お隣の女優と大型連休の話

「世間はゴールデンウィークだね、隼人君」


 夕食後、僕と水野さんはソファーに座りながらテレビを見ていた。


 テレビの画面では帰省ラッシュの映像が流れていてゴールデンウィークの様子をレポーターの人が教えてくれている。


「そうですね」


 僕が頷いてそう答えると、水野さんは口を尖らせた。


「みんな休みなのに私だけ働いているのは不公平」


「いや、でも、働いてるのは水野さんだけじゃないですから……」


 どうやら、水野さんはゴールデンウィークが恋しかったようだ。


 まぁ、周りだけ休んで楽しそうにしていたらそう思うだろう。


 そう思いつつ、僕はそう言って水野さんの気持ちを宥めようとした。


「今日お休みだった人に言われたくないです〜」


 しかし、水野さんはそう言うと、さらに不満そうな表情になってしまった。


 そう言われてしまうと僕が何を言っても無駄だろう。


 そう思いつつも水野さんの気持ちも理解をする事は出来るので、なんとか機嫌を直して欲しいと思った僕は一つ提案をする事にした。


「それだったら、何か料理のリクエストありますか? 今日もそうですけど、休みの日なら手の込んだ料理も作れますよ」


 休みの日という事もあって、僕は今日の夕食に手の込んだ料理を作っていた。


 ここ数回食事を共にして思った事だが、水野さんはどうやら食べる事が好きなようで、普段も美味しそうに良く食べてくれている。


 その水野さんが今日はいつも以上にお代わりをしていたので、これで少しは機嫌を直してくれると良いな、と考えての提案だ。


「確かに今日のは美味しかったけど、いや、いつものご飯も美味しいけど。今日も結構お代わりしちゃったし、私の食べたい物をリクエストしたらもっと食べちゃいそうで……」


 そう言うと、水野さんは自分のお腹に視線を落とした。


「 ただでさえ、隼人君が料理を作ってくれる様になってから食べる量が前より増えたから、お腹周りが心配になってきたし……」


 そう言う水野さんの視線につられて、僕も水野さんのお腹に視線を移した。


「出会った頃と変わってないと思いますけど……」


 すると僕の視線に気付いた彼女は慌てて両腕でお腹を隠す。


「そう思っても、女子の身体の事を言っては駄目だよ!」


 水野さんにその様に言われて、間違いに気が付いた僕は慌てて口を開いた。


「す、すみません!」


 僕が謝っても水野さんはムスッとした表情のままであったが、しばらくすると、水野さんが小声で何かを言った様な気がして、僕は尋ねる為に口を開いた。


「水野さん、何か言いました?」


 僕が聞くと水野さんは、顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも口を開いた。


「……その、本当に太っている様に見えない?」


 どうやら、先程、僕が言った言葉が本心かどうかを気にしている様だ。


「はい、全然変わっている様には見えませんよ」


 ここで誠意を見せないと、と思った僕は勢い良く言葉を口にした。


「……それなら、今度、私のリクエストをした料理を作ってくれたら許してあげる」


 口調は相変わらず不満そうだが、表情は先程よりも少し和らいだ気がする。


「……それなら、全力で美味しくしてみせますね」


 僕が言うと、水野さんが期待に満ちた目をこちらに向けた。


「……楽しみにしてる」


 そう言う水野さんの口元は嬉しそうに緩んでいたのだった。


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