040. 狼人の兄妹
――外では小鳥の
少し沈黙が流れ、
「……ウル……ラウルはさ……?」
アシュリィの胸元から顔を離すリリナ。
涙が頬を伝っている。
ラウルの方へと向き直り、おそるおそる質問をする。
「前、兄妹が離れ離れになっちゃったって言ってたよね……?」
「……ああ。
姉はその日、別の家族と一緒に隣町へ物資調達に向かっていた。
結局その後会うことも出来なくてな。
集落へ帰った時はさぞ驚いたろうさ……。」
考えるように目を伏せた後、
意を決したようにゆっくりと口を開く。
「兄は……正義感が強かった。
身体能力も高く、同じ年代の子供達の中でも群を抜いていた。
……ただ……相手が悪かったんだ……。
一個体しかいなかったはずのそいつは、大人を相手取っていたにも関わらず、
住人を一人たりとも逃がさない程の速さと強さだった。
もちろん俺達のことも見逃すはずがなかった。
それで兄は俺達弟妹を逃がすために戦ってくれたんだ。
それこそ身を挺してな。
……。
結果は……まぁ、分かるな……。」
リリナが口をぎゅっと結び、両手をお腹の辺りで握り締めている。
涙を流すまいと、一言一句話を聞き逃すまいと。
真剣にラウルを見つめている。
アシュリィがそっとリリナを自身の膝の上へと抱き寄せ、
その固く握りしめている拳を半人の手でふわりと包み込む。
そして、アシュリィもまたラウルの方へと真剣な眼差しを向ける。
「……そして……妹か……。
……俺の……せいで……。
俺が不甲斐ないばっかりに……!」
悔しみの感情が溢れ出す。
一度天を仰ぎ、深呼吸をする。
「……すまない。
……。
妹は気立てが良く、色々なことに気遣えるやつだった。
そして、泣き虫でよく笑うやつでもあったな。
そういう所はリリナと似ていたかもしれん。」
「……私?」
アシュリィの腕に包まれているリリナが返事をする。
ラウルが優しい微笑みを返す。
そして、再び真剣な顔になり話を続ける。
「俺と妹は兄に庇われ、必死に二人で逃げ出した。
……だが、そいつの動きが尋常ではなかった。
兄が作ってくれた少しの時間すら物ともせずに追い付かれ、二人とも捕まってしまった。
その後は、物凄い速さで引き摺られ、集団の前へと放り投げ出されたんだ。
おそらく奴隷商か、どこぞのお偉いさんの従者辺りかもな。
捕まっている仲間の姿も見えた。
戦闘はそいつに任せて、崖の上に拠点を築いて
文字通り高みの見物を決めていたわけだ。」
「……最低。」
アシュリィがぼそりと呟く。
「ああ……。
そいつはまた集落へと向かっていったんだが、
……問題は……この後だな……。」
話し続けることを渋る素振りを見せるが、
床へと視線を落とし、再び話し始める。
「熊や虎といった、いかにもな護衛の獣人達が俺達を拘束しようと近付いてきたんだが……。
俺は……何もできなかった……。
……単なる臆病者なんだ……俺は……。」
言葉には諦念の感情が入り混じっている。
「……近付いてきた護衛達に牙をむいたのは妹だ。
普段大人しくて笑顔を振りまいていた妹が一矢報いてやろうと戦ってくれた。」
悔恨の感情が溢れ出しながら話を続けていく。
「だが俺は……! 膝が震えていて立つこともままならなかったんだ……!
近くで仲間達の臓物を見、匂いを嗅ぎ、それをやった奴に身体を掴まれ……!!
何とか立ち上がろうとしたが、足元が覚束なくて崖の方に倒れそうになって……。
……本来なら持ち直せるはずだったんだ……体を翻して妹の元へ行くことができたはずなんだ……!!
だが……それができなかった……しなかったんだ……。
捕まることが怖かった。捕まるくらいならとそのまま崖へと倒れ込んだんだ。
……そう……逃げ出したんだよ俺は。仲間も……!
兄に託された妹すら見捨てて……!!
崖へと倒れ込んだ瞬間の……妹の……
……その時の顔が……頭から拭えないんだ……!!」
両の掌で目頭を押さえ込み、頭を抱えている。
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