戦利品
網膜が焼き切れるんじゃないかというレベルの光と共に、抗うという考えが浮かばないほどの風に吹き飛ばされて、木の幹に叩きつけられて、押し付けられて。
それらがようやく収まって目を開けてみると、文字通りの惨状が出来ていた。
地面は分厚くめくれあがり、幾本もの木々が、地中に張り巡らせていたはずの根を外気にさらして乱雑に横たわっている。
先程まで魔物が居た方向へ視線を向けてみれば、
胴体を失って地に伏せる魔物の頭部と、接合していたはずの胴体が消し飛んだことで自立した、魔物の元足である歪な岩々がそこにはあった。
アルと対峙していた時は圧倒的な力を持つ暴力の権化のようだった魔物は、既に憐みの対象と成り果てていた。
「予想通りというか、予想以上にすごいなこれ・・・・」
それらの惨状を生み出した本人であるそーちゃんの体は大丈夫なのかと少し心配していたところ、魔物の残骸の傍に、素っ裸で縮こまっているそーちゃんを見つけた。
「おーーーい!!そーちゃん大丈夫?」
「大丈夫だから!!早く服持ってきて!」
森の一部をぐちゃぐちゃにしたり、魔物の胴体を消し飛ばしたりを自分がしたことよりも、そーちゃんは服を着ていないことの方が気になるらしい。
「早くー!」と急かすそーちゃんの元に小走りで向かい、用意しておいた変えの服をぽいっと投げ渡す。
「ありがとう・・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
服をキャッチしたそーちゃんは、服を着ずに俺をじっと見つめている。
もしかしてと思い、後ろを向いてみたらゴソゴソと動物の皮で出来た硬い服を着る音がしだした。
そーちゃんは裸を他人に見られるのが相当恥ずかしいらしい。
俺は後ろを向きつつ、引っこ抜かれた木の根に向かって話しかける。
「えーっと・・・服着終わったらとりあえずアルとぱーちゃんを起こそうか、崖に叩きつけられたみたいで二人とも伸びてた」
「わかった・・・そういえば、大人の人が3人くらいいたよね?一人だけすごい怪我してるみたいだったけど」
「あ、そうだったね、一番怪我がひどいお父さんを先に運ぼう、そーちゃん頼める?」
服を着終わったそーちゃんが、俺の視界に入りこみながら驚いて聞く。
「いいけど・・・え?あの人ってりっくんのお父さんだったの?」
俺は二人の方向に、そーちゃんはお父さんの方向に歩きながら答える。
「そうだよ!前に話した、めっちゃ強い魔物を一撃で倒したあのお父さんだよ」
「そんな人に勝っちゃったこの魔物って、どれだけ強かったんだろう・・・」
一度立ち止まり、二人で自分たちの体よりも大きい魔物の足だった部位を見上げる。
「・・・・それは・・・・後でお父さんに聞こうか」
「あっ、うん、そうだね・・・・」
――――――
ぱーちゃんとアルに声をかけ続けると、先にぱーちゃんが起きた。
「ん・・・・あ・・・あれ、りっくん?」
「そうだよ、怪我はない?」
ぱーちゃんがきょろきょろと自分の体を見回して確認する。
「ないよ、お兄ちゃんが守ってくれたから!」
「おお、さすがお兄ちゃんだね」
「うん!・・・・あ・・・」
「どうしたの?」
「そういえば、すごくでっかい黄色の怖いやつはどうなったの?」
「魔物のこと?それなら・・・・こんな感じだよ」
俺は横にずれ、魔物だった残骸をぱーちゃんに見せる。
「なにこれー!頭と足だけになってる!ねぇねぇどうやったの?」
「どうやったか・・・・えーっと、うーん・・・」
(なんて説明しようかな・・・・)
「あ・・・・そう、魔法だよ」
「・・・・すごーい!魔法でばーーってやったんだ!すごい!!」
「そうそう、魔法はすごいんだよー」
「アルはどんな感じ?」
「お兄ちゃんなんだか疲れちゃったみたいだから、寝かせてあげなきゃだめだよ」
「でも、後二人ごつい大人を運ばなきゃいけないんだけど・・・・」
「うーん・・・・・その人たちに歩いてもらうのはダメなの?」
「あーー・・・・見た感じそんな怪我してるってわけじゃないし、そうだね、歩いてもらえば良いのか」
「りっくんバカだー!あはは」
よかった。笑えるくらいには元気らしい。
「ところでぱーちゃん、アルを背負って村まで運んでおいてくれない?」
「うん、いいよ!お兄ちゃんってすっごく軽いから簡単だよ!」
「帰る方向分かる?」
「もちろん!」
元気いっぱいに答えると、ぱーちゃんは宣言通り軽々とアルを背負い、小走りで森へと入っていった。
「ぱーちゃんにはああ言ったけど、実際この人たちって歩けるのかな・・・・」
名前は知らないが村で何度か見たことがある二人は、お父さんと比べれば怪我なんてないようなレベルだが、見えないだけで骨折とかしてたりするんじゃなかろうか。
――――――
「・・・・・・・・・んあ?」
「あ、起きましたか?」
俺は手に持っていたものをさっと隠し、今起きた中年のごつめな男性の元へさりげなく歩く。
「君は・・・・リーセルのとこのリュウ君か!ここはど―――
男性は急に言葉を止め、驚いた表情で固まっている。
「どうしました?」
「え・・・・あれ・・・・なに?」
急にカタコトになった理由は、魔物の死骸らしい。
