起床②
日が落ち始め、あたりの空気が冷たくなっていく頃、そんな気温の変化と無縁な二人の兄妹が仲良く歩いていた。
その兄妹の名はアルタとパン、今日も仲のいいそーちゃんと言うあだ名の子と遊びつくし、疲れ果てて帰宅してる途中である。
「ねえお兄ちゃん」
「んーー?」
「今日のそーちゃんすごかったね!」
「だよなー器用っていうか・・・頭いいよなー」
「お兄ちゃんもなにか作ってよーー」
「えー?なにかって何だよ」
「うーん・・・・すごいやつ!」
「すごいやつって?」
「えーっと・・・・わかんない」
「なんだそれー」
そう言ってアルタは脈絡もなく走り出し、勝手に競争を始めた。
「あっお兄ちゃん待って!」
「先に家着いた方が勝ちだからな!」
夢中で二人が走っているとあっという間に家に着き、先に到着したアルタが勝ちと兄妹の帰宅を宣言しながら戸を開ける。
「勝ったーーーーーーただいまーーー」
母親であるトンへ駆け寄ろうとした寸前、いつも自分たちが寝ている藁のベットに見知らぬ少年を見付けて好奇心のままに駆け寄る。
「お母さんこの子だれ?」
「その子はね、森でお父さんが倒れてるところを見つけて来たの。」
「ふーーん・・・・変なのー」
そこへ遅れてパンが帰ってきて、アルタと同じように見知らぬ少年に駆け寄る。
「この子だれー?」
「森でお父さんが見つけたらしいよ。」
「んーーーー変なのーー!」
「変だよねー!」
「この子あれじゃない?弱っちそうだからピーグに負けたんじゃない?」
「アハハ絶対そうだ!絶対そうだよ!」
「ちょっと!二人とも――――
二人の言動をトンが注意しようとしたその時、寝たきりだった少年が咳をした。
動かないと認識して全く警戒していなかった兄妹は、急な動きに驚き共に3歩ほど下がる。
少年は数泊ほど間を置いて、かすれた声でこう言った。
「水・・・・・ください・・・・・」
トンが急いで水差しを少年に渡す。
ゆっくりとした所作で水差しにそのまま口を付け、10秒ほどかけて相当量の水を飲む。空間には静寂が漂っていた
「ぷは・・・・・・」
「えっと・・・ぼく、大丈夫?」
「あっ・・・えっ・・・・と・・・・・・ここ、どこですか?」
◇◇◇
「ぷは・・・・・・」
土器の水差しで水を飲むという初の体験を終えてあたりを見回すと、兄妹らしき二人がこちらを警戒気味に眺めていて、その母親らしき女性が心配そうに何かを言った。
何かを聞いているような感じだったが、完全に聞き逃したので少々焦り、とりあえず今一番疑問に思った事を聞いてみる。
「あっ・・・えっ・・・・と・・・・・・ここ、どこですか?」
「私たちのお家よ。ぼくの名前は?」
「え?名前・・・・・・あっ、龍です。」
「リュウくん?っていうのね。えーーっと・・・ちょっとここで待っててね、森で倒れてたぼくを助けた男の人呼んでくるからね。」
「わ、わかりました。」
そういって女性は動物の皮でできた扉と思わしき所から出て行った。
(えっ?ここ本当にどこ!?あの人は多分助けてくれたんだろうけど・・・・なんか全体的に文明レベルが石器時代基準じゃない!?)
(ん?・・・・・というかこの家どうなってんの!?床が土むき出しなのは別にいいけど、壁と屋根これどうなってんだ!?これ木材を組み立てただけじゃない?屋根とか板乗っけただけにしか見えないんだけど・・・すぐに崩壊する気がする・・・・でも内装を見る限り、結構ちゃんと住んでるんだよな、ここに・・・・・どうなってるんだろう?)
