036. 夜空の帰路




「楽しかったぁー!」



まだ湿り気のある髪をなびかせ、


リリナが晴れ晴れとした笑顔で湯屋の入口へと歩いていく。




「おや、お嬢ちゃん。これまたご機嫌だねぇ。」



受付に座っているかわうその主人が声を掛ける。



「うん! 気持ちよかったし楽しかったのぉ!」



「そうかいそうかい。そりゃあ良かった。


 またおいでなぁ。」



「うんっ! ありがと!」



屈託のない笑顔で返事をする。


うんうんと、とても満足そうな主人。



リリナの後方へと顔を向け、歩いてくるラウルへも声を掛けていく。



「狼のあんちゃんもごひいきによろしくねぇ。」



「ああ、いい湯だった。ありがとう。」




――湯屋を後にし、宿屋への帰路を辿る。




空も大分暗くなり、星が薄らと瞬いている。


手足を大きく振りながらラウルの前を歩くリリナ。


夜空を見上げ、




「お星さま、何だか少ないね。」



「町の中だからな。外に比べたら星は減る。」




「ふぅん。なんで町の中だと減るんだろ。



 ……きっと静かな方が好きなのかな。


 この町元気いっぱいだもん!」




周りを見渡すと、連なる民家や店が様々な明かりを灯し、


人の話し声で賑わいの声を見せている。




「星にも好みがあるのかもな。」



軽く微笑みながらリリナに話を合わせるラウル。




「……。」




ふと、アシュリィの言葉を思い出す。



 * 「実際【『星の道』は人が足を踏み入れないと発現しない】ってことも多いらしいよ。


 *  その人の気持ちを理解して『星の道』が変化する……みたいな。」


 * 「自然現象が……?」




緩やかに足を止め、考え耽る。






「――ラウル?」



ラウルが付いて来ていないことに気が付いたリリナが足元で顔を見上げている。




「ああいや、星もまるで生きているようだな。……と。」



「ねっ! お星さまとお友達になれたらいいなぁ。」




「……そうだな。」






 ― その辺りは学者や研究者の領分だ。


   俺が考えるようなことでもない。






   ……だが、仮に【奇跡】と呼ばれるものに


   意思があるとしたら……?



   法則性や再現性があるのだとしたら……?




   人助けや利便性を重視されるならまだ良い。


   もし悪用されでもしたら……。




   ――…………な……?






「――ラウルー?


 だいじょうぶ?」



深刻な顔をしていることに気付き、


心配そうにリリナが服の裾をツンツンと引っ張っている。




「あ……あぁ、すまない、少し考え事だ。」



リリナの頭を優しくぽんと一撫でする。




「……えへへ。」



何故撫でられたかは分からないが嬉しそうに顔を綻ばせるリリナ。




「世界は常に変化している。


 もしかしたら星と友になる方法が


 今後見つかるかもしれないな。」






  ― 【奇跡】を利用するなんて大それたことが可能なのだろうか?



   俺の知識ではまだ何も解明されていないという認識だったが


   アシュリィの話を聞く限り、【星の道】の研究は確実に進んでいる。



   しかし、俺にはまだ知らないことが多すぎる。


   リリナの故郷のように人間だけの村なんてものも未知の塊だ。



   そして、も……。



   ――知るためにはやはり『星の道』を巡る必要がある。



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