちゃったから飲みなおそうかな。冷蔵庫にまだ酎ハイが残っていたはずだから、取りに行こうかな。


「ごめーん、ちょっと酒とつまみ補充してくるわ」

『本当に慌てねぇな!?』

『いtrー』

『待って上着がそんなにダボダボなのにズボン大丈夫なの!?』

「ダイジョブダイジョブ、ゴム入りズボンだから行ってきまーす。ちなパンツもボクサーパンツ派」

『パンツは言わんでよろしい!』

 

 ストロングゼロのレモンに黒コショウの堅ポテチがあったので嬉々として配信部屋に戻る。さーて、リスナーたちと作戦会議しとかなきゃなぁ。病院にも連絡した方がいいのかなぁ?

 うん?何かコメント欄が変だな?まだ立ちっぱなしだから見え辛いけど高速で動いてる?


「た、ただいまー?」

『うおおおおおおお!!エルフキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』

『うわ、マジじゃん耳尖ってるw』

『エルフちゃんprpr』

『いやいや、こんなん偽物だろ。エルフなんて見たことないし』

『じゃあ今映ってるのなんだよw』


 ……えっ何これは。

 ちらりと同時視聴者数を見てみると……はい?1000?え?まだ上がってる?こんな数字見たことないんだけどバグか?いや、バグじゃないんだろうなこれ。実際にそれぐらいの人が来ているようだ。出なければこんな高速でコメント流れたりしないよ。

 となれば可能性は一つ。


「もしかしてもう拡散されたのか?」

『Twitter見てみ』


 言われた通りに傍に置いておいたスマートフォンを取り出し、Twitterを開く……トレンドにエルフ配信ってありますねぇ!1位!?は?1位?

 待って、俺がこの姿になって配信画面に載ってから30分も掛かってないんだけど?何このネットの拡散力!怖いな!


「あーうん、とりあえず確認した。初見さん、初めましてジョージです。……信じられんかもしれないけど30分くらい前まで男でした」

『嘘乙』

『その耳本物?』

『こんな可愛い娘が男な訳ないだろjkww』


 とまぁ、コメントが流れる流れる。にしても、前だったらこういう高速で文字が流れるのは、目で追うの大変だったのに今ではすっかり読めている。動体視力が上がってる?

 にしても嘘扱いされるか。気持ちは分からんでもないけど、俺も嘘はついてないからなぁ。


「俺は嘘言ってないぞー。後、俺はいつも通り酒を飲むのでそこんとこ宜しく」


 ポテチの袋を開けてストロングゼロも開ける。2,3枚ポテチを取り出して口の中に放り込み咀嚼。そんでもってストロングゼロで流し込む!くぅ、キマるぜぇ……

 我関せずと酒を飲んでいるとやはりツッコミは飛んでくるわけで。


『酒飲んでて草ァ!』

『凄い勢いよく飲んでるけどエルフ的に大丈夫なん?エルフ酒飲まないイメージ』

『そうか?割と酒嗜むエルフいる作品あるぞ?』

「俺はエルフになる前から酒は大量に飲んでるからな?これくらいなんでも無いからな?」

『エルフじゃなくてドワーフだった件について』

「自分で言うのもなんだけどこんなスラっとしたドワーフがいるか!」


 ちなみにドワーフや獣人もこの世界には存在していないと言われている。ダンジョンにはモンスターが出現したりするのに、なんでエルフとドワーフと言った異種人族は存在しないのだろうか。……いや、今ではエルフは俺と言う存在がいたか。

 にしてもちょっと色々コメントが付きすぎて収拾がつかないなぁ。これは一旦配信を終わらせた方がいいのかもしれない。


「あーあー、皆の衆。流石に今日は色々あったからね、終了することにするよ。まぁアーカイブは残しておくようにするからさ、疑わしいと思ってる人がいたらそっち見てな!ほんじゃ俺は後酎ハイ1缶……いや、2缶飲んで寝るから!じゃね!」


『えー、もっと喋ってよ』

『は?短すぎだろ正確に説明しろや』

『逃げたな』

『乙ー』

『チャンネル登録しとこか』

『しばらくはお祭り騒ぎかもなぁ、特定されんように気を付けてな』


 そんなコメントを尻目に、俺は配信を終了させた。

 視界に入った最後のコメント……特定かぁ、遅かれ早かれされそうな気がする。気が重いなぁ。

 ん?何かスマホがうるさいな?え、なにこれ通知祭り!?うわ、フォロワー数が滅茶苦茶増えてる!あ、そうだ。チャンネル名をアカウントに載せてたんだった!それで見つかってフォロー祭りと。

 とりま通知きっておこう。このままだと充電が死ぬ。

 さてと、これからどうしようかね……病院には行ったほうがいいのだろうけど、下手に外に出ると特定されてしまうのでは?あれ?これ俺詰んだ?

 ストロングゼロを飲んでぼやけた頭が急激に冷えていくのを感じた。変な汗が肌を伝う。指が震える。これはアルコール依存症の症状ではない。

 そんな時だ。不意にスマートフォンに着信が入った。LINEではなく電話アプリからの着信。そこに表示されているのは、俺が普段お世話になっている山ダンジョンで働いている、和藤武道さんだ。このタイミングでの電話、思うところがあるが、武道さんは信用できる人だ。このまま悩んでいるよりかは……!俺は意を決して電話に出た。


「も、もしもし……」

『っ!その声、やっぱり本当にエルフになったんやなぁ、譲二さん……!』


 ん?武道さん今やっぱりって言った?

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