お隣の女優と寂しさの話
それは、僕がそろそろ夕食の準備をしようとした時の事だった。
テーブルの上に置いてあったスマートフォンが振動した。
誰からか連絡が来たのだろうか。
そう思った僕は、スマートフォンを手に取って画面を確認すると、水野さんからのメッセージが届いていた。
そこには、『隼人君、こんばんは。突然だけど、今から隼人君の家に行っても良い?』と、書かれていた。
どうしたのだろう、と思いつつも断る理由なんて特に無い僕はスマートフォンを操作して、『大丈夫ですよ。夕食の準備をしながら待っていますね』と、文章を打ち込むと、送信ボタンをタップした。
するとすぐに、『ありがとう! 準備してから行くね』と、水野さんからのメッセージが送られて来て、僕はそれを確認してから夕食の準備をする為に椅子から立ち上がったのだった。
料理の準備をしていると、インターフォンの音が鳴った。
恐らく水野さんだろうと思った僕は、料理の手を止めて玄関に向かった。
「こんばんは、隼人君。突然連絡しちゃってごめんね」
「こんばんは、水野さん。僕は別にいつでも大丈夫ですよ。取り敢えず、中にどうぞ」
僕がそう言って招き入れると、水野さんは、「ありがとう」と言って、洗面所へ向かった。
僕が台所に戻って料理の準備を再びし始めると、水野さんがやって来た。
「もう少しで出来上がりますから、椅子に座って待っていて下さい」
「ありがとう」
僕の言葉に水野さんは頷くと、「今日も良い匂いがするね」と言いながら、椅子に腰を下ろした。
水野さんが突然僕の家に来た理由が気になるが、水野さんから話す気配が見られないし、今すぐに聞いて欲しいという事でも無い様なので、先に夕食にした方が良いだろう。
そう思った僕は料理を完成させる為に再び手を動かし始めたのだった。
「その、今日ここに来たのは、寂しくなっちゃったからなの」
そして、料理が完成し、それを食べ終えると、水野さんは僕が用意した食後のコーヒーを一口飲むと、少し恥ずかしそうにしながらそう呟いた。
ただ漠然と、『寂しくなっちゃった』と言われても、励ましたら良いのかすら分からない。
「部屋に一人で居るのがって事がですか?」
そう思った僕はある程度当たりを付ける為に水野さんに尋ねた。
「そうなの。今までは一人で居る事が当たり前だと思っていたから、一度もそんな気持ちにならなかったんだ」
水野さんはそう言うと、僕の顔をジッと見つめた。
「でも、最近、隼人君の家で何度か夕食をご馳走になっている内に、人の家だけど、家でご飯を食べる事が良いなって思うようになったの」
水野さんのその気持ちは僕も良く理解する事が出来た。
僕も今まで基本的には一人でご飯を食べていたから、ここ最近、水野さんと夕飯を共にする機会が増えた事で、誰かと一緒にご飯を食べる事が出来る楽しさや有り難さを感じていた。
僕は頷くと、「僕も同じ様に感じていたので、水野さんの気持ちは良く分かります」と呟いた。
水野さんは僕の言葉に微笑むと、再び口を開いた。
「だからか分からないけど、今日、一人で夕飯を食べようと思った時に急に寂しくなっちゃって、隼人君、家に居るかなって思って連絡したの」
そう言って視線を下げた水野さんを見て、同じ寂しさを感じていた僕はどうにかしてあげたいと強く思った。
「……水野さんさえ良ければですけど」
僕がそう言葉を口にすると、気になったのか、水野さんの視線が再び僕の事を捉えた。
「……水野さんも忙しいと思うんで暇な時で良いので」
僕は言いながら恥ずかしくなり、つい予防線をいくつも張ってしまったが、水野さんはそれでも呆れる事無く、僕の話を聞いてくれていた。
「その、一緒に夕食を食べませんか?」
「……良いの?」
僕の言葉に水野さんは驚いた表情を浮かべると、そう呟いた。
「勿論、僕が提案した事ですから」
「…‥大変じゃない?」
水野さんの言葉に僕は首を横に振った。
「前にも言いましたけど、一人分も二人分も手間はほぼ一緒なので、全然大変では無いですよ」
「…‥それなら、その、お願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして僕と水野さんは夕食を共に食べる事になったのだった。
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