お隣の女優とゲームの話 三

 その後、基本的な操作の仕方を伝えると、水野さんは、「隼人君ありがとう。よし、これで大体戦い方は覚えたよ! これで誰と戦っても勝てる!」と、自信満々と言った様子で声を上げた。


 そして、水野さんは僕の方を向くと、「隼人君、早速色んな人と対戦をしたいんだけど、どうしたら良いかな」と、尋ねてきた。


 正直、僕的にはもう少し練習をしてからの方が良いのではないかと思ったが、そのやる気に水を差すのは良くないのではないかと考えた。


 そこで、取り敢えず一回戦ってみて、こういうもんだ、という事を理解するのが良いのではないかと思い直した僕は、「僕が準備しますよ」と、水野さんに声を掛けると、コンピュータとの対戦の設定をしてからコントローラーを手渡した。


「後は、キャラクターを選んでから少し待てば対戦が始まります。一番弱い設定にしたので、頑張って下さい」


 水野さんは、「ありがとう」と言って、コントローラーを受け取ると、「よし、この子にしよう」と言って、先程、僕との練習で使っていたキャラクターを選択した。


 そして、対戦が始まると、水野さんは、「行くぞ!」と言って、一生懸命キャラクターの操作をし始めたのだった。



「……ま、負けた」


 最初は、自信満々と言った様子の水野さんだったが、操作ミスが多くあり、気が付けば、コンピュータに敗北していた。


「ま、まぁ、まだ初めてほとんど時間が経っていないですし、これからですよ」


 ガックリと項垂れる水野さんに声を掛けると、水野さんはゆっくりと顔を上げた。


「そうだね。こんな事でへこたれていては駄目だよね。よーし、頑張るぞ!」


 そこから、水野さんは、少しでも時間があると、僕の家に来て、ゲームの練習を行った。


 そして、ゲームの練習を始めた時から一週間経過した。


「……私ってセンスがないのかな」


 水野さんはすっかり意気消沈していた。


 最初の内は、初心者だから、という励ましの言葉が効いていたが、あまり勝てない状況が続き、その言葉も効力をなくしかけていた。


「そんな事ないですよ。最初より全然上手くなっていますよ」


 僕の言葉に水野さんは静かに首を横に振った。


「そうかもしれないけど、上達の早さがかなりゆっくりなのは自分でも分かるよ」


「……水野さん、今度は僕と対戦しませんか」


「……うん、良いよ」


 水野さんがそう言ったのを聞いて、キャラクターを選ぶ画面にすると、僕は口を開いた。


「水野さん、気分を変える為に違うキャラクターを選んでみたらどうですか?」


「そうだね。そうしてみようかな」


 水野さんはそう言うと、今までずっと使っていたキャクターとは別のキャラクターを選択した。


 対戦が始まってキャラクターを動かすと、水野さんは、「おお〜」と、声を上げた。


「技だけじゃなくて、キャラクターによっては動かし方も違うんだね。このキャラクター、面白いかも」


「どうですか。水野さん、面白いですか?」


 僕の言葉に水野さんは頷いた。


「うん、思ったよりキャラクターによって違いがあるから、今すごく楽しい」


「水野さん、強くなるのも大事ですけど、勝っても負けても楽しいって思えるのがゲームの良い所だと思います」


 僕の言葉に水野さんは少し考えた素振りを見せるとゆっくりと口を開いた。


「……そうだね。隼人君の言う通りだ。ゲームは楽しんだ方が良いよね」


 その言葉に僕が頷くと、水野さんは、「うーん」と言ってら腕を伸ばした。


「そうしたら、友達にゲームを教えて貰いながらお話をするって感じにしようかな」


「それが良いと思います」


 そう言って僕が頷くと、水野さんがジッとこちらを見ている事に気が付いた。


「ねぇ、隼人君とゲームをするのが楽しかったから、今後も一緒にゲームをしてくれる?」


 僕は、水野さんに微笑みかけると、「僕も楽しかったので、是非やりましょう」と言った。



 水野さんは僕の言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべると、「ありがとう」と、呟いたのだった。

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