043. 独白の余韻




その少し後。




――ズビッ。



はなを啜るラウル、充血した目を手首の内側で拭っている。




「あ゛~……。す゛ま゛な゛い゛……。


 情けない所を見せてしまった……。」




「ううん。そんなことないよぉ」



ほんのりと優しい笑みを浮かべて


もたれ掛かっている後頭部をぐりぐりと腕に押し付ける。




「……はは。だがすっきりした。


 俺はやはり愚かな男だったんだな。


 自分の妹のことすら信じることができていなかったんだ。」




「ラウル……。」




「いや、心配しなくても良い。もう大丈夫だ。


 もう、迷うことはない。」



心の底からの言葉。


顔は涙の後が残っているが、とても晴れやかである。




「アシュリィも。


 見苦しい所を見せた上に色々世話になってしまったな。」




「いいよぉ。


 何だか良い物見せてもらっちゃったし。」



横に生えた耳が少しへなりと垂れている。


どうやら貰い泣きをしていたようだ。






「……それにしても、


 まさかこんな所で【啓示】を受けるとは思わなかったな……。」




「「……え?」」



二人の声が揃う。




「【けいじ】って『星の道』の?」



リリナが不思議そうに問い掛ける。




「え? ……えっ!?」



アシュリィが困惑している。




「あぁ。過去のことが直接頭の中に……って、


 え? 俺だけだったのか?」




あれだけはっきりと意識に働き掛けたのだ。夢ではない。


意識下へストンと降りてくる、自然と「これは真実だ」と納得してしまう感覚。


誰から証明をされることがなくとも、今までに経験がなくとも、


これが『星の道』による【啓示】だと確信できる。




「え~いいなぁ。私わかんなかったぁ。」



羨ましそうにラウルを見つめる。




「あたしは……。」






――少し前に遡る。




「もっと、もっと簡単なことだと思うの。」



二人のやり取りを見て


涙をほろりと流し、手にはそれを拭くための布を用意して


うんうんと頷いている。鼻水が垂れそうだ。




人間の少女から言葉が発せられたその時。




一瞬、背筋にぞわりと何かが奔り、尻尾の毛が逆立つ。


悪寒……とは違うが周りをキョロキョロと窺う。



再び二人の方へ顔を向けると、


ラウルがきょとんとした顔で涙を流し、嗚咽し始める。



そして貰い泣きをするアシュリィ。






 ――



「……って、まぁこんな感じなんだけど。」



改めてラウルの方を、少し目を細くして見て




「確かにラウルから【名残の光】出てるね。」



ラウルを包むように、


薄ぼんやりとした淡く陽炎のような光が見えている。




「何でまた急に……。しかも町の中だぞ。


 そんな気配もなかったはずだが……。」



「そればっかりはねぇ……。気まぐれが過ぎるでしょお。


 あたしまぁた体験しそびれちゃったなぁ。」




上を見上げ、残念そうに声を漏らすが


はっと何かに気付き、ラウルに問い掛ける。



「あっ! そういえば!


 過去のことが直接頭の中に……ってどういう感じだったの!?」



興味津々でぐっと顔を向ける。




「言葉通りの意味さ。一瞬の出来事だったみたいだがな。



 内容については……。


 あれだけ恥を掻いたんだ。


 もう勘弁してくれ。」



スッと立ち上がり、含羞はにかむような苦笑を浮かべ返事をする。




「朝食もまだだろう?


 奢るからそれで許してくれないか。」



「っ! いくーっ!」



リリナが朝食という言葉に反応して元気よく寝床から降りる。


ラウルが体調の心配をするが、どうやら万全の状態の様だ。


ふんぞり返るように絶好調を主張している。




そのやり取りを見て、これ以上は野暮と判断したのか


微笑みを浮かべて軽く鼻で息をつき、その後を追うアシュリィ。






――先程、ラウルが座っていた場所の陽炎が


  薄らとリリナが座っていた場所へ棚引いていたが


  それには誰も気付かず、光が霧散していく。



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