お隣の女優とメガネの話

「そう言えば、隼人君の学校って中間テストはいつ? そろそろじゃない?」


 本日も僕の家で夕食を食べ終え、リラックスモードになっていた水野さんがふと思いついた様に突然声をあげた。


「そうですね。ちょうど来週からです」


「私の高校もそうだよ、だいたいどこも一緒だよね」


 僕が「そうですね」と軽く頷くと、水野さんは心配そうな表情を浮かべた。


「隼人君、テスト勉強の方は大丈夫? もし、隼人君が勉強したいのなら、テスト期間中は私、隼人君の家に行くのを控えるよ?」


 水野さんのその言葉に僕はゆっくりと首を横に振った。


「水野さんが来る前とか来ない日に少しずつテスト対策を進めているから大丈夫ですよ。まぁ、数学が少し心配ではありますけど、僕にとってはこの時間は楽しいですし、息抜きみたいなものですから心配しなくても大丈夫ですよ」


「そう言ってもらえると嬉しい。私も隼人君とお話したり、ご飯食べたりするの楽しいから」


 水野さんはゆっくりと息を吐いた。


 水野さんはどうやら僕の勉強時間について心配をしていてくれた様だ。


 しかし、その様な会話をしていると、僕の方にも心配な事が一つ出てきた。


「僕もそう言ってもらえて嬉しいです。でも、水野さんこそ仕事が忙しい中で勉強は大丈夫そうですか?」


「私も撮影の合間とかに少しずつ取り組んでいるから、そんなに問題ないよ」


「それは本当にすごいですね」


 流石、高校生にして女優として有名になっている彼女だ。


 彼女の陰ながらの努力に本当に頭が下がる。


 その思いを込めて伝えると、「そんな事ないよ」と、水野さんは言ったが、その表情は満更でもない様子だった。


「でも、隼人君は数学が苦手なんだ。なんか意外かも」


「昔から公式とかは覚えられるんですけど、応用問題が苦手で……」


 僕の言葉を聞いて水野さんは顎に手を当たると、何かを考え始めた様だった。


「そうしたら私が教えようか?」


 そうしてしばらく時間が経った時に水野さんが突然、そんな提案をしてきた。


「水野さん仕事終わりなのに大変じゃないですか?」


「隼人君とお話ししながらだから、そんな事ないよ。それに復習にもなるからね」


 戸惑いながらも僕が尋ねると、水野さんは優しく微笑みながら、そう言葉を返した。


「それならお願いしても良いですか」


 水野さんは去年勉強した範囲であるし、教えて貰えるのであればとてもありがたいと思った僕がそう言葉を返すと、水野さんは、「勿論」と言って、頷いた。


 まさかの展開に僕が緊張を感じていると、水野さんが何かを思いついたのか声を上げた。


「そうしたら、私は家から持ってくる物があるから勉強の準備をしといてくれる?」


 そう言うと水野さんは自分の部屋に戻って行った。


 文房具を取りに行ったのだろうか。


 そう思い数学の教科書を広げていると玄関から「戻ったよー」と声が聞こえ、すぐにリビングの扉が開かれた。


 水野さんの姿を視界に入れた途端、僕の動きは固まった。


 なんと水野さんはメガネを掛けていた。


 僕と目が合うとメガネをクイッと上げ優しく微笑みながら、「似合ってる?」と、一言。


 普段の大人な雰囲気も相まってとても似合っている。


「勉強するとしたらこれかなと思って。……似合ってなかった?」


 反応が無いことが心配になったのか、水野さんは伺う様に声を発した。


「いや、そんな事ないです。取り敢えずワイシャツを着てもらっていいですか?」


「視線がいやらしいから却下です」


 僕の願望がピシャリと跳ね除けられた後、「隼人君、意外と変態だったんだ。罰としてスパルタね」と、その一言で勉強会が始まり、僕は悲鳴を上げるのだった。

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