物理?異世界?転生?
森で起きた日から3日が経過した。
色々整理するために、この3日間で分かったことをまとめよう。
リーセルさん、トンさんと暮らしていくうちに、この夫婦はとことん人が良い事が分かった。
初日はものすごく警戒されていたアルタとパンだが、2回ほど遊んだら当初の警戒はどこへやら、めちゃくちゃフレンドリーに接してくれるようになった。良い子たちだ・・・・・
あと、村の人たちが数人ほど様子を見に来たが、何もわからない可哀そうな少年への心配100%と言った感じで、優しさの塊だった。なぜだかこの村には、悪感情と言う概念が無いレベルでいい人しかいないらしい。
とまあ、それらのことは置いておいて、もっととてつもない事実が山ほどある。
何から考えればいいか分からないほどだが、とりあえずはまぁ・・・・全体的に身体能力がおかしい。
日常動作は普通なのだが、走ったり力んだりする時に異常な力を持つ。子供も含め、全員が。
最初にその異常に気付いたのは兄妹と遊んだ時だった。
――――――
「リュウ!追いかけっこしようよ!」
「しよしよ!!」
「え?うん分かったよ」
(一応頭は高校生なんだし、体が子供になってもただの子供には負けないだろう。ちゃんと手加減しないとな。)
「じゃあジャンケン!」「じゃーんけーん」
「ぽい!」
(あ、負けた。というか、子供は話の進行が唐突でテンポが早いな)
「リュウが鬼だーー!」「きゃーーーーーー」
と、楽しそうな悲鳴を上げながら走り去っていくパンの足元が弾けた。
一瞬、爆発か何かかと思った位だが、どう見ても爆発の類ではなく、何かがものすごい力で叩きつけられたような、そんな感じだった。
パンはというと、20mほど離れたところで、着地に失敗したのか転がっていた。
そのままアルタの足元の地面も弾け、足の形の小さなクレーターができる。
40mほど離れたところでしっかりと着地したらしいアルタが追いかけっこの開始を叫ぶ。
「初めていーーーよーーーー」
完全なる異常、理解不能な動き、それを当然とする兄妹。
訳が分からず夢かと疑ったが、直感で理解し、納得した。
この世界は日本がある世界とは別だと。
そして同じく直感で理解した。自分にも似たようなことができる事を。
足に力を込めて、思い切り地面を踏み出すと、ジェットコースターさながらの風圧と慣性による力を受け、気付いたら元居た場所から11mほど離れたところで転がっていた。
「リュウくんよわっちーーーーー」
パンに馬鹿にされた。
「リュウ大丈夫かよーーー」
アルタに呆れ半分に心配された。
二回りも年の離れた子供に馬鹿にされてやけになり、難しいことなどはとりあえず考えず、その日はひたすら追いかけまくって4回ほど捕まえた。パンには。
――――――
とまぁ、少女にすら単純な速度では一度も勝つことは叶わなかったが、俺の身体能力も普通の人間基準で考えたら異常だった。
あと大人たちの仕事をチラッと覗き見たが、力仕事の桁が違った。巨大なイノシシのような何かを一人で担いでたり、巨木を軽々と担いで走るしで化け物しかいなかった。
どうやら別の世界に来ているみたいだが、物理法則やらなんやらがおかしい。
身体能力もそうだが、人間の構造自体が違うみたいだ。この村の人間は肉と水しか口にしない。
言葉通り肉以外を食わない。そんな食生活じゃすぐ死ぬぞ!と、最初は思ったが、どうやら肉だけで必要な栄養素は全て取れているようだ。見た限り食生活の影響で体に悪影響が出ている人はいない。
だが、俺は体の構造は村の人と違うらしく、2日目で体が猛烈に野菜を欲しだした。野菜を食べたくなったとかではなく、本能的に体が緑を欲してどうにかなりそうだった。
衝動的に外に出て、山菜のようなものを食んでいたら落ち着いたが・・・・
そもそも冷静に考えてみたら俺はいったいどういう状態なんだ?俺が玄関で急に意識を失ったのは何だったんだろうか。やっぱりあれで死んだのか?という事は今この世界にいるのは仏教の輪廻転生とやらか?
輪廻転生って世界跨ぐものなのか?
そもそもなんで森で目を覚ましたんだ?というか転生だとしたらなんで赤子じゃなくて今この小学校低学年のような体なんだ?
なにが・・・起きてるんだ・・・・・・・・・・?
「あーーーーなにも分らん」
「どうしたの、リュウくん」
今いる場所は森の手前のちいさな広場。トンさんに「ご飯まであと少しだから待っていてね」と言われたので、なんとなく広場で各々ぼーっとしていたのだ。
「え?あぁおれ・・・・僕は記憶がなくて、森で倒れる前はどこにいたのかなーって」
「ふーーん、思い出せると良いねー」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ところで、パンちゃんは・・・」
「何回も言ってるでしょ!ぱーちゃんのことはぱーちゃんってよんで!」
「あぁうん、わかったよ」
(ちょっと恥ずかしいんだけどな・・・・)
「ぱーちゃんは、文字って書けるの?」
「もじ?・・・おかーさんはかけるよ!」
「あっそうなんだ。」
(この世界の文明レベルってどんなもんなんだろ・・・・ここはほぼ石器時代って感じだけど、ちゃんとした文明があるとこはあるのかな・・・・日本人としては、もう少し文明的な暮らしがしたいのだけど。)
「・・・・・」
「・・・・・」
「えっと、ぱーちゃんが前に言ってたそーちゃんってどんな子なの?」
「そーちゃんはね!すっごくてね!弱っちいけど、頭がよくてね!すごいの作ったりするんだ!」
「へーそうなんだー」
(子供好きとも嫌いとも思ってなかったけど、接してみるとなんかいいなぁ癒される。うん。)
と、そこにトンさんの声が聞こえてくる。
「アルタたちーご飯だよ!おいでーー!」
アルタとパンが喜びの声を上げながら走っていく。
この世界がなんなのか、日本での俺はどうなったのか、帰れるのか。それらはすべて何もわからないが、とりあえず今の生活は充実しているし、焦る必要はないだろう。
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