集会

夜になると空に現れ、大きさが日々変化し、淡い光で地を照らすそれを、人は月と呼んだ。

月は今夜満ちていて、多くの光を地上へと降り注いでいる。


夜道を歩いていたリーセルという男は、いつもと比べて足元が明るいことに気が付き、目的も忘れただ美しい満月を眺めていた。

数秒程、静寂な時間が流れ、満月の魅了から抜けだしたリーセルは再び歩き出した。


リーセルの目的は夜の集会に向かう事。


夜の集会とは、村の男たちが皆が寝静まる頃を見計らってこっそりと家を抜け出して集まり、今後のことやらなんやらを焚火を囲んで話し合うため、定期的に開かれる集会である。


しかし、村に階級という制度はないため村長のような役職もなく、即急に解決しなければいけない問題があるわけでもないので、楽しく各々が雑談やら子供達の近況報告やらをするのが主な目的になっている。


リーセルがいつも集会が開かれている場所へ歩いていると、焚火の明かりが見えてきたので小さな大声で挨拶をする。


「こんばんは!楽しくやってるかい?」


すると、リーセルに気が付いたごつい男が一斉にリーセルへ駆け寄る。


「おーーー!リーセルが来たぞみんな!」

「リーセル!こっちこい、こっち!」

「早く早く!」


皆のいつもと違う反応に驚いていると、背中を強引に押されて焚火の前に出され、座るために運んできたのであろう石に無理やり座らされる。


「急になんだよ、どうしたんだ?」

「いいから!さっさと座れ!」

「お前はすわっときゃいいんだよ!」


「ちょ、ちょっとリーフ説明してくれよ」


リーフとは幼少期からの親友で、同じく娘を持つ父として惚気をしあう仲だ。


「どうしたもこうしたもねぇよ、リュウくんの話をみんな待ってたんだよ!」

「リュウ?リュウの話なら前にしただろう、突然森で倒れてるのを見つけて、両親のことも、前はどこに居たのかも何も覚えてないからうちの子供として一緒に暮らしてるって、もう伝えてないことなんてないと思うぞ?」


「ちがうちがう、皆が聞きたいのはそんなことじゃない」

「いやそんなことって・・・」


「あれだよあれ、そのリュウくんが魔法の勉強をしてるとか何とか聞いたんだよ!」

「え、そ、そうなのか!?」

「なんだよお前も詳しく知らないのかよー」


男衆は期待外れといった感じで口々に「何で知らねぇんだよー」などと声を上げている。


「リュウが魔法って、どういうことなんだ?」

「どうったって、俺たちもよく知らねぇけど、そうらしいって噂になってんだよ」

「確かに、リュウは何かと頭がいい所があるから・・・そうかそうか魔法を・・・」


「リーセル、お前今度の集会の時までにリュウくんにちゃんと聞いとけよ!」

「ああ、わかったよ」


この返答をしきりにリーセルの話を聞くため集まっていた奴らが解散し、各々の話に戻る。


「なぁリーフ」

「なんだ?」


「そういえば、魔法ってなんとなくしか知らないんだが、結局どんなものなんだ?」

「え?そりゃだって・・・こう・・・頭が良くないとできない位難しくて、なんか・・・凄いんだろ?」

「いやそれは分かってるけど・・・・そもそも、魔法を使える人間なんて見たこと無いからなぁ」


「まぁまぁ、そこら辺のことはリュウくんに聞けばいいじゃねぇか、それよりも聞いてくれよぉ」

「なんだ?」

「長女のリンがな、最近言う事を聞いてくれないんだよ・・・・」


「あぁ、女の子にはそういう時期があるらしいなぁ」

「そんなレベルじゃねぇよ!だって、だって・・・」

「だって?」

「昨日、お父さん嫌いって言われたんだぜ!?」

「なっ・・・でも、それはお前がなんかしたんじゃないのか?」


「うぅ、身に覚えなんてねぇよぉ・・・・これからずっとリンに嫌いって言われて、生きていく自信ねぇよぉ・・・」

「おいおい、大の大人が泣くなって」



いつものように家族の話をしあったり、あの子とあの子は恋仲らしいとか、いつか自分の娘も恋仲の男がだとか、そんなこんなで夜は更けていき、焚き火用の薪が残り1本となった。


薪が残り1本になったら最後に真面目な話をしなければならないという伝統が昔からあり、世間話やらに花を咲かせる時間が終わる。

誰かが進行役を買って出て、協力が欲しい案件や問題視していること、相談したい事などを出し合うようになる。


そして今回は村で一番貫禄とユーモア、そしてパワーのあるバンおじさんという愛称で子供たちから呼ばれているバンさんが進行役を務めた。

「ごほんっ、まぁ集会らしく真面目な話もしないとな、皆なにか伝えておきたいことはあるか」


リーセルが手を上げるが、今回他に要件があるやつはいないらしく、誰も手を上げない。


「なんだ?リーセル」


バンの言葉でリーセルは立ち上がり、その場にいる全員の視線を受ける。


「えー、この中にも同じように感じている奴はいると思うが、最近魔物の出現が多い」

「確かに」や「そういえばそうだな」といった声が上がる。


「俺は数日前ピクニックに行っていたんだが、そこで4回ほど魔物に襲われたんだ、強いやつはいなかったから簡単に対処できたが、その・・・夜、俺が寝ている時に子供達が襲われちまって・・・対処はできたんだがあと少し遅れてたらどうなってたか・・・・」

子供がいる男たちが自分の子供がそうなったらと考えて体を震わせる。


「確かに、それは由々しき問題だ!どう対処するか、案があるものはいるか!」

「あるぞ!」「俺もだ!」「俺も!」


それから薪が燃え尽きるぎりぎりまで真剣な話し合いが行われ、皆の意向が定まった所でバンがまとめる。


「では、明日から3人一組の部隊を5組で原因の捜索を開始とする、今日の朝に子供達へ森に近付かないよう各自伝えておくように!」



こうして夜の集会は終わり、各自家に戻っていく。

男たちの足元を照らす月は今も美しく輝いている。

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