異世界生活 1日目
平凡、凡庸、普通、人並み。
俺、黒崎霧矢を表すのならそういった言葉が並べられる。
昨今では基準となる普通のレベルが高いこともあるが、「あんまりできないよねー」と言われるレベル帯だという認識をしてもらえばいい。
中肉中背で黒瞳、黒の短髪。背格好も見た目もありふれたもので、意識して見なければ2秒で忘れるだろう……いや、面に関してだけはこちらに来てからイケメンといっていい顔になったので、元の世界ではきっとちやほやされたはずだ。
さて、異世界に来たと言えばよくある展開だと、生きていくのに便利なチート的な何かであったり神的な何かとの対面があったりするものだ。異世界モノをそこそこ楽しんでいた俺としては結構期待していたし、楽しみでもあった。
しかし、こちらに来てから数年。俺の中で何かに目覚めた感じはない。
代わりに俺に訪れた事といえば、先程の長身フード男から出合い頭に「……貴方、もしかして魔女狩りでは?」と意味不明なセリフを言われたことくらいだ。
「……」
俺のつぶやきにも、天上の存在は何の反応も示さない。縦に尖った形の良い耳は俺の声を間違いなく拾っているはずだ。敢えて無視しているのかそれともこちらの言葉を理解できないのかは分からないが、これからすることに対しては都合がよい。
「……抵抗はするなよ」
「……」
一声かけてから、両手足を自由にするべく懐からナイフを取り出す。縄を切り終えたころ、両手足が自由になった女性を見て思う「逃げないのか」と。
色々な事情が絡んでいるのだろうが、ここに居てもろくな目に合わないことは分かったはずだ。一か八か逃げるべきだ。
しかし、何度も逃げた先の結果がこれなら……どうなのだろう。
もう嫌になったのか、諦めてしまったのか。
そんなことを考えながら、俺は肩にかけていた暗い布地のカバンを地に置き、中から儀式用の衣服を取り出す。薄手の淡い桃色の衣服は天女を思わせるようだ。
「……いや、エロ過ぎるわ」
素材の良さと色合いで騙されたが、よく見たらかなり透けている。
え? これを俺が着せるの?
異世界生活 リンゴ売りの騎士 @hima-ringo
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