034. 湯屋の様式




「そんなに珍しいか?」



新しい物を目の当たりにして細い部屋の中を行ったり来たりしているリリナ。


先程の不貞腐れ顔も落ち着いたようだ。



コクコクと頷いている。




「とりあえず服を脱いで籠に入れておけ。」



ラウル自身も、着ている服を脱いでは籠に入れていく。



胸元から腹部にかけては比較的体毛が薄くなっており、


その白く柔らかい毛の上からでも筋肉質であることが分かる。



全て脱ぎ終えると身体を一振るいさせた。



その全身の毛並があまり汚れていないように見えるのは


リリナが起きる前に既にいつも水浴びを済ませていたからだろう。




リリナも隣に来て服を脱ぎ始めた。


裾をたくし上げ、そのまま捲って脱ごうとしたらしいが


頭と両腕が引っかかってなかなかに苦戦しているようだ。



「んーっ、んーっ。」


と呻いている。




先に脱ぎ終えたラウルが服を引っ張ってやり、


すぽんと頭から服が取れ、すっきりとした顔を見せる。



続いて両腕も抜いていき、


ぼさぼさになった髪を手でかしている。




裏返しになった服を大きな手で丁寧に元に戻しつつ



「下着もな。」



としゃがみ込み、籠に入れながら声を掛けるラウル。




梳かす手を一旦止め、腰の後ろで結んである紐を引っ張ると


はらりと下着が外れ、それを籠へと入れていく。


最後に首飾りをその上に置いた。




衣類を整え終えたラウルが立ち上がり、


奥へ続く扉に手を掛ける。



こちらは比較的簡素な造りの引き戸となっており、


がららという音とともにその部屋の中があらわになっていく。




ムワッという湿気と熱気がより一層強くなる。


先程より広めに作られたその空間は石造りで、手入れも行き届いている。




部屋の奥には浴槽として使うことはできないが、


湯溜ゆだめ】という、定量のお湯が張られている木製の設備がある。




   ― ― ― ― ―



 壁の奥から繋がっている樋を伝い、その湯溜めへと水を流し込む。


 その湯溜めの底は金属製となっており、壁の向こう側で従業員が火を焚き


 湯を作る体系となっている。


 少し大きい街であれば【遺物の紛い物フェルクルム】等を利用して湯を作る機構も存在する。




 その為、湯は定量のみ使うことができる。



 湯溜めから少し離れた位置に温度がそのままの水溜めもあるが、


 これは少し小さめに設計されている。



   ― ― ― ― ―




「わぁぁ。」



足元は湿っているため、走り出しはしないものの


ぺたぺたとその異質の空間を楽しんでいる。




「私の村、こんなお店なかった!」




ラウルが少し驚いた表情で



「それは覚えてるのか。」




「うん、思い出せないことの方が多いと思うけど。」



少し考え、はっと閃いたような顔で



「あっ、あと旅に出たことなかった!」



とラウルに顔を向ける。




「獣人を知らなかったくらいだ。


 それはまぁそうだろうな。」



少し綻んだ顔を見せ



「お前さんの村がどんな所か見てみたいものだ――。」




続きを言い掛け、一瞬複雑な表情となるが



「それはそうと湯が冷める前に使うとしよう。


 流してやるからその椅子に座れ。」




そういうと、湯溜めの近くに備え付けられている


木製の椅子へとリリナを促す。



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