狩り
魔法に対する興味がどんどん湧いてきて、そーちゃんと二人で新しいことを知るのが楽しくてしょうがなく、その日を境に毎日そーちゃんと魔法の勉強をするようになった。
毎日が充実してキラキラと輝いている、まるで夢のような日々が始まった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、いつの間にかこの世界に来てから1か月が経っていた。
あの日以降、俺たちは毎日腕やら足やらを光らせるやつの練習をしたり、今まで意味の分からない狂人の妄言だと流し読みしていた部分を理解して読むべく既読の本を読みなおしたりしていた。
結果、俺とそーちゃんの魔法は・・・・・・・特に何も進展しなかった。
約2週間毎日頑張ったのに、腕やら足やらを光らせる以外のことができないままだ。
進展という進展は・・・・強いて言えば、そーちゃんがコツを掴んだことで5倍ほど強く光らせられるようになったことくらいか。
俺の光も結構強くなった。眩しくて目を開けられないくらいには。あと1秒足らずで光らせられるようになった。だから何だという話だが。
あの日、体の中にある霧のような物の感覚を知ってから、今まで意味が分からなかった文章の意味を理解できるようになった。
しかし、理解できるようになったのはほんの一部に過ぎないらしい。数ページめくればまた意味の分からない単語で意味の分からない概念を説明する、著者が中二病らしい以上のことを読み取れない文章ばかりになった。
(なぜこんなにも分からないんだ?費やす時間が足りないのか?確かに、ずっとアルとぱーちゃんを放置しておくのもダメだと思い、最初の頃と比べて一日中魔法に費やす日は少ないけども・・・)
いや、時間は関係ないはずだ。
(体の中にある霧のような何か・・・恐らくあれがマナだとか魔力だとかの言葉で説明されている物なんだろう。分かるようになったのは体の中にある魔力に関する記述だけなんだよな・・・体の中にある魔力を知覚してからそれに関する文章の意味が分かるようになったということは、同じように説明されている事に関する何かを実践して直接知れば、その説明されている事の詳細が理解できるようになるってことなのか?いやどんな原理だよ)
しかし、原理は分からないながらも「自分の推測は正しいのだろうな」と、どこか確信していた。
(まあ、その説明されている事が何なのかすら分からない部分が多すぎて困ってるんだけどな・・・)
藁のベットの上でそんな事を考えていると、不意にぱーちゃんとトンさんの会話が聞こえて顔を上げる。
「ねーおかーさんピクニック行きたい!ピクニックーー!」
「もー急にどうしたのー」
「あのね、ピクニックでね、お父さんと一緒に狩りしたりね、遊んだりね、したいの!」
「うーん、そうね、最近行ってなかったものね、んーー・・・・行こっか!」
トンさんはそう言うとすぐにリーセルさんを呼びに行って、戻ってきたかと思えばてきぱきと何やら準備をし始め、ぼーっと眺めていたら3分もしないうちにピクニックの準備が整った・・・らしい。
(ピクニックって自然の中で食事をしたりする事のはずだよな・・・毎日ピクニックしてるようなもんじゃないか?)
