起床

無の中に居た。何も感じないし何も考えられない、ただの無。

永遠か、それとも一瞬か、そもそも時間が経過しているのか定かではないが・・・ふと、自分という存在を認識した。

体がうつ伏せになっていることに気付いた。地面に顔がついていてうまく呼吸ができない。土の臭いと味がする。


(息・・・息!息が!!!くるしい!!!!!)


焦って一心不乱に体を動かそうとした。どれだけ動かそうとしても体は強張るばかりで思い通りに動かない。


(死ぬ!!死ぬ!!!!怖い!!!いやだ!!!!)


体が動かせない怒りや恐怖で発狂しそうになる寸前、腕の動かし方を思い出し、顔を上げて呼吸をすると急激に思考能力が戻ってくる。


「フッハッハッハッフ、ハァッ、ハァツ、ハーーーー」

(あ、そういえば体ってこうやって動かすんだった。なんか忘れてた気がする。)


「おえっ・・・ぺっぺっ 土食っちゃったよ」

独り言を漏らしながら仰向けで大の字になり、思考を巡らす。


(えっと、ここどこ?森?なにこれ?)

(あれ、俺さっきまで何してたっけ、なんでここにいるんだ?)


何かを考えるたびに頭が冴えていき、猛烈な現実感が襲ってくる。


(そういえば、俺死ななかったっけ!?え?夢?もしかして夢?どっちが夢!?あっち!?こっち!?)

(もしかして、天国的なところ?本当に天国的なそういうのがあったのかな?)


ふと、風が吹き、木の葉どうしが擦れ合うサラサラという音を、何とはなしに呆然と聞いていると冷静になってくる。


(とりあえず起きていろいろしたいけど、体に力が入らないな。なんでだろう・・・・あ、おなか減ったな。)


(・・・・・どうしようかな。これ、餓死するかも。)

(あっそうだ、助けを呼ぼう、声はなんか出せる気がする。)


「だれがいますがーーーーーーー」

まるで10年ぶりに人と話す仙人のような声だった。

(すっごい変な声出た、なんか恥ずかしい。)


耳を澄まして待っていると、優しそうな男性の声が聞こえてくる。


「いるぞーーーどうしたーー大丈夫かーー」


(なんか今ので残ってる力全部使いきった気がする。)


足音が近づいてくる事を感じ、安心して目を閉じる。


(あ・・・もう、なんかだめだ・・・・また意識が・・・・・・・・・おなか・・・・へった・・・・・・)



◇◇◇



リーセルという名の男は狩りをしに森へ出ていた。

神経を研ぎ澄ませ、目と耳を使い今日の獲物を探している中、突然今にも死にそうな子供の声が聞こえてきた。


「だれがいますがーーーーーーー」


声はさほど大きくなかったが、ちょうど耳を澄ませていたのではっきりと聞こえた。

リーセルは子供を二人持つ優しい男であったので、一片の迷いもなく声に応えた。


「いるぞーーーどうしたーー大丈夫かーー」


返事が無いので急いで声の方へと向かう。


草や枝をかき分け、少し開けたところに出ると、真っ裸の子供が仰向けで寝そべっていた。

一瞬何かのいたずらかとも思ったが、よく見てみると顔に生気は無く、足や腕はか細い。


「大丈夫か!?おい!返事できるか!」


屈んで少年の頬をたたき、意識の確認をする。

すると少年の口がゆっくりと開き。


「おなか・・・・へった」


と、今にも消えそうな声で言った。

一瞬呆然としてしまうリーセルだったが、真っ裸で森に一人子供を寝かせておくわけにもいかず、とりあえず背負って家に帰ることにした。



数十分前出たばかりの我が家の戸を開け、愛する妻に自身の帰宅を伝える。


「トン!ただいま!」

「リーセル?どうしたの、出て行ったばかりじゃない。」


自分の背をトンに見せ、背負っている少年を見せる。


「どうしたの?その子」

「森で倒れていたんだ、おなかが減っているらしい。」


トンと会話をしながら少年を藁のベットに寝かせる。


「可哀そうに・・・まともにご飯を食べてなかったのかしら、腕がこんなに細いわ。」

「この子、見覚えある?」

「無いわね・・・・どこから来たのかしら?」

「あっ、と、というか、どうすればいいんだろう。何か食べさせた方がいいのかな。」


リーセルもトンも、腹が減って気を失っている子に何をしてあげれば良いかなど、全く知らなかった。


「あ、そうね!えっと、寝ている子に食べさせるにはどうすればいいのかしら?」

「細かくすれば、寝てても食べれるんじゃないかな?」

「そうね、試してみるわ!」


「僕、何か手伝えることあるかな?」

「うーん・・・今はないわね。」

「えっと、じゃあ僕は、この子のことを知っている人がいないか聞いて回るよ。」

「分かったわ、いってらっしゃいあなた。」

「いってきまーす。」

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