感嘆疑問符!?
異様なほど植物の姿が見えず、下を向けば、乾燥し、荒れ果てた地面で視界が埋め尽くされるこの場所では、ことさら影が強調されている。
だから、魔物の死骸をいじくりまわしている最中ふと、元魔物の足から伸びる影が、小休憩できそうな程度まで延びていることに気が付いた。
ボンさんを見送った時、影はほとんど真下にできていたはずだ。夢中になっていたせいか、時間の経過を全く感じなかった。
「んぁーーーーーー」
凝り固まった手足をピンと伸ばすと、意味を持たない言葉が口から漏れ出ると同時に、体の節々からゴリゴリやパキパキなどの何とも言えない音と感覚が伝わってくる。
一通り体が解れた所で息をつき、いじくりまわす過程で大小さまざまな石ころになり果てた、魔物の死骸の一部をぼんやりと眺める。
すると、目の前の残骸たちを残骸たらしめる最中、考えないよう放置していた不満を認めないことは困難で、
「あぁ、なんにも見つからない・・・・・」
と、呟いてしまっていた。
言語化されてしまっては、意識せずとも思考は巡る。
そうだ、いち早く好奇心を満たすためだけに重症を負ったお父さんを子供一人に任せ、ボンさんを嘘で誤魔化してまで用意した、自由に実験する為だけの、私欲の為だけのこの状況は、今の所なんの成果も出せていないのだ。
「いや、でもでも、確かにお父さんの両足は大変なことになってたけど、あのお父さんだしあれくらいじゃ何ともなさそうな感じがして、そこまで心配じゃないって言うか、心配できなかったって言うかね?」
・・・
「それに、あのお父さんをボコボコに出来た魔物の死骸だし、調べれば魔法に関する新しい発見が10個や20個見つかると思ってたんだよ!」
「というかそもそも、魔法で便利なことができるようになったら村のみんなのために活用するし、完全に100%好奇心のためだけじゃないって事を理解して欲しいというかなんというか・・・・」
「って、俺は誰に言い訳してるんだ・・・・」
そんな言葉も、この地面のように乾燥した空気へ消えていったような気がして、急に、いや、急という言葉は適切じゃないけれど、
さっさと帰るか。と思った。
お父さんの様子を見るためにも、ボンさんから言われた通りにするためにも。
――――――
ぱーちゃんを探すために走った道を一人で戻る間、お父さんの怪我について考えていた。
お父さんの両足は、俺が知っているはずの人類ならば、素人目にも間違いなくそのまま死ぬと確信させる程度にはグズグズのズタボロになっていた。
ただ何というのだろう、いくら大きな地震が来ても、知識がある人間ならば地球が真っ二つになるかもなんて一瞬たりとも考えないように、そんな状況のお父さんを見ても、お父さんが死んでしまうかもしれないとは少しも考えなかった。
この信頼とも呼べない感覚は何なのだろう。
そんな疑問を抱きつつも、自分の知識の中に大怪我の際役に立ちそうな情報がないかと思案する。
(添え木なんてものがあったか。確か、骨折した手足に木を括り付けて固定すると、骨が正常な形に治りやすいんだっけ・・・・?)
(お父さんからすれば木なんて柔すぎるし、石とかの方が良いのかな?)
(骨折の種類について詳しくはないけれど、あれだけぐちゃぐちゃになっていたら粉砕骨折ってやつだよな?粉砕骨折にも添え木ってしていいのか?)
うろ覚えの知識を基にあれこれ考えていると、いつの間にやら森を抜け、村に着いていた。
村では子供達が猛スピードで走り回っていたり、大人たちが自身の体積の4倍はあるだろうかという物を軽々と運んでいたり、いたって平穏で平常だ。
しかし、ボコボコにされたお父さんを発見したりそーちゃんのあれを実戦で試したり、魔物の死骸をいじくって何か特別の反応でも起きないか試しまくったりなど、今日の非日常さと比べると、あまりにも日常的過ぎる村の様子に少し驚いた。
村の中でも相当強い方ではあるはずのお父さんがズタズタのボコボコにされて戻ってきたのに、心配したり怖くなったりして雰囲気が重くとか・・・・一切ないのか?
村の誰もお父さんの怪我を心配していない?いや、心配する必要がない?
もしかして、村には怪我を簡単に治す魔法的な何かがある・・・・のか?
俺の足は自然と速くなった。
もちろん、急に心配になったわけじゃない。俺の常識の外にあるような、怪我を治す魔法的な技法があるのだとしたら、それを一瞬でも早く知りたかった。
そーちゃんと初めて会った日、この世界には魔法や魔物があって、ダンジョンなんてものも存在すると聞いて驚いた。そして猛烈に興味が湧いた。全く知らないことを解明して、知りつくしたいと思った。
この世界では常識過ぎて、教えるという段階に至らないような俺の知らない当たり前がそこにあるかもしれないなんて、ワクワクするに決まってる。
自分が殆ど走っている事実に気が付くと同時に分かった。俺は、猫と同じで好奇心に殺されるタイプの人間だったらしい。
殆ど走っている状態からピタッと家の扉の前で急停止し、何かの皮をぶら下げただけの扉を開け放つ。
家の中では、アルとぱーちゃんとそーちゃんが少しいびつな三角形で謎の指遊びをしていて、お父さんは横に寝転んで三人の指遊びを眺めていた。そしてお父さんの足は・・・・
「!??!」
まず最初に、言語化できないような驚きの声?が出た。
次に、なんとなく想像していたすべてのパターンと異なるそれ何とか形容しようとした。
「え、その足の、木みたいな―――「おぉ!リュウおかえり!」「おかえりー」「遅かったね」「お、おかえり」
がしかし、お父さんの大きな声と、アル達の迎えに搔き消された。
「あ、ただいまー」
挨拶も早々に、指遊びを再開したがるぱーちゃんとそれに付き合う二人を確認し、改めてお父さんの足のそれをまじまじと観察する。
それはかさぶたのような赤黒さと、枯れた植物のような焦げ茶色を掛け合わせたような奇妙な色で、老いた樹木の、剝がれかけの樹皮のようなそれが、お父さんの両足をすっぽり覆っていた。
それは何とも言えない神秘性、あるいは悪性を孕んでいるようで、正直言って気持ち悪い。
俺がお父さんの足のそれに対する観察を大体終えた頃、お父さんが何やらうんうんと頷き、少しうれしそうに話し始めた。
「リュウ、心配しなくていいぞ!お父さんこんな大きな怪我したことないけど、ちゃんと治るはずだから!お父さんたちの事助けてくれて、ありがとうな!」
俺が怪我をした足をずっと見るもんだから、心配していると思ったのか。
(お父さんごめん!お父さんなら大丈夫だろうって感じで全く心配じゃなかった!足の奇妙な奴を観察してただけなんだ!)
