041. 懊悩の贖罪




気まずい空気が朝の室内を流れる。


リリナも何と声を掛けたら良いか分からず


口を開こうとして躊躇ためらい、もどかしそうにしている。




「そのあと……どうなったの……?」



アシュリィが慰めや皮肉でもなく、


単に疑問を呈するといった口調で先の話を促していく。



頭を抱えていた両手をゆっくりと膝の上で組み直す。



「逃げたさ……。我が身可愛さにな……。



 枝や葉が衝撃を和らげてくれたから着地は何とかなった。


 一度捕まったからかアイツが追ってくるようなこともなくてな……。


 集落から離れるように一目散に走り続けたんだ。




 ……その後、ある人に面倒を見てもらい


 集落や襲ってきた奴らの情報を探して旅をするようになった。



 ……だが、妹や仲間達がどうなったのかは結局分からず終いだ。



 さすがに俺一人の力では限界を感じてな……。


 それで今は『星の道』を頼りに旅をしている、というわけだ。」




「【啓示】を受ければ真相や妹さんの行方が分かるかもしれないものね。」



納得するように相槌を打つアシュリィ。




「あぁ、その途中でリリナと会った。」




リリナへと顔を向け



「……お前に辛く当たってしまったこともあったが、


 全て俺の弱さが原因だ。本当にすまなかった……。



 助けて面倒を見ると言ってやったことも……。


 決して俺が優しいとか……そんなものじゃない……。



 ……身勝手な罪滅ぼしさ……。


 あの時妹を助けてやれなかった無力な俺のな……。」




再び沈黙が流れる。



目を伏せて聞いていたリリナがアシュリィの腕を解き、


床にずりずりと降りる。



そして口を開く。



「ラウルはさ。」



膝の上にある獣人の手に優しく両手を添える。



「ううん、ラウル



 ……。


 怖かったんだよね?」



その手を見つめ、優しく声を掛ける。



「きっと、死んじゃいたくなるくらい悩んで。


 考えて考えて。後悔して。


 それでもどうすればいいか答えが見つからなくって。



 だから、時々すっごい悲しそうな顔してたんだって


 今、分かったの。」




「だからそれは……。」



ラウルが辛苦の表情を浮かべる。


首を横に振るリリナ。



「ううん、でも。


 あなたが私を助けてくれたから今こうしてお話しできてるの。



 あなたが前にすごく後悔することを選んじゃってたとしても


 それがなかったら私は今頃きっとここにはいなかった。



 多分、それはすっごく大事なこと。」




「(しかし)……。」



言い掛けるが止めるラウル。口を噤んでいる。




「それにきっと……。」



ラウルに顔を向ける。



「きっと妹さん、ラウルのこと恨んでないよ。


 分かるもん。」



「――!」




ラウルの目が鋭くなり、声を荒々しくあげる。



「だが! あの時あいつは!


 あの時の顔は――!!」




――崖へと倒れ込む瞬間、


  灰毛の少女がその小さい牙を護衛の腕に突き立てながら、


  目を見開きこちらを凝視している。


  驚くように。め付けるように。



  ――助けを求めるように。






「……軽蔑されたんだ……。


 何で逃げるのか。何で助けてくれないのか。と……。



 仲間や家族を見捨てるような真似を……。


 決して許されるようなことじゃないんだ……!」




悲痛な表情を浮かべながら。


まるで自分を戒めるかのように。




「……きっとね、ラウル。」



尚も優しい口調で語り掛けるリリナ。






  ――「「もっと、もっと簡単なことだと思うの。」」






銀髪の少女が灰毛の少女と重なる。



突如としてキーンと耳鳴りがし、視界がぼやける。






     ――『星の道』が発生する。



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