内心何かの拍子に家が倒壊して下敷きになるんじゃないかとびくびくしながらあたりを見回していると、兄妹らしき二人が近づいてきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
完全に無言でこちらをまじまじと見てくるため、とりあえず挨拶をしておく。
「こ、こんにちはー」
「・・・こんにちは」
兄が代表して挨拶を返して、妹は後ろでじっと俺を見つめていた。
(すごい警戒されてるな・・・・というかやっぱり、どっかの民族みたいな服着てるな。ここ何なんだろ。)
そのまま微妙な空気の中待つこと十数秒。外からどたどたという足音が聞こえ、扉から大男が現れた。
「あっ!大丈夫かい?ぼく」
(でっか!でっか!2Mくらいあるか?迫力すご・・・・・)
「えっと、は、はい、大丈夫です!」
「リュウって言う名前なんだよね?リュウくん、自分がどこから来たか分かる?」
(うわ、体格のわりにすごい言葉使いが柔らかい人だな・・・じゃなくて、なんて答えよう・・・・)
「・・・・・分からないです」
「そっか、お父さんやお母さんは?」
「何もわからないです・・・・」
(実際俺、何も分からないんだよな・・・・今どういう状況なんだろう・・・なんか体が子供になってるし、色々分からないことが多すぎる。身の振り方を一回落ち着いて考えたいな・・・・)
「えっ、お父さんやお母さんが、どこにいるか分からないの?」
「何も・・・・分からないです・・・・」
大男と女性は心底驚いたという顔をして、顔を背けてこそこそと相談しあう・・・が、結構普通に聞こえている。
「どうして何も教えてくれないのかな」
「本当に分からないんじゃないかしら?」
「子供がお父さんやお母さんのことを聞いて分からないことってあるのかな・・・」
「あっ!記憶喪失っていうのがあるって聞いたことがあるわよ、それじゃない?」
「どっちにしても、どうすればいいのかな?村の人は誰も知らないっていうし・・・」
「私たちが連れて来たんだし、私たちが面倒みるってことでいいんじゃないの?」
「君がいいっていうなら僕は構わないけど、この子はどう思うか確認しないと」
「そうね!」
すると俺の方に振り向き、駄々洩れだった相談内容の流れのまま尋ねてくる。
「リュウくん、行くところがないんだったらここで生活する?心配しなくていいわよ、誰も怖い人なんていないから。」
「リュウくんはどうしたいかな?」
(えぇ・・・・・・・どうしよう・・・・・現状がどうなってるか分かってないからいったん落ち着いて考えてからどうするか決めたいんだけど・・・・あぁすっごいこっち見てくる・・・・)
(多分、悪い人たちでは無いと思うんだよな・・・・・うーん・・・・・いったんここで生活させてもらって、後のことは後で考えればいいか!)
「・・・・・・・・・・・ここで・・・・暮らしたいです」
そう言うと、夫婦はリュウを安心させようとしてか、リュウを強く優しく抱きしめた。
「すごく不安だろうけど、僕たちが本当の親だと思って甘えていいからね」
「そうね、何か言いたいことがあったら遠慮せず言っていいからね。」
「あ、ありがとうございます・・・・」
(なんか、伝わってくるな、優しい人オーラが。その分だけなんか申し訳なくなってくんだよなぁ・・・今は体が子供みたいになってるらしいけど、精神は高校生なんですよ・・・)
夫婦は数秒ほど無言で抱きしめた後、自身の子供たちに話しかけた。
「アルタ、パン、この子と今日から一緒に生活することになったけど、友達になってあげるんだよ。いいね?」
夫が言うと、兄妹は素直に返事をした。
「わかった」「うん」
すると兄がこちらに歩いてきて、そのあとを妹が追い、兄が握手を促しながらこう言った。
「・・・リュウくん、よろしく」
拒否する理由などないため、手を取って応えた。
「よ、よろしくね」
こうして、この家での生活が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます