031. 充溢の饗宴




一騒動終え、ようやく落ち着けそうだ。


リリナは席に戻った獣人達に手を振られてそれを返している。



 ― この町全体がこうなら良いが……。




そうこうしているうちに先程の兎の獣人と、


おそらく新人と思われる数人が食事を運び始めた。




「お待たせ致しました。


 大人気でしたね。」



くすりと微笑みながら食器を机に並べていく。




「いや……お騒がせして申し訳ない。」




「いえいえ、お気になさらず。


 この町は人間の皆様を歓迎しておりますから。」




そして、リリナに笑顔を見せつつ



「特に人間のお子様は珍しいですからね。


 皆仲良くなりたいんですよ。」



リリナも笑顔を返す。




「そうか……。これだけの歓迎を受けたあとに


 こんなことを聞くのは忍びないんだが……。」



「はい、何でしょう?」




少し声を抑えつつ、



「この町では人間絡みの事件などはない、と考えて良いのだろうか……?」




「……ご心配はごもっともです。


 ない。と断言したいところではありますが、


 極々稀に自分を抑えきれなくなる獣人もおりますので。


 そこだけは私共としても懸念点ではありますね。」




「そればかりはそう……だな。


 ありがとう。」




「お安い御用です。


 それでは、お食事を是非お楽しみ下さい。」



再びにこりと愛想よく笑う。




いつの間にか机の上には様々な料理が並び始めていた。




香ばしい油と絡めたシャキシャキとした野菜と穀物の和え物。


あっさりとしたヤギの乳の温かいスープ。


香辛料をふんだんに使った魚料理。


先程の飲みやすい果実水とは別の、


とろりとするくらい濃厚な果実の飲み物も置かれている。




そして最後には、特製のタレにじっくりと漬け込んだ充分な量の肉が机に置かれた。



よく見ると切り口からはまだ肉汁が染み出している。


その上から兎の獣人が濃厚な蜜をたらりと垂らす。



肉からはまだじゅうじゅうと音が鳴り、


そこから溢れ出す肉と香辛料の香りが食欲をそそる。




兎の獣人がぺこりと頭を下げ、別の仕事へと戻っていく。






「これは……また。」



ごくりと唾をのむ。



旅の最中に食事はするものの、


しっかりと味付けまでしてある料理は久しぶりである。




階段からでも香ってきた良い匂いが、


眼前から直接鼻腔をくすぐってくる。



特に肉の匂いが格別だ。




これは早く食らいつきたいものだ。



「リリ……っ。」




リリナに声を掛けようとしたが躊躇ちゅうちょする。



肉の料理に目を奪われ、口をあんぐりと開けたまま固まっている。






 ――周りの獣人達は見ていた。



 先程、机の上に皿が置かれていく度に


 小さな少女が喜び、興奮し、ウットリとしていたことを。



 最後に大きな肉料理が中央にドンと運ばれたことにより


 その高揚は最高潮に達し、あまりの感動で


 口が開いたままピタリと硬直してしまったことを。




それらの一部始終を見ていた一部の獣人達は揃って噴き出していた。






「リリナ、先に口を拭け。


 冷めないうちに頂くとしよう。」



ハッと我に返り、垂れていたよだれすすり、袖で拭っている。




「いいの? こんなおいしそうなのいっぱい! いいの!?」



「ああ、俺も食うがな。


 たくさん食え。」



「やったぁ!」



とびっきりの笑顔を見せ、目の前に差し出されていた


二又に分かれた木製の食器道具を握り締める。




ふーふー、はふはふ、んーっ。


と様々な表情を見せながら食を進めていくリリナ。




その様子にラウルも満足気な顔をしつつ、


丁寧ではあるが勢いよく皿を平らげていく。




――尻尾が揺れている。



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