TSエルフさんの酒飲み配信~たくさん飲むからってドワーフじゃないからな!?~
銀
ジョージの酒飲み配信
俺、"木原譲二"は鼻歌を歌いながら、慣れた手つきでテーブルに料理が盛り付けられた皿を並べる。今日の晩御飯は、山で採れた野草や鶏肉の天ぷらだ。今すぐにでもビールの缶を開けかっ喰らいたいところだが、我慢してパソコンとカメラを起動させる。
俺は"ジョージの酒飲みチャンネル"という名のチャンネルを持つ、世間で言うところの配信者だ。と言っても頭に零細が付くんだけどね。まぁそこのところは気にしていない。人気になりたいとかじゃなく、俺はリスナーと話しながら飯食い酒を飲みたいから配信しているだけなのだから。
よし、準備はOK。配信スタートっと。
「やぁ皆さん方、こんばんは。ジョージだ」
『こんばんはー』
『ハァイ、ジョージィ!今日は天ぷらかー美味そうね』
『テンプーラーシースー』
おぉ、最初から3人も来てくれているとは珍しいこともあるもんだ。そもそもリスナーがいないなんてこともよくあるから困る。名前を見る限り、来てくれた3人はちょくちょく配信を見てくれている人たちだ。いやぁ、ありがたい。
「今日はいつもの山ダンジョンで採ってきた野草とスーパーで買ってきた鶏肉の天ぷらだ。では早速、いただきます。そして乾杯」
『kp』
『乾杯』
『かんぱーい』
缶ビールを開けると「カシュッ」と小気味のいい音と共に泡が溢れ出してきたので、慌てて喉に流し込む。うへぇぁ、美味い!流石はプレミアムなやつ!最初の一本だけだけど奮発しちゃったぜ。
ビールで喉を潤し――そして好物の大葉の天ぷらを口に入れる。あぁ、合法ハーブとはよく言ったものだ。サクサクとした触感と爽やかな香り、たまらん!
『相変わらず大葉好きねぇ』
『よく見れば皿の3分の1大葉じゃねぇか!』
『おハーブ生えましたわ』
「大葉を口に入れてビールで流し込むとハイになっちゃうんだよ、俺」
『おい、本当に大葉か?脱法ハーブだったりしない?』
「安心してください、合法ですよ。っと次はこれ毒消し草」
『まさかと思ったけど、やっぱり薬草天ぷらにしてるなこいつ!』
「食えるからね、仕方ないね。まぁ、安心して。ちゃんと食べる分以外は納品しているから」
薬草は、当然のことながら回復薬や毒消し薬などに用いられるのだが、食べられるものは食べられる。そもそも広域的に言えば大葉だって薬草の1つだ。他の薬草が食えない道理はない。実際、毒消し草の天ぷらは若干の苦みは感じるが、それがアクセントになってこれまた美味しい。
『あーあー、美味そうに食ってからに。俺も薬草天ぷらやってみるかぁ?』
「おすすめだよ?酒飲みにはたまらんと思う」
『ぐぅ、うらやま』
『もしかして鶏肉はモンスターだったりする?』
「いや、残念ながらこれは普通の鶏肉。ダンジョンでは遭遇しなかったなぁ」
『そこはコカトリスとか獲って来いよぉ!』
「コカトリスなんて見たことないなぁ……でもあいつ尻尾蛇なんだろ?鶏肉と蛇肉を一気に手に入れられるとは……お得では?」
『蛇肉って鶏肉に近いから実質鶏肉しか採れないのでは……?』
最近ダンジョンで狩ったモンスターと言えば角兎だっけか。あの兎肉のシチューは美味かったなぁ、また遭遇したら狩ろうか。
さて、食べ進めていくうちに500mlの空き缶も3つ目に突入。ここで本日の目玉の天ぷらをカメラの前に差し出す。
「さぁ、今日のメインディッシュ!皆さん、これが何かわかるか?」
『マジカルマッシュルームかよ』
『うわ、見つけたん?』
『それも天ぷらにしたんかw』
流石に分かるよね。俺が差し出したのは、傘の部分に色とりどりの水玉模様が付いた明らかに"毒キノコ"と呼べる姿をした一口サイズのキノコ、その名を"マジカルマッシュルーム"と言う。
こんなナリをして毒キノコではない。寧ろ、食べた人に低確率でプラスの効果を与えるという不思議キノコなのだ。プラスの効果と言うのは、背が伸びたり、筋力が付いたり、イケメンになったり、スタイルがよくなったり、スキルを得たなんて話も聞く。さらに意味わからないのは、食べてすぐに効果は無かったが、その人が寝て起きたら枕元に従魔となるモンスターの卵が置かれていたと言うものがある。
このマジカルマッシュルーム、群生などしておらず、ダンジョンに稀に一本だけ生えており発見して売ればそれなりに稼げたりする。
『狙いはあるん?』
「うーん、何でもいいからスキルかな?まぁ宝くじみたいなもんだから期待してないけどね。味には期待してる」
『聞くところによるとシイタケに近いらしいな』
『そう聞くと安っぽく聞こえるw』
「シイタケに近いんなら天ぷらは正解かもね。んじゃ、いただきまーす」
我ながらこんな不気味な色をしたキノコを躊躇せずに口に入れたものだ。
……ふむ。確かにシイタケっぽい味だな。美味いっちゃあ美味いって程度だなぁ……これならシイタケ食べたほうがマシなレベルかも知れん。
『聞かなくても分かる、あんまり美味しくなかったかw』
「うん、シイタケ食べたくなった」
『で、何か変化あった?』
「特には……?あ、でもちょっと待って。眠くなってきた」
『え?はやない?』
今まで飲んですぐに眠たくなるなんてことは無かったと思うんだけど、山ダンジョンでの活動で予想外に疲れたのか?
