魔法!?魔物!?ダンジョン!?
この世界で目覚めた日から、10日ほど経過した。
当初は異常な身体能力や妙な体の構造、異様な文明などの諸々にいちいち驚愕したりしていたけれど、慣れてしまえば案外楽しいだけだ。
力を籠めれば込めるほど超人的なパワーが出る体も今まで体験したことない感覚で爽快だし、肉と定期的にそこら辺の草を食べているだけでいい食生活は楽だし美味しいし、異様な文明もいろいろ・・・・いや、結構不便はあるけれど、まぁ新鮮なことが多くて楽しい。
もうなんか毎日楽しいし、みんな優しいし、ちょっと日本に帰るとかどうでもいいかもしれない。
あっ、もしかして、村の人たちがとことん良い人だらけなのはストレスが全く無いからなのか・・・・?
まぁそんなこと、今日はアルたちと何をして遊ぶかという問題に比べたらどうでもいい事か!
「アル!今日は何すんの?」
「うーん・・・・今日はそーちゃんに会いに行こうかなー」
「そーちゃんって、頭がいいっていうあの?」
「りっくんは会ったことないっけ?」
「そうだねー」
アルと二人で話していると、先程まで何もない空間をぼーっと見ていたぱーちゃんが会話に入ってくる。
「そーちゃんに会いたーい」
「じゃあ今からそーちゃんの家に行くか!」
「行こう行こう!」
とりあえず一旦の目標が決まったところでトンさんに外出を伝え、そーちゃんと言う子の家に向かう
ぱーちゃんはとにかく早く会いたかったのか、家を出てからすぐに走り始め、アルもそれに続き全力で走った。俺は必至で食いついたが、やっぱりアルには手も足も出ないし、単純な直線ではぱーちゃんにすら到底及ばない。
くそうなんでだ、体格では同じくらいなのに。筋肉の鍛錬が足りないのか?それとも何か理由があるんだろうか・・・・?
走っていると景色が瞬く間に変わり続け、全く息の乱れていないアルが到着を伝える
「ここがそーちゃんの家だよ!」
「お・・・・おぉ・・・・!」
目の前にある家は、村に乱立されている建築物と称するのは少しためらわれる、適当に作ったとしか思えない家々などとは比べ物にならない、れっきとした建築物だった。
切り出した木材を力技で突き刺しただけの壁ではなく、石材で土台を作り、木を加工して組み、頭を使って作られたのだろうとわかるちゃんとした壁。あまり建築分野は詳しくないが、木組みと藁やら何やらで水漏れ防止と空調管理をしているであろう屋根。おまけに木製のちゃんとした扉!一枚の布(扉)とは大違いだ!
とにかく何が言いたいかと言うと、これは文明人が作った家だ!
確かに、村に乱立してある家も圧倒的な腕力でやったのか、壁の木材の隙間は虫一匹として通さないし、屋根も水漏れをしたことがない。しかも何やら木材自体が腐らない機能を標準搭載しているのか劣化も全然していないし、ある程度の暮らしならば十分だろう。だが、文明的な暮らしをするというならば必要になってくるのはそう、これだよ!これ!ちゃんとした家だよ!
「どーだ!すげーだろ!」
アルがまるで自分のことのように自慢してくる。
「すごい!すごいよこれ!家だ!ちゃんとした家だ!」
「中もスゲーんだぜ!」
ぱーちゃんが木製の扉をギギギと言う音をさせながら押し開き、挨拶しながら中に入る。
「おじゃましまーす!そーちゃんいますかー!」
そのあとに続き俺も中を覗き見る。
内装は・・・・もう、何というか、木を主に使って作られた家、だった。
もちろん木製の床だし、家具とかたくさん見えるし、ちゃんとした「家」だった。
俺は小声でアルにだけ伝わるように漏らす
「すごい・・・部屋割りされてる・・・家だ・・・・・」
「な、すげーだろ?」
と、そこにそーちゃんの父親らしき男性が出てくる。
その男性はリーセルさんと比べてるととても小柄で、言ってしまえば日本人基準で普通な体形の、なんとなく頭がよさそうな人だった。
着ている服も村の人々と違い、ちゃんとしてて、何というか、言語化が難しいが・・・・・そう、文明的だった。
「おやおやよくきたね、ソールに会いに来てくれてありがとう。アルタくん、パンちゃん、あと・・・・君は初めましてだね。」
「はじめまして、リュウと申します。」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ、ソールと仲良くしてやってね。」
「はい!」
挨拶もそこそこに、ぱーちゃんがソールがいると思われる部屋にずいずいと進んでいき、ドアをばさっと豪快に開けはなつ。
「そーちゃん!!!!久しぶり!!!!!!」
「あ・・・ひ、ひさしぶり」という声が、うっすらと聞こえてくる。中を覗いてみると、そこには本を抱えて床に座る小柄な少年がいた。部屋中に本を読み漁った形跡があり、部屋を見るだけでこの少年は本好きであるということが分かる。
(え?ほ、本???本がある・・・・・・どう考えてもこの村の技術じゃ本なんて作れないよな・・・てことは、本を作れるまで発展した場所が、ここ以外のどこかにあるのか!)
