030. 食堂の獣人
「何が出てくるかなぁ?」
楽しみで仕方がないようだ。
ソワソワと膝の上で動いている。
「肉、野菜、木の実や果実、水場も近いから魚もあるだろうな。」
周りを見渡しても大体そのような類の料理が見受けられる。
― それよりも、先程より視線が強くなったな……。
人間であるリリナ、しかもこんなに幼いと注目の的になるのは仕方がない。
ただ、それが良からぬ考えを持つ人物である可能性がないとも限らない。
獣人は人間より力が強靭であることがほとんどで、
目を離せばあっという間に攫われることが必至である。
攫われた先に待っているのは見世物、奴隷、愛玩道具や実験材料だけではなく、
珍味として切り刻まれ食用にされることさえある。
――ザッ
二人の隣で立ち止まる二つの気配。
警戒は解かず、ちらりと横目でその姿を確認する。
「あの……。」
長毛種の猫の獣人と尾の長い鼠の獣人、二人とも女性だ。
「そのちっちゃい子ぉ、人間ですよねぇ?」
酒が入っているのか、猫の獣人が少し
「ちょっ……と、やめなってぇ。」
気が弱そうな鼠の獣人が止めに入っているが聞く耳を持っていない。
座ったまま二人に顔を向ける。
「そうだが……何か?」
鼠の獣人がラウルの視線にビクリと反応し、おどついている。
「あー!! やっぱりいぃぃ!?」
突然大声を出し、食堂内の視線が一斉にこちらへと集まるのを感じる。
わっと机の横から肘をつき、リリナと目線を合わせようとする。
「遠くからちらっと見えたんですけどおぉ。
もっと近くで見たいなあってえぇ。」
「あー…! もう!
すみません! ほんとすみませんっ!」
鼠の獣人が引き剥がそうとするが動こうとしない。
リリナが突然の出来事に目をぱちくりさせている。
「ミャーっ!! ちっちゃあぁ! かわあぁっ!」
一通り叫んだあと、急に静かになった。
机に突っ伏したまま、体毛のある手を丸めた状態で
ゆっくりと、そぉっとリリナの方に近付ける。
リリナも少し困惑気味ではあるが、
その手を優しく両手でぽんと触ってみる。
「にゃあぁぁん!」
相当嬉しかったのか高めの声で鳴き出した。
その声に少し驚くリリナ。
「もおぉっ! ごめんねぇ! ごめんねぇ!」
鼠の獣人が必死に連れ戻そうとして謝っている。
「ううん……大丈夫だよ?」
好意を向けてられていることを感じて笑顔で接し始めたリリナ。
猫の獣人が机の上で上半身をほぼ横にしながら、
リリナに触られている手の上から
もう片方の手を優しくぽふんと乗せる。
「はぁーっ! やわらかっ!! ちっちゃっ!! かわっ!!」
興奮してはいるが、危害を加える様子はないようだ。
変なことをしないか気が気でない鼠の獣人と、
そんなことはお構いなしと、
少しの間、お互いの手と手の挟み合いをしている猫の獣人。
「よーし! 満足したぁ! いいもんもらったぁ!」
ほくほく顔で鼠の獣人を置いて自分の席へと戻っていく。
「……なんだか……ほんとごめんなさい。」
ラウルも呆気に取られている。
― この町の猫は皆こうなのか……?
「あ……でも、私も握手だけいいかな……?」
もちろんと言わんばかりに笑顔で両手を差し出すリリナ。
握手を終え、ぺこりと頭を下げ小走りで元の席へと帰っていく。
周りがざわついている。
いつの間にか自分達を中心に人だかりができていた。
私も、俺もと握手をリリナに
リリナがラウルの方を向き確認するが、
好きにするといい、という表情を確認して笑顔になっている。
―――
結局、その場にいたほぼ全員と握手をしていたリリナ。
誰も勝手に撫でようとしてこなかったのはラウルの膝上にいたからだろう。
リリナもまた満足気な顔になってはいるが、
ラウルには少し疲れた様子が伺える。
― どうやら警戒していたのは杞憂に終わったようだ。
それが何よりではあるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます