お隣の女優と出会いの話 三
あの後、なんとか料理を完成させた僕は、水野さんが待つテーブルまでご飯を運んだ。
水野さんは並べられた料理を見て、「えっ、すごい美味しそう!」と言って、目を輝かせる。
あまりにも良い反応に、僕が、「大した事無いですよ」と言って、苦笑いをした。
すると、水野さんは、「いやいや、すごいと思うよ? 早く食べよう?」と言って、僕を急かしてきた。
そして、水野さんが手を合わせたので、僕もそれに
水野さんは早速一口食べると、「美味しい!」と言って、満足そうな表情を見せる。
僕はその様子を見て、どうやら水野さんのお口にあった様だ、と思い、そっと胸を撫で下ろした。
「隼人君って、何者なの? 高校生だよね?」
水野さんは、僕が着ていた制服をジッと見ると、疑う様な口調で尋ねてきた。
「普通の高校二年生ですよ」
その言い方が面白くて、笑みを浮かべながら言葉を返すと、水野さんは、「へー」と言って、感心した様子を見せた。
「隼人君って私の一歳下なんだ」
「……水野さんって、高三だったんですか?」
水野さんの言葉を聞いて、てっきり大学生くらいの年齢だと勝手に思っていた僕は、つい驚いて水野さんに尋ねた。
すると、水野さんは、「そうだけど、それがどうかしたの?」と言って、不思議そうな顔をした。
「いや、てっきりもっと年上かと思っていました」
僕が言葉を返すと、何故か水野さん不満そうな顔になった。
突然、どうしたというのだろうか。
僕がそう思って、戸惑っていると、水野さんがゆっくりと口を開いた。
「……隼人君は、私が老けているって言いたいの?」
その言葉を聞いて、ようやく水野さんが不機嫌になっている理由が分かった僕は慌てて首を横に振った。
「違いますよ! 大人っぽいって思っていたんです」
僕が誤解を解く為に説明をしたつもりだったが、水野さんの表情はまだ不満そうなままだ。
「本当に? たまにトゥイッターでも、『女優の水野風花、なんか最近老けた気がする』って、投稿をたまに見るけど……」
水野さんはエゴサーチをするタイプなのか。
「多分、その人は水野さんに嫉妬して、その当てつけで投稿しただけだと思いますよ? 少なくとも僕はテレビで見るよりも綺麗だと思っていますよ」
実際、こんなに綺麗な人と何処かですれ違ったら、つい目で追ってしまうことだろう。
「そ、そう? そう言ってもらえると嬉しいかも。その、ありがとう、隼人君」
そこからはたわいも無い話をしながら、食べ進め、互いに完食した時だった。
「あっ、メッセージが来たかも」
水野さんはそう言ってポケットからスマートフォンを取り出して、それを弄り始めた。
やがて、メッセージを読み終えたのだろうか。
水野さんはホッとした様な表情になると、スマートフォンから顔を上げて、僕の方を見た。
「マネジャーさんから、今、マンションに着いたって連絡があったから、そろそろ行くね」
水野さんはそう言うと、荷物をまとめて玄関の方に向かう。
僕も見送りの為に水野さんの後を追って玄関に向かった。
「隼人君、今日はご飯をご馳走してくれてありがとう。今度、お礼をするね」
「気にしないで下さい。困った時はお互い様ですよ」
水野さんは、「隼人君は優しいね」と、少し困った様に微笑むと、しゃがみ込んで靴を履いた。
「それじゃあ、隼人君、またね」
水野さんはそう言って手を振ると、扉を開けて、外に出て行った。
もうあまり関わる事もないかもしれない。
そう思っていた僕は水野さんの、『またね』という言葉を嬉しく思い、僕も手を振りかえすのだった。
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