「そーちゃんあそぼ!」
ぱーちゃんがそーちゃんの腕を引っ張り、無理やり立ち上がらせる。
「う、うんわかったよ、痛いから引っ張らないで」
本を読むからか、同年代に見えるソールとパンの間には大きな精神的年齢の開きが見えるが、ソールは遊びに誘われて純粋に喜んでいるようにも見える。
そーちゃんがパーちゃんに妨害されながら本を片付け部屋を出ようとしている時、ふと目が合った。
「あっ、はじめまして」
「えっあっあっ・・・・ゴホンッ・・・は、はじめまして、ソールと申します、あなたの名前は?」
「えっ・・・リュウと申します、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
微妙すぎる空気に、どちらも口を開けずにいると、我慢を切らしたぱーちゃんが騒ぎ出した。
「いーじゃんそんなの!はやくいこーよーーいこーーーー!!」
それに同調し、アルも。
「そーだよりっくん!早くいこーぜ!」
子供の特権に助けられて微妙な空気から抜け出し、とりあえず外に出て何をするかを決める会議を開く。
アルがリーダーのように皆に問いかける。
「したいものがある人ー!」
すかさずぱーちゃんが主張する。
「追いかけっこ!!」
そーちゃんが不満を漏らす。
「ぼく、あんまり動けないから別のが良いな」
アルが問いかける。
「別のって例えば?」
「あんまり体を動かさなくてもいいやつ?」
「体を動かさない遊びってなぁ・・・うーん・・・」
ぱーちゃんが退屈げに漏らす
「早く遊びたーい」
(ふむ、この子達はあまり遊びのレパートリーがないみたいだな。ここは日本人としてジャパニーズ遊びを提供しなくては。)
「じゃあ隠れんぼ――――「こうなると思って!!」
俺が喋り始めようとした瞬間、そーちゃんが自信満々に人差し指を立てて大きな声で言う。
「新しい遊びを考えてきました!」
そういうのと同時にアルとぱーちゃんが「おぉーー」と言いながら小さく拍手をする。
その動きは手慣れていて、どうやらこの3人の中ではお決まりの、天丼のようだった。
「その名もかくれっこ!」
これまた慣れた動きでアルが「その内容は?」と問う。
「追いかけっこの追いかけられる側が動いちゃいけない遊びです!」
「動いてなかったらすぐつかまっちゃうよ?」
「そう!だから隠れるのです!」
「おーーー楽しそう!」
そこからそーちゃんによる普通のかくれんぼのルール説明が始まった。
ルールこそただのかくれんぼだったが、細かい部分にこだわりや配慮のようなものを感じた。
アルやぱーちゃんからされるであろう質問を事前に考えていたのか二人の質問攻めすべてに即答していて、そーちゃんの頭の良さが窺えた。
ルール説明と二人の質問攻めを終え、4人でひたすらにかくれっこを楽しんだ。
数秒走るだけで何十メートルも移動できるし、木にもジャンプのみで登れるため、ルールの制限が難しそうだったがさすがそーちゃんと言ったところか、不自由さを感じずかつちょうどいい塩梅となっていた。
そーちゃんがどうすれば楽しくなるだろうかと試行錯誤し、頑張って考えたのだろうという事が伝わってくる。
かくれっこの途中、よさげな窪みを見つけて隠れようとしたところ、既に隠れていたそーちゃんと鉢合わせる。
「あ、そーちゃん」
「り、りっくんか、もうぱーちゃんに見つけられたかと思ったよ」
「入っていい?」
「ちょっと狭いけど、いいよ」
「・・・・・」
「・・・・・」
狭い空間に二人きりという事で話すほかなく、とりあえず本のことについて聞いてみる。
「あ、そういえばそーちゃん」
「なに?」
「そーちゃんの部屋に本があったよね」
「え!?本のこと知ってるの!?」
「え、あっあぁ、うん知ってるよ」
(あっそうか、この村の感じじゃ、本を知ってる人間の方が珍しいか)
「どこで本のこと知ったの?」
「あぁいや、なんとなく知ってたっていうか・・・」
「へぇそうなんだー」
「・・・じゃなくて、そーちゃんが持ってた本のことなんだけど」
「うん」
「あれはどんなことが書いてある本なの?」
「えーっとね、あれは魔法に関する本だね」
「へぇ魔法かーーー・・・・えっ、魔法?」
「え、うん。本は知ってるのに魔法は知らないんだね」
「魔法って、え?おとぎ話ってこと?」
「違うよ、むかーしの人が書いた、『魔法が与える影響について』っていう名前の本だよ」
「え、え?魔法って、あの、魔法陣とかの、あれ?」
「そうだよ?」
「えっええ?あの、詠唱とか、そういうあれなの?」
「えいしょうって何?」
「あ、いやなんでもない」
(えええええ?マジで・・・・・・?魔法あるの???いや物理法則おかしいなとは思ってたけど、まさか魔法なんてものがあるとは・・・・男ながらに中学生の頃は憧れたりなんかしたけども・・・・まさか・・・えぇ?)
