親愛感情
遠くから鳥の鳴き声が聞こえてきて、その後肌寒さを感じて目が覚める。
いつもの朝だ。
朝、俺は家族の中で一番最初に起きる。
右を見るとりっくんが丸まって寝ていて、左を見るとぱーちゃんが俺の腕を抱いてすやすやと寝息を立てている。
いつもの風景だ。
ぱーちゃんの手をゆっくり剥がして静かに起き上がる。外に出て朝日を浴び、心地良い風を楽しむ。
いつもの良い朝だ。
少しの間のんびりしていると、眠そうに目をこすりながらぱーちゃんが起きてきて、いつものように俺の手首をぎゅっと握る。
「おはよーお兄ちゃん」
「ん、おはよー」
簡素な挨拶を済ませ、ぱーちゃんといつもの場所に行く。
いつもの場所とは、早起きな俺とぱーちゃんが、お父さんとお母さん、あとねぼすけなりっくんが起きるまで時間をつぶすための場所のこと。
家からほんの少し離れていてちょうど座れる段差があり、白い花がたくさん生えていて他に誰も来ないすごく落ち着く場所。
最初は俺が一人でここにいたんだけど、いつの間にかぱーちゃんも一緒にいるようになった。
心地良い風が時々吹いて、前髪を撫でてくる。息をするたびに感じる匂いは、たくさん生えている名前も知らない花の香りで、左を見るとぱーちゃんがうとうとしている。
ぱーちゃんが舟をこいでいる様子をじっと眺めていると、急にぱっと目を開けて欠伸をし、俺に持たれてきてそのまま話始める。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「んー?」
「ここでぼーっとするのってすっごく気持ちいいね」
「そうだねー」
ふと、ことさら冷えた風が吹き、まどろんでいた空気が風にさらわれてしまう。
「・・・・」
「・・・・」
「お兄ちゃん」
「なんだー?」
「ここでぼーっとするやつ、りっくんにも教えてあげて一緒にやろうよ」
「えー?それはダメだよー。ここは俺とぱーちゃん二人の秘密なんだから」
「二人より三人の方がいいじゃーん」
「二人の秘密なんだから他の人に知られちゃダメなんだよ」
「そっかー、お兄ちゃんが言うならしょうがないかー、ここ見つけたのお兄ちゃんだしね」
「そうそう、俺が見つけたんだから」
時々、そんな会話をしながらぱーちゃんといつもの場所に居るとすぐに時間が過ぎていく。
もしかして、ここは時間が速く進む場所なのかな?
「そろそろ戻ろっか」
「うん」
家の中を覗くとお母さんが体を起こす直前で、外に居たことがばれないよう急いで中に入る。何もしてないと怪しまれるかもしれないので、ぱーちゃんと手を合わせ、引いたり押したりして遊んでいる風を装う。
「えい、やっ、それっ」
「てい、なにっ、ぐわー」
即興で適当な掛け声を上げて、さもずっとここで起きるのを待っていたかのように振る舞う。
「あ、お母さん起きてるよ!」
「おはよー!」「おはよう!」
「おはようアルタ、パン。朝ごはんの準備するからもう少し待っててね」
「うん!」「わかったー」
待っている間特にすることもないので、いつものようにぱーちゃんと一緒にりっくんを突いたりして時間をつぶす。
りっくんは突くと笑ったり嫌な顔をしたり丸まったり、逃げるために寝返ったりして面白い。
りっくんが合計3回程転がったごろ、朝ごはんができたからそろそろりっくんを起こしていいよと言われたので無理やりりっくんを起こす。
「りっくーーーん!!朝だよーーーー!」
「おーーきーーてーーりっくーーん!」
ぱーちゃんと協力して揺らしながら声をかけて起こすがなかなか起きない、本当にりっくんはねぼすけだ。
最終的にはぱーちゃんが足の裏をくすぐったらいつものように飛び起きた。
やっぱり面白い。
朝ごはんはいつも5人で食べるけど、今日はお父さんがまだ寝てるから一人少ない。お母さん曰く「毎日頑張ってるからたまにはねぼすけでもいいんだよ」だそう。
そして、でっかいお肉を5等分にした奴を食べていると、突然ぱーちゃんが
「そーちゃんの家に行ってくる!」
と言い出した。ぱーちゃんは時々すごく唐突だ。
「あらパン、もうご飯は良いの?」
「うん!おなかいっぱい!お兄ちゃんいこ!」
「あ、俺はお父さんに聞きたいことがあるから起きるまで待ってる、ぱーちゃん先に行ってて」
「えー?・・・分かった!りっくんいこ!」
「ん、え?あぁうん行こうか」
「ほら早く!いこ!」
そう言うと、ぱーちゃんはりっくんの腕を掴んで走り去ってしまった。
りっくんの「ちょっとまって!あと三口くらいだからまって!」という声がだんだん遠ざかりながら聞こえてくる。前にりっくんが、「ぱーちゃんみたいなのを天真爛漫というんだよ」と言っていた。どんな意味だったっけ?
ご飯を食べ終わって、お父さんが起きるのをベットの上で待つ。
時々小突いてみたり、小声で「朝だよー」と言ってみても何も反応しない。
待った、ひたすら待った。100を3回数えてみたりもした。途中でわからなくなったけど多分数えられた。
でも、お父さんは起きなかった。
お父さんが起きないとそーちゃんの家に行けないので、起こしてもいいかお母さんに聞いてみる。
「おかーさん!もうお父さん起こしていい?」
「えー?まだ起きてなかったの?」
「うん、ぐっすりだよ」
「うーんそうね・・・じゃあ良いわよ、起こしちゃって」
「分かった!」
許可を得たので全力で起こすことにする。
頭をべしべし叩きながら耳元で叫んでやった。
「起きてーーーー!!!!」
すると、むくりと俺がいる位置とは反対側に寝転がって、またいびきを立て始めた。
ならばという事で足をくすぐってみる。
だけどお父さんの足は皮が分厚すぎてくすぐっているような感じがしない。
だからもちろん全然反応しない。
最終手段として脇に手を突っ込むことにする。
「くらえ!」
するとお父さんはぱちりと目を開けて、軽く「いてっ」と言う。
雨が振りそうな日に、なだらかな川が急に荒れ狂うように、唐突に時間が流れ出した。
俺が「ねぼすけすぎだよ」というと、お父さんがばっと外に飛び出た、と思いきやすぐに戻ってきてお母さんと何やら話している。
そうかと思いきや、すぐに俺へと駆け寄ってきて、とても焦った様子で「アルタ!リュウやパンがどこに行ったか分かる!?」と言う。
俺が「そ、そーちゃんの家」と言うと。
「よしわかった!じゃあソールくんの家に行ったらみんなに森は危険だから今日は絶対近付かないでって伝えておいてね!いってきます!」
と言い残して走り去ってしまった。
お父さんが起きたらある事を聞きたかったのだが、勢いが強すぎて何かを聞く暇もなく、お父さんはどこかへ行ってしまった。
「まあ、また今度聞けばいいか」
そうポツリと呟き、俺はそーちゃんの家へと向かった。
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