038. 失神の直後




――。




……。




「う……ん……。」



目をゆっくりと開ける。




「あっ。気が付いた!」



女性の声。アシュリィだ。




「ほらぁ~。お医者さんも言ってたじゃない。


 大丈夫だって。」



リリナの寝床の足側で腰掛けている。




「……いや。しかし……。」




いつもより低い位置、そして近くからラウルの声が聞こえてくる。




「リリナちゃん大変だったねぇ。


 でも、あの後も凄かったんだから。」



「……え?」



きょとんとした顔で話を聞くリリナ。




「おいばかやめろ……!」



珍しくラウルが焦って言葉を遮ろうとする。




「いいじゃない。自業自得よ。


 こんなかわいい子を突き飛ばしちゃうんだから。」




「ぐ……。」




言い淀んでいる。アシュリィが攻勢のようだ。




「あの後ね――」






――経緯はこうだ。




リリナの失神を確認した後、


物凄い勢いで部屋から廊下へと出てきたラウル。



壁との衝撃音を聞きつけた、


朝も早くから会いに来ようとしていたアシュリィと二階の階段前で遭遇。



事情を説明し、慌ててアシュリィがすぐに町医者を呼んで診てもらう。


多少の痛みはあるかもしれないが、打ち所が良かったのか骨にも損傷はなく、


一時的な呼吸困難で失神はしたものの、すぐに呼吸が開始されたため脳にも影響はないとのこと。




ただ、その間のラウルの落ち着きのなさが顕著だったらしい。


まるで今にも泣きだしてしまうのではないかという切迫具合に


町医者には、治すためなら全財産をなげうつとまで言い放ったそうだ。



そのあまりの取り乱しように、アシュリィが逆に冷静になってしまうほどだったという。






「――と。大体こんな感じね。」




「……その……。すまなかった……。


 体……痛まないか……?」



膝をつき、リリナの寝床の傍らでずっと付き添っていたらしい。


普段の冷静沈着なラウルから一変、少し幼さすら感じられる表情をしている。




自身の胸をさすってみる。


不思議と何処にも痛みがない。呼吸も正常だ。



「大丈夫だよ。どこも痛くないよ。」




にっこりと笑顔でラウルに微笑みかけるリリナ。


それを聞き、安堵の表情を見せる。



……が、俯き、呟く。




「……やはり、俺には無理なのかもな……。」



自分を嘲笑あざわらうように。


辛く、悲しく、そして諦めの感情が入り混じる。






   「だめっ!!」




――どふっ!



腕をピンと伸ばし切った状態の両手で勢いよく平手打ちをし、


そのままラウルの顔を挟むリリナ。



あまりの出来事にラウル、アシュリィの尻尾がビンッと跳ね上がり、


目を丸くしている。




   「そんなのだめっ!!」




「ラウルはがんばってる!


 いっぱい大変なことあったのかもしれないけど!



 私が知ってるラウルは物知りで! 優しくて!


 一緒にいてあったかい気持ちになれるの!




 ぶたれたのだってわざとじゃないって分かってる!




 でも……っ、そんな顔はだめっ!!




 私じゃ……っ、頼りにならないかもしれないけどっ!


 でもっ……話してよ……! ……教えてよ……ラウルぅ……!」




ゆっくりとラウルの顔から手を離すリリナ。


途中から段々と感極まってきてしまい、涙ぐんでしまう。




神妙な面持ちのアシュリィ。



「……あたし、席外そっか?」




「……。



 ……構わない。


 ……いや……、聞いてくれ。」




静かに俯いていたラウルが顔を上げる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る