023. 太古の遺物




リリナには少し急な階段のようだ。


一段一段、両の足を付いてからまた上がってくる。




二階まで来たが、まだ上へと続く階段がある。


どうやら三階もあるようだ。




技術的にも、資源的にも、


城下町級の集落でもない限り


三階層以上はそうそうお目に掛かることがない。




店の内装といい、受付嬢の立ち居振る舞い、そして三階層以上の建築。


特段嫌な匂いもしない。


どうやら信頼のおける宿ということで間違いはないらしい。




少し遅れてリリナも合流した。






「さ、こっちだ。」



鍵に付いている紋様を確認しながらリリナを案内する。




廊下の所々にも趣のある小物が飾られている。


盗られたりしないようにある程度固定はされているようだ。



そして、各部屋の壁にはじんわりと発光する物体が埋め込まれていて


夜でも歩く分には問題なさそうに思える。




「きれいだねぇ。」



リリナが発光体に目を奪われている。



「それも遺物の一種だな。」



「さっき言ってた【太古の遺物】?」




「あぁ。厳密に言うと少し違うのかもしれんが……。」



言いかけて、同じ紋様の扉を見つける。




「ここだ。」



奥から二番目、左手の部屋。




取っ手の下部にある穴へ棒状の鍵を差し込み、


捻ることで扉の内側にあるかんぬきが外れる仕掛けになっているが、


背の高い、そして手の大きいラウルにとっては中々に骨の折れる作業だ。




「貸してー。」



リリナが鍵を受け取り、穴へと差し込み、捻る。




―――カチャン



かんぬきが外れる音が聞こえる。




鍵をラウルに返すと取っ手を握り、扉を引こうとする。



……が、びくともしない。




「あれ?」






「押し戸だな。」




「……。」



無言のまま、そおっと押し直して扉を開く。






物を置くための木箱、そして丸机に大きな寝床が二つ。



そして奥には窓が見える。おそらく広場を眺められるのだろう。


木の戸によって閉めることもできそうだ。




荷物袋を肩から降ろすラウルに声を掛ける。




「さっきの光ってたの、遺物じゃないの?」





「そうだな、【遺物になった】が正しいかもしれない。



 ああ、そもそも【太古の遺物】という名前は


 【すごく古い物】という意味だと思ってくれ。」




リリナが頷いて、片方の寝床に後ろ向きにぴょんと跳ねて座る。




「遺物その物を使うと値段が果てしないものになる。


 あれだけの数はさすがに違うだろう。


 ここがそれだけ儲かっている可能性もあるにはあるが……。」




外套を渡すように手振りをする。



それを見て、外套を脱ぎだすリリナ。




「お前も目にした通り、『星の道』の産物だろうな。


 あの場で影響があったものは元に戻ったが、


 その影響がなくならずにそのまま残るものもある。



 そういうのも含めて【太古の遺物】と呼ばれるんだ。」




「??……古くなるの?」




外套を手渡しながら、納得のいかない表情をしている。




「そう、【古くない】のに【すごく古い物】と呼ばれるようになるんだ。


 何故かは俺にも分からない。誰もが気にする所ではあるな。」




外套をはたき、壁掛けに引っ掛ける。




「まぁ、昔のお偉いさんが決めた言葉らしいから何とも言えん。


 あくまで【正式な言葉】だと【太古の遺物】となる。



 だが、それでは使い勝手も悪いし紛らわしい。




 それで区別するために、


 『星の道』の影響を受けて【太古の遺物】になった物は



 【 紛い物フェルクルム 】と呼ばれるようになったんだ。」




「フェルクルム。」



何となく口に出すリリナ。




「ぱっと見は奇跡を起こしているような代物だからな。


 物としては貴重なんだが、耐久性や取り扱いに難があったりもする。


 そういうこともあって比較的安価になるわけだ。」




「あんか…?」



首を傾げる。




「安い……という意味だな。すまない。」






―――突如。



コン、コン、コン。と扉を叩く音が部屋に響いてきた。



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