024. 自室の対話




「……どちら様で?」



ラウルが扉越しに返事をする。



「ああ、よかった。


 すみません、突然押し掛けちゃって!


 さっき広場でお見かけして、少しお話できればと思いまして!」




快活そうな女性の声が聞こえる。



「話……とは、どういうご用か先にお聞きしても?」



警戒をしつつ話を続けるラウル。



リリナは扉を意識はしつつも、両手で口を抑えて


ラウルの様子を窺っている。






「そうですよねー!ごめんなさい。


 お二人が最近『星の道』を体験されてたみたいなのでつい―――。」



その後も何かごにょごにょと弁明を続けていたようだが


二人が驚いた様子で目を合わせる。




「確かについ先日……だがそれを何故あなたが?」



「あー!ですよね!焦っちゃってすみません!


 お二人から光がうっすら見えてたんです!なびいてました!」




ラウルは訝しげに扉を見、リリナは自分の体を見回している。



「……ええと……。」



どういうことか尋ねようとした矢先、




「あたし、『星の道』の【名残】を見ることができるんです!」



ラウルの目が少し真剣になるのを感じる。


獣人は基本的に『星の道』の存在を本能で感じ取ることができるが、


五感を伴って知覚できる者はそう多くない。




「あっ、【名残】っていうのはそれっぽい光が見えるだけなんですけど!


 それで、知りたいことがあって『星の道』について調べたり、


 体験するために旅もしてて……。」




「リリナ……。」



鼻をヒクヒクと動かしていたラウル、そして目配せをする。


両手を膝の上でぎゅっと握ったまま、コクンと頷く。




――鍵を外し、ゆっくりと扉を引く。




まるで黄金のような、透明感のある琥珀色をした髪。


そして毛並みのある大きな耳が顔から横方向に生えている。


美しい金色の瞳を持ち、肘から手にかけて薄っすらと体毛があり、手袋をしている。




先程の猫の【半人ディフテシュモ】だ。




「一人……ですね。


 ひとまずあなたを信じてお通しするが、


 連れに危害を加えるようなら容赦はしないということは覚えておいて頂きたい。」




「もちろんです!そんなことしません!」



丁寧ながらもその巨体に圧倒され、


尻尾が一瞬ぶわっと膨らみピンと立つがすぐに穏やかになる。




ラウルが先に歩くが、椅子はないため奥の寝床に腰掛ける。



手前の寝床に座っていたリリナだったが、


とてとてと小走りで近付きラウルの隣にちょこんと座る。




「わあぁ……っ。」



女性から歓喜の声が漏れ出している。



「人間の女の子だったんですねー。


 こんなにちっちゃい子、初めて見たぁ。」



リリナがぱちくりと女性を見ている。


ラウルが寝床に座るように促すと。



「あ……どうも。失礼しますね。」



いそいそと向かいの寝床に腰を下ろす。




「それで、話というのは。」




「はい。


 ……。」




少し思い悩み。




「あたし、『星の道』ってまだ行ったことなくって。」




「……え。」



ラウルが困惑している。



「一度も?」



「はい!」




元気に返事をする。




「そんな【名残】を見ることができるような特殊な体質なら


 てっきり相当な経験者なのかと。」




「いえいえ! とんでもない!全然です!」



両手をこちらに伸ばし、ぶんぶんと横に振っている。




「いつかは行くぞ! と思ってはいるんですが、


 中々勇気が出なくって。」



「旅をしてきたのなら道中『星の道』と出くわすこともあるのでは?」




「あ~……はい。予め目で見えるので、避けて通ってきたんです。


 獣人の方なら危険かそうでないかもある程度分かるそうなんですが、


 あたし、半人なので……いまいち本能信じちゃっていいのかなって。」




「なるほど……。」




話している最中、手持無沙汰だったリリナが



ラウルの方へ目をやり、無防備に体を動かそうとする。




――女性の目が鋭くリリナを捉える。



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