ということでピクニックとは何をする事なのかと尋ねたところ、家族で遠方に行き、普段と違う場所で普段子供と遊べていないお父さんが子供と数日間つきっきりで遊んだりする、要は家族サービス的な感じらしい。
他に人がいない場所で自給自足ってサバイバルじゃん・・・・いや、毎日サバイバルみたいなもんか。じゃあ何も問題はない・・・のか。
―――
この村に車や自転車などと言った、便利な乗り物は一つもない。というより、概念がない。
移動手段はもちろん自分の足だ。
リーセルさんの背に乗ったぱーちゃんがきゃっきゃと楽しそうにしている中、俺は全力で走り続けていた。
ここでの生活の中で、単純な直線速度でもぱーちゃんと張り合えるレベルにはなったが、まだまだアルには負ける。全力で走る俺と並走して、涼しげな顔で俺を気にかけてくれるアルの存在はありがたかったが、やっぱりちょっと悔しかった。
トンさんやリーセルさんは本当に余裕たっぷりといった感じで、走りながらどこで腰を据えようかと話し合っていた。
走りながら喋っているのに二人は息が一切乱れておらず、まるでくつろぎながら話しているようだった。
前々から感じていたけれど、子供と大人には普通ではない程の身体能力差があるみたいだ。
休憩を3回ほど挟ませてもらいながら移動すること30分、ようやく良い感じの場所に着いたらしい。
何キロ移動したのかは分からないが、めちゃくちゃ長い距離を移動したことだけは分かる。
到着した場所は森と草原の間で、湧き水がすぐ近くにあって、少し歩けば洞穴と見渡しの良い崖があり、なんだかすごい「それっぽい」場所だった。
実際、到着してからの俺の一言目も「それっぽい」だった。
確かに、これほど「それっぽい」場所なら、わざわざ遠くに行ってピクニックをする意味も生まれるな。
それから数時間ほど、リーセルさんがぱーちゃんに遊びをせがまれ続けたり、崖で景色を眺めたりしながら家族団欒の時を過ごし、そろそろといったところで夕飯のために森へ狩りに行くことになった。
トンさんは料理の準備をして待っているらしいので、メンバーはトンさん以外の全員だ。
ただ雰囲気から察するに、子供は狩りの手伝いと称しながら、見学をするだけなようだ。
「よーし父さん頑張るからなー」
「頑張って!お父さん!」
「りっくん見てろよ!父さんは凄いんだぞ!見逃しちゃだめだからな!」
「え?う、うん」
アルとぱーちゃんがとてもはしゃいでいる。
俺はこの時、疑問に思っていることがあった。
狩りをするはずなのに、リーセルさんは武器になりそうな物を何も持っていないのだ。
(もしかして、そこら辺の木の棒で野生動物ぶったたいたりするのか?さすがにそれはワイルドすぎるだろ・・・・)
などと考えていると、リーセルさんは森奥へずんずんと進んでいくので、それを子供組が忍び足で追いかける。
「お父さん!どれくらい獲れたら終わりなの?」
ぱーちゃんが楽しそうに聞く
「そうだな・・・ある程度の奴が一匹獲れたら終わりかな」
「前のお父さんすごかったよね!ばーって大きいのが出てきて、どーってね!」
「だよな!かっこよかったよな!」
「はっはっはーありがとうなー!パン、アルタ!」
などと楽しく会話をしながら森に入って10分ほどで、リーセルさんが急に立ち止まり、手のジェスチャーで「静かに」と子供組に示した。
俺たちは事前に伝えられていた通り、ゆっくりとリーセルさんの見ている方向から離れ、草陰に隠れて静かに見守る。
日はまだ落ち切っていないけれど、深い森の奥は薄暗く、あまり遠くは見通せない。
リーセルさんは一点をじっと見つめながら、袋か何かを取り出してゴソゴソとしているが、何をしているのかはよく見えない。
二人にリーセルさんが何をしているのか聞いてみたけれど、二人も知らないらしい。
じっと待っていること数分、森の中は本当に静かで、耳を澄ましても聞こえてくるのは右二人の呼吸くらいだ。
なので俺は呑気にも「ある程度の奴って、具体的にどの程度なんだろう」なんて考えていて、何の警戒もしていなかった。だから、本当に驚いた。
突然、リーセルさんの向いていた方向にある茂みから、猪のような生物が飛び出してきた。
その茂みは、リーセルさんの立ち位置からほんの十歩程度しか離れていない。
その猪のような生物は大男のリーセルさんよりも一回りか二回りほど大きく、体の節々が筋肉で盛り上がっていて、人間の子供なんて小突いただけで跳ね飛ばせてしまいそうな強靭さが見て取れた。
驚きすぎていたせいか、何が起きたかはよく見えなかった。
見えたのは、猪のような生物がその体付きからは想像ができないほどの速度でリーセルさんに突っ込み、リーセルさんはその生物が眼前に来るまで左腕を突き出したようなポーズで構えていた事だけ。
鈍い衝撃音が聞こえたと思ったら、次の瞬間には強風で目を開けられなかった。
目を開けれるようになったころ、目の前には右腕の力こぶを見せつけ自慢げなリーセルさんと、首をあらぬ方向に捻じ曲げ倒れている猪のような名称不明生物がそこにいた。
アルとぱーちゃんは無邪気にお父さんすごい。とはしゃいでいたが、俺は正直ビビって開いた口が閉じなかった。生身の人間がする狩りじゃない・・・・俺やアルも身体能力も確かに人間じゃないけど、それでもリーセルさんは桁違いすぎる。
もしかして村の大人は基本このレベルなのか・・・?
アルも、大人になったら・・・・・・・俺もなるのか?
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