「あぁ、あれは・・・魔物の死骸ですね」
「魔物?・・・・そうだ思い出した!俺が妙な小石を見せた後、すごい力で押しつぶされたんだ!こいつだ!こいつが俺を踏んだのか!」
何やら納得したらしい。俺たちが来る前にいろいろ戦闘があったのだろう。
「そういえば、シャルとリーセルは何処だ?」
「お父さんは怪我がすごかったので今村に運んでもらってます、あと、シャルさんは多分横で寝てる人じゃないですか?」
「おお、シャルもやられたのか・・・・・」
「リーセルがやられるだなんて、そこまで強い魔物が現れたのか・・・最近魔物が多い理由もまだ何もわかっていないし・・・この件は集会でもっと話し合った方がいいな・・・」
男性は顎に手を当て、ぶつぶつと何かを言っている
「どうしたんです?」
「あーいや、これは大人の話だ、気にしなくていいんだよ」
「そうなんですか」
「ん?リーセルはひどい怪我だったって言ったよな・・・じゃあこの魔物は、誰がこうしたんだ?」
「あーそれは・・・・お・・僕と、ソールくんが魔法で倒しました」
「・・・・はーーーそうかぁ!魔法で!いやーーーちっこいのにすごいなぁ!感動した!村で結構噂になってるよ、リュウくんたちが魔法の勉強をしてるとかなんとか!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「いやーーーすごい!本当にすごい!うちの息子にも見習ってほしいよホント!」
「あはは・・・いやいや、とんでもないです」
なんだか親戚のおじさんと話してるみたいだ・・・悪い気持ちはしないけど、どうにも押しが強くて引き気味になってしまう。
その後も数分ほどボンさんという親戚のおじさんのような人の話は続き、隙を見てシャルさんを村に運んでもらうよう頼んだ。
ボンさんがシャルさんを軽々と背負い、笑顔で言う。
「よし、村に戻るか!」
「あっ、それなんですけど、僕はここに少しだけ残ります」
「ん?なんでだ?」
当然の疑問だ。誤魔化す為の言葉はちゃんと考えてある。
「魔法で、やらないといけないことがあるんです、魔法で」
「そうか、魔法のことならしょうがないか・・・」
魔法って言えば大抵のことを誤魔化せるんじゃなかろうか。
「一人でちゃんと帰れるか?」
「あ、はい、ありがとうございます大丈夫です」
「遅くなってあんまり心配かけちゃダメだぞ?」
「はい、わかりました」
「すごいなぁ、そんなに小さいのになぁ一人で帰れるんだもんなぁすごいなぁ」
ボンさんはうんうんと頷きながら歩いていき、森に入る前に「じゃあまた今度おじさんと話そうな!」と叫びとも言っていい声量で言い残し、去っていった。
俺はボンさんが戻ってこないことを10秒程待って確認し、作業を再開する。
そーちゃんは魔物は死ぬと黒いもやもやになって空中に消えると言っていたし、実際に俺も消える所を見た。
なのにこいつは未だいびつな形の岩々として残っている。
もしかしたらまだ生きていて、潜伏しようとしているんじゃないかとも考えたが、足と頭だけの状態で生きているとはさすがにちょっと思えない。
こいつがなんで消えないのかは分からないが、こいつはもともとあのお父さんすらボコボコにできるほど強かったのだ。こいつの死骸から何か有用な物が得られるんじゃなかろうかと、そういうわけだ。
事実、ボンさんとシャルさんが起きるのを待つ間、頭のてっぺんの方を素手で少しだけ砕いてみたら、黄色い宝石のようなものが埋まっていた!
俺の手にすっぽり収まるくらいの大きさで、重さや質感はまるで色付きガラスのような感じだ。
何に使えるのか、そもそも使える物なのかは分からないが、魔物からとれた物なのだ。魔つながりで魔法関連の何かかもしれない!
「・・・・・しっかし、お父さんやボンさんはなんでこいつに負けたんだ?」
「俺が少し力を込めるだけで砕ける様な柔さなのに・・・・お父さんが本気でぶん殴れば消し飛ばせるはずだよなぁ」
「もしかして、そーちゃんがあれやったから柔らかくなったのか?・・・・・それとも、消えないタイプの魔物でも死ぬと柔らかくなるのか?」
「今度魔物を見かけたら生きてる間に体の一部をはぎ取ってみるか・・・あと体が消える直前の魔物がどんな感じかも確かめないとな」
こんな話をそーちゃんとしたかったのだが、お父さんが大怪我してたし、さすがにそっちが優先だ。
「あ、というか・・・・・この洞窟はなんなんだろう?」
よく考えたらあたりまえの事だが、こんな巨体の魔物は森で移動なんかできない。できたとしても歩いた場所が更地になる。
でも別に、ここら一帯に俺たちがやったやつ以外は、森が破壊された所なんて見たことがない。
そうなると、この洞窟からこの魔物は出てきたと考えるのが自然だ。
俺は洞窟の入り口まで歩き、洞窟にしては高すぎる天井を見上げる。
洞窟が普通どうなってるかなんて知らないが、多分変なところはない・・・多分。
一人で入ってみようと思ったが、なんとなく嫌な予感がするのでやめた。
いつか万全の準備を整えて、中を探索してみよう。
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