「あぁえっと、どういたしまして・・・と、というか、その足の奴ってなに?」
「ん?なにって言うのは・・・・あぁ!そうか、リュウはまだ怪我したことなかったのか!」
これまたお父さんはうんうんと納得したように頷きながら言う。
(怪我・・・そういえば、この世界に来てから一度も、小さな怪我すらしたことがなかったな。とんでもない高さから落下してもまあまあ痛いで済むこの世界じゃ、怪我をする方が難しいのか)
「怪我をしたらその変な・・・気持ち悪いやつができるの?」
「そうだぞー、これは瘡蓋って言うんだ。今回はこんなに大きいけど、普通の小さい傷とかなら瘡蓋もちっちゃいんだぞ?そしてこの瘡蓋は大体三日くらいで自然と剥がれてな、剥がれる頃にはほとんど傷が治ってるんだよ」
「へーーーそうなんだ・・・・」
(名前はかさぶたと一緒なのか。そして内容もほどんど俺の知ってるかさぶたと一緒だけど、俺の知ってるかさぶたは三日では剥がれないし、足全体を覆うようにできたりはしない。やっぱりこの世界とあの世界じゃ、人間の作り自体が違うんだな)
すると横から、指遊びで負けて暇になったらしいアルが話に混ざる。
「そういえば俺も怪我したよ!ほらっ!」
アルは自分の服をまくり、自分の横っ腹を見せた。
アルの横っ腹には、切り傷があったのであろう位置に横長の奇妙な瘡蓋が出来ていた。
小さい瘡蓋でも、お父さんの足の瘡蓋と同じように気持ち悪い見た目らしい。
「なんか、気付いたら出来てたんだよね、ちょっと痒いや」
「そうだったのか、他に怪我はないのか?」
「うん、ないよ!魔物もりっくんとそーちゃんが魔法でどうにかしてくれたしね」
(あ、この流れは魔法の話になる)
「そういえば・・・リュウに伝えておくことがあるんだったな」
「え、なに?」
「リュウとソールくんが魔物を倒すために使った魔法がどんなものなのかを、村のみんなが教えて欲しがってるんだよ」
「あっ!ぱーちゃんも魔法見たい!白くなってばーってなるやつ!」
まだ指遊びの途中だったはずのぱーちゃんが突然こっちに混ざってきた。
そのぱーちゃんの後ろで、そーちゃんはしょんぼりとしている。自分の考えた指遊びが急激に飽きられて悲しいのだろう。
諦めたほうがいい、子供とはそういう物だ。
「ちょっとまって、そーちゃんと話し合うから」
座ってうつむくそーちゃんの元に行き、耳打ちをする。
「そーちゃんどんまい。それより、あれを村の人たちが教えてほしいって言ってるけどどうする?」
「どうするって、普通に見せれば良いんじゃない?」
「でもでも、あれがどういうメカニズムなのかも分かってないのに大勢の人に見せるって、なんかだめじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ!大勢の人に何か見せるときは、もっと正式に、正確に分かってからじゃないと」
「でも、すぐに解明できるの?あれがどうなってるのかを」
「た、たしかに・・・・」
「あと少しで全貌が分かるとかなら待ってもらうのもいいけど、まだかけらも分かってないでしょ?それなのに待ってもらう方がだめなんじゃない?」
「わ、分かった、でも、さすがにもうちょっと実験してからにしよう?」
「うん、そうしよう。三回しかあの状態になってないし、安定してできないかもだしね」
「えっと、話し合いの結果、村のみんなに教えるのはちょっと色々準備してからってことで・・・・」
「いつぐらいにならできるんだ?」
「明後日かな?」
「そうしよう、僕、今日は疲れたから休みたいや」
「わかった、皆にそう伝えておくよ」
――――――
この後、そーちゃんの熱い希望により、俺を入れた四人で、独特なルールと競技性がなかなかに面白い指遊びをしまくり、時間が来てそーちゃんが帰った後も、ぱーちゃんの希望により指遊びをしまくった。
さすがに全員が飽きてきた頃、アルが突然「相談したい事があるから二人きりで話したい」と耳打ちしてきた。
トイレに行くと偽って家を出て、歩く事一分ほど。
見たことがあるようなないような、少し甘い香りのする白い花が群生している場所に到着し、ちょうど座りやすくなっている段差に隣り合って座った。
そこで、アルから誰にも言えない相談を受けた。
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