実験
俺はまた、そーちゃんの家に本を読みに来ていた。
アルもぱーちゃんも、前よりは少しだけ長く本に興味を示していたが、今はもう外で駆け回っている。
俺とそーちゃんは今、魔法を使う方法を知るため、関連してそうな本を読み漁っている最中だ。
大量の本を未読と既読で二分し、部屋の両端にしっかりと整頓して並べている。
ただ二分と言っても、ざっと見て百は超えてる本のうち、既読の本は六冊しかない。
「りっくーん!!この本書いた人、親切じゃなさすぎるよー!」
「そうだよね!こっちの本なんかもう、小難しい言葉並びたてた後に当然理解できるよね?って感じで理解させる気ゼロ!!文章から性格の悪さが滲みでてる!」
古いからこその劣化とは無関係な文章としての読みにくさなどに愚痴を漏らしながら、じっくりと時間を掛けて既読の本を増やしていく。
しかし、例によって文章に親切心が欠けていたり、後半から意味の分からない単語や単位だらけになってきたり、最後まで読んでも結局何を伝えるための本だったのかすらよくわからないことが大半で、得られる情報は少ない。
例えるなら、全く知らない本格派ファンタジーゲームの設定資料集を途中から読まされている感じだ。凄い事がたくさん書かれているんだろうが、それが何なのかは分からない。
ある時、そーちゃんが一文字たりとも見逃さまいとしてか、顔をいつもより本に近づけて読み始めた。
余りにも真剣に読むので気になって、そーちゃんの後ろに回り込んで覗き込む。
「りっくん、これすごく親切で分かりやすいよ」
「結構新しめの本だね」
「うん、そうだね。紙が黒ずんだりしてない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ここのこれ、実践してみようよ」
「まず僕がやってみるから、りっくんは読み上げて」
「分かった」
「『まず、魔法の行使に重要なのは、自分の体の中にあるエネルギーを認識することだ。霧のような物が体の中を循環しているとイメージする、自分の体の中にあるものなのだから自分で動かせるはずだと信じ、霧のような物を一か所に集めようとする。集まった感覚があれば、そのエネルギーが目に見えるはずだ。だが、これは私の感覚に過ぎない。万人に通じるとは考えない方がいいだろう。ちなみに、現在の私の研究でも、そのエネルギーがどういった存在なのかは判明していない。』」
「そーちゃんどう?霧のような物ってわかる?」
「・・・・・・・・・」
そーちゃんは目を閉じ、正座のまま黙っている。
(集中してるのか。)
手持ち無沙汰でただそーちゃんを見守る中、読書の時とは違った静寂が部屋を包む。
窓から外の雑多な音が入ってくるが、自分とそーちゃんの呼吸がやけにはっきりと聞こえる。
そんな中突然、そーちゃんの体に異変が起きた。
「そーちゃん!!見て腕!腕!!」
「えっ?・・・うわっなに!なにこれ!?」
そーちゃんの右腕全体が、微かに白く光っていた・・・・が、そーちゃんが目を開けると光は弱まり始め、すぐに消えてしまった。
「・・・・成功?」
「成功・・・・した?」
突然の出来事に二人一緒に呆然とし、数秒程沈黙したまま見つめ合う。
「・・・・そーちゃんすごい!すごいよ!」
「や、やった、やった!なんかできた!」
「りっくん!あれがエネルギーとか魔素って呼ばれてたやつなのかな!」
「多分そうだと思うよ!次、次俺やるよ!」
「うん分かった!僕見てるね!」
興奮冷めやらぬまま、正座になって目を閉じて、先程のそーちゃんの姿を真似する。
(霧のような何かが・・・体の中にあって・・・・・それが動かせる・・・・)
本に書いてあった通りに霧を想像して、それが自分の意思で動く様子を強くイメージする。
(これが、右腕に集まるように、流れを作っていって、循環するたびにその流れが強くなって・・・・)
霧を集めるイメージが、次第にはっきりとしてきて、イメージとしてではなく、感覚としてそこに何かを感じていることに気が付いた頃、そーちゃんが話しかけていることに気が付いた。
「りっくん!りっくん!!目開けて!!見て!!!!!」
「んあ、今凄い良い感じになってきて・・・・」
ゆっくり目を開けると、視界が白で埋め尽くされた。