(これはそーちゃんの知っていること洗いざらいすべて聞きださなくては・・・・)
「え、じゃあじゃあ、その本ってどんなこと書いてあったの?」
「まだあんまり読んでないんだけど、確か・・・・・『魔法が与える影響は様々な物があるが、今回は魔物について言及したいと思う』って書いてあったから、魔物について書いてあるんじゃないかな」
「え、え?その魔物って、なに?」
「魔物は・・・魔物だよ?」
「魔の生き物の、魔物?」
「そう、魔の生き物だよ。・・・・まさか、本知ってるのに魔物知らないの!?」
「し、知らなかった・・・・・」
「なんというか、すごい知識が偏ってるね」
「そうだね・・・・・」
「なんか、他にも知らないことありそうだね」
「ソール先生お願いします・・・・」
「いーでしょう!いろいろ教えてあげます!」
窪みに隠れている間、いろいろ俺に抜けている常識やらなんやらと、魔法と魔物について教えてもらった。
そーちゃんもそこまで詳しくないらしく、ある程度の上部の情報として、
「魔法というのは、すべての物質に宿っている魔法的な何かを使って、物を動かしたり、熱したり冷やしたり、光らせたり・・・・とにかくいろいろできるらしい」だそうだ。
魔物とは、そこら中にはびこっている生物?で、人間のいないところで自然と増殖し、見た目は様々で猿のようだったり、猪のようだったりするらしいが、死ぬと黒いもやもやになって空中に消えるらしい。
ちなみにそこら辺の森にも魔物がいるにはいるけれど、小さいサイズは野生動物と区別がつかないんだとか。
情報が中途半端で結局どんな物なのかは分からないが、普通はこの程度の知識だという。
あと他に抜けている一般常識は「ダンジョン」くらいだった。だがまぁそれも、魔物がいっぱいいる所。くらいしかわからなかったが・・・・
常識とは、常識だからこそ、お互いの常識が同じだという前提で考えてしまう。そーちゃんが「これはさすがに知っているだろう」と省いた事の中に、まだまだ俺の知らないこの世界での常識があるかもしれない。と考えると、少し楽しみだ。
「ねぇねぇ、そんなに興味があるならさ、今度うちの本読んでみる?」
「え、いいの!?」
「いいよいいよ!本の内容にこんなに興味を持ってくれる人いないからね!本当はお父さんのものだけど、許してくれると思うよ!」
「ありがとう!そーちゃん!」
「えへへ・・・・どういたしましてだね」
(あ、でも、言葉は完全に日本語だけど、文字はどうなんだろう・・・と言うか、ものすごく今更だけど、なんでこんな完全に異世界な感じなのに日本語通じるんだ?・・・いや、そんなこと今更か)
突然、上から声が降ってくる
「みーーーっけ!!!!!」
声の方を振り向くと、満面の笑みのぱーちゃんと、その後ろにアルが居た。
「あーみつかっちゃったかー」
「みっけみっけーー!」
「アルも見つかってたんだね」
「そう!一瞬で見つけられちゃったよ!」
「お兄ちゃん隠れるのへたなんだもーん」
空をふと見ると、きれいな夕日が沈もうとしていた。
「あっ、もう夕方だね」
「そうだ、僕帰らないと」
「そっかーじゃあ終わるかー」
「えーもっと遊びたかったなー」
「楽しかったね」
帰り道の関係上自然と3対1の位置関係になり、そのまま歩き出す。その状態で、そーちゃんが後ろ歩きをしながら大きな声で言う。
「ねぇみんな、また遊ぼうね!」
そーちゃんの姿が見えなくなる最後に叫んだ言葉は「またね」だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます