025. 空気の緩和
女性が真剣な目でリリナを追っている。
二人は話で夢中になっていると思っているのだろう。
気付かれないように、そろりそろりとラウルの太腿を乗り越えて
膝と膝の間にちょこんと収まり、にんまりと満足そうだ。
「――ンナアァァ……!」
急に悦に
リリナのことを見ていたラウルがその方向を見てみると、
猫の半人が寝床に倒れ込み、顔を
「……もし?」
ラウルが声を掛けると、ハッと我に返り起き上がる。
「す、すみません。
ちょっと刺激が強すぎて……。」
「はぁ……。」
気の抜けたラウルの声。
女性がふとリリナの方を見てみると、
キラキラと目を光らせて自身を見ている。
「ど……どうしたの?」
「お姉さん、猫さん……!」
リリナなりに遠慮はしているのか、
声は控えめにして感動している。
「そう……だよ。ちょっとだけね。」
親指と人差し指で少しだけという表現をする女性。
興味を抱いた少女は向かいの寝床から降り、
こちらへと近づいてくる。
「手、見てもいーい?」
声を掛けられ、狼の獣人の顔を見てみると、
お構いなく。とでも言うような仕草をしている。
それならばと
「ん。いいよぉ。」
笑顔で少女を迎え入れる。
手袋は革製で第一関節から先に布はなく、手作業がしやすいものだ。
指先は猫由来の柔らかい毛が生えていて、
少女が指先をふにふにと触り始める。
今度はこちらの膝の上へとよじ登り、
「柔らかぁい。」
と、指先を触りながら笑顔で顔を見てくる。
「―――っ!」
声にならない声を出し、天井を見上げる。
口角が下がらない。
爪は出さないように気をつけなければ。
こんな少女に傷をつけたら一大事だ。
「リリナ。」
ラウルが声を掛ける。
「そろそろ話を戻すからその辺で我慢しておけ。
そちらの方も限界のようだ。」
リリナの後ろでは猫の半人が喉をゴロゴロと鳴らし、
今にも抱きしめようかという衝動を必死に抑えている様子だ。
「うん、お姉さんありがとー!」
手を離し、そのまま膝の上からぴょんと降りて
再び狼の獣人の横へ飛び乗っている。
「……すみません。取り乱しまして……。」
息を整え、冷静に話そうと取り繕う。
「……いえ……。」
少し同情にも似た何かを感じつつ、
「それで……あなたの本能については
我々では何とも言えないと言わざるを得ないのだが……。」
今のやり取りを見て、その本能は本物ではないかという
思いがあるラウルだったが、控えた。
「あ、よければ直近で体験した『星の道』の出来事を
教えて頂ければと思いまして!」
身だしなみを整えながら改めてラウルと向き合っている。
「まぁ、その程度であれば……。」
そこから続けて
「ただ、こちらからの質問も許して頂きたい。」
「もちろんです!私に分かる範囲でしたら!」
交渉成立もして、
最初に比べ空気が柔らかいものになっているのが
リリナにも分かったらしく
「お姉さん、お名前はー?」
と寝床の上で前のめりになりながら質問を投げ掛ける。
「アシュリィだよ。よろしくね、リリナちゃん。」
どうやら二人とも緊張が
「この人はラウルね!」
両手を広げてラウルを示している。
ラウルから警戒はされていたものの、
敵対心や悪意がないことを感じ取ったのか
「よろしくお願いします!ラウルさん。」
自然な笑顔で挨拶をする女性。
それに応じるように
「ラウルで構わない。
それと、変に気を使わなくても結構だ。こちらもそうする。」
「分かりまし……分かっ……た!
あたしのこともアシュリィで!」
「ああ、よろしく。アシュリィ。」
話に区切りがつき、
「昨日の深夜――」
ラウルが話を始める。
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