よく見ると、先程のそーちゃんの腕の比ではない程強く、俺の右腕が光っている。
「えっ!?な、なんだこれ!!」
「りっくん!それやばい気がする!はやく!早く止めて!」
俺が戸惑っていると勝手に光は弱まっていき、すっと普通の腕に戻る。
「こ、こわかった・・・・・」
そーちゃんは壁を背にして小さく丸くなっていた。よほど怖かったんだろう。
「そーちゃん大丈夫?」
「大丈夫だけど、なんていうか、すごく身の危険を感じたよ・・・」
「今、こんなこと言うのなんかちょっとアレだけど・・・・俺、これの才能あるかも」
「たしかに・・・・」
それから、そーちゃんが「危険な感じがする。」と言うので、外で実験してみることにした。
アルとぱーちゃんも誘おうと思ったが、かくれんぼを楽しんでいるようなのでやめておいた。
二人でのかくれんぼはさすがに楽しくなさそうだけれど、ぱーちゃんがアルを強引に付き合わせているみたいだ。
そーちゃんの家から100Mほど離れた草むらに座る。
「りっくん、集中が途切れると消えるみたいだから、ずっと集中して光を維持してみてよ」
「うん、わかった」
目を閉じ、先程と同じようにイメージしようとするが、イメージするまでもなく、体全体にもやもやした何かが循環している事を感覚で理解する。それを自分の意思で動かし、右腕に集めようとする。良い感じに集まった気がするので目を開けると、やっぱり右腕は光っていた。
「りっくん!これなんか、さっきより光強くない?」
「わかんない!わかんないけどなんか、コツ掴んだ気がする!」
「喋っててもできるの?」
「うん、慣れてきた!」
「すごいよ!ずっと光ってる!」
「・・・・ずっと光ってるね」
「・・・・うん、ずっと」
「そーちゃん、これどうすればいいの?」
「えっと・・・えーー・・・わかんない!」
「そもそも魔法ってどうやって使うの?」
「うーん、その状態でなんかいろいろやったら何か起きないかな?」
「何かって?」
「ほらこう・・・・・まぁ適当にやってみてよ」
俺は思いつく限りの魔法が使えそうな事を試した。ポーズを決めてみたり、地面をたたいてみたり、力んでみたり、念じてみたり・・・
しかし何をやっても何もどうにもならず、右腕を光らせて変なポーズを取る自分が滑稽に思えて・・・というより事実滑稽すぎて、そーちゃんの部屋に戻って本での情報収集を再開することにした。
木の床に対して直に座り、子供の体には少し大きい本を開き、最後に読んだページを探す。
ふと、目に着いた文章に対して違和感を覚えた。そしてそれをしっかりと読み込むうちに、違和感は驚きへと変化し、そーちゃんを見てみると、今の俺と同じように驚いた表情をしていた。
「そーちゃんこれ・・・!」
「もしかして、りっくんも?」
「うん、そう。分かるんだ」
「そうだよね!分かる・・・いや、分かるようになった!」
そうだ、この変化は分かるようになったとしか言いようがない。
さっきまで中二病の書いた意味の分からない単語の羅列としか認識していなかった文章が、何を指して、何について言及しているのかが分かるようになっているのだ。
体の中にある霧のような何かが体の中にあるという感覚を、イメージや妄想としてではなく、感覚として知覚し、知っているからこそ分かるんだ。根拠は示せないが、それが事実なのだとなんとなく知っていた。
逆にその感覚を知らなければ、この文章が頭のおかしい狂人の妄言にしか見えないだろうという事が、つい先ほどまでそう認識していただけによく分かる。
「そーちゃん!ここ読んでよ!これ!これは、体の中にある霧のような何かが循環しているあの感覚を説明してるだけだったんだ!ただそれだけの、簡単な事だったんだよ!」
「うん!僕も分かるよ!意味すら分からなかったことが、すんなりと納得できるようになってるね!」
魔法に対する興味がどんどん湧いてきて、そーちゃんと二人で新しいことを知るのが楽しくてしょうがなく、その日を境に毎日そーちゃんと魔法の勉強をするようになった。
毎日が充実してキラキラと輝いる、まるで夢のような日々が始まった。
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