いかん、だんだんと睡魔が強くなってきた。一旦配信を終了しなければ……
「申し訳ない、ちょっと眠さに耐えられそうにない。今日のところはここで終――」
配信終了のボタンをクリックしようとしたところで、俺は力尽き、後ろに倒れ込んでしまう。
『ありゃ、寝落ちっちゃった?ジョージフェードアウトしちゃったよ』
『珍しいというか初めてじゃね?ジョージさんが寝落ちなんて』
『逆にあれだけ飲んでよく寝落ちしなかったともいえる』
『じゃあ俺らも退出する?』
ゴキ
『ん?待って、何か聞こえない?』
グニュ
『ジョージさんの寝息?え?』
『え?みんな聞こえてる?ってことはこの配信?』
グキャ
『え?何?この音何?』
ペニョ
『今!明らかに変な音聞こえたよ!?名状しがたき音聞こえたよ!?』
『どうなってんの?ジョージさんのドッキリ?』
『あの人そんな事するタイプじゃねぇだろ!?』
ゴキバキメニョシュチャギュギャゴキャ
『ええ!?何か光ってない!?』
『あそこジョージが倒れたとこじゃね?』
『何が起きてんの!?あと耳が怖い!でも面白いことが起きそうと思ってる!』
『マジカルマッシュルームの効果!?ハズレじゃなかったんかい!』
ポムポムポムボムバムドログチャ
『これは神回の予感か?』
『これジョージさん大丈夫なの!?』
『起きて!ジョージさん起きて!ゾンビとなって復活なんてやめてよ!』
『うわぁ、ありそう』
PON!
『うわ、ビックリしたぁ』
『破裂音?音止んだ?』
『ジョージさん!死なないで!』
ん、んん……あれ?俺寝てた?何か体が滅茶苦茶軽い気がするなぁ……いかん、欠伸が出る。
「ふぁあ~あ」
『!?』
『え、何今の声?』
『女?』
『え?ジョージさん同棲してたの?』
『ジョージ?お前生涯独身を俺と誓ってなかったか?裏切りなの?』
何か、忘れているような……あ!そうだ配信!
配信を切り忘れていたことを思いだした俺はがばっと起き上がりパソコンに表示されている時間を確認する。あれ?何か思ったよりも時間が経っていない?それになんだ?このチャットの内容。変な音?何のことだ?女の声?
『!?』
『パツキン美女!?え?その耳?え?』
『ダリナンダアンタイッタイ!』
「え?何言ってんの?って、ん?」
意味不明なコメントに思わず声が出ちゃったけど、その声に違和感を覚える。何この声?
何だか嫌な予感がし、俺はパソコンの配信画面に視線を向ける。その画面の中には……さっきまで俺が着ていたはずの服をぶかぶかに着た金髪の美女がいた。
「へぁ?」
間抜けな声が出る。それに合わせて画面の中の美女もまた、間の抜けた顔をする。しかもこの画面の中の美女。視線が寄せられるのはその整った顔だけではなかった。正確にいえば耳の所。丸々としていたはずの俺の耳の先っちょは何だか尖っていた。
俺はこの特徴に心当たりがあった。が、それは今この世界では確認されていないはずの存在だった。
「もしかして俺……エルフになってる!?」
『ジョージさんなの!?』
『ハァ!?エルフ!?』
『ヤバアアアアアアアアアアアアアアアイ!』
これが俺の、エルフとしての始まりの時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます