015. 奇跡の残滓




―――




―――光が弱まる。




幻想に彩られた世界が現実味を帯びていく。


発光、明滅していたものが次第に本来あるべき色合いへと移り変わる。



浮かんでいたものはゆっくりと重力に引っ張られ、地面へと落ちていく。


星となって空に降っていった極小の粒子たちの行方は定かではない。




「ラウル……これ…。」



「ああ。もう終わるようだ。」




次第に浮遊感がなくなり、耳の奥からゾワゾワと何かが抜けていく感覚。



景色の輪郭がはっきりと姿を現し始め、夢現ゆめうつつの夜空から美しい月夜へと変遷する。




「………。」



リリナがぷるぷると震えている。




「リリナ…?」






「…ごい……」



「ん?」






「すっ……ごいっ、すごいすごいすごいっ!


 すごいよラウルーっ!」




せきを切ったように飛び跳ねるリリナ。




「あんなの初めて見た!きらきら!ふわふわって!」



「あ…あぁ、俺もあそこまでのは初めてだな。」



勢いに押されるラウル。




「すごい、すごいねぇ。」



恍惚とした表情を浮かべるリリナ。まだ夢見心地のようだ。




「散々聞かされ、目でも見てきたが、


 これほどのものをいざ目の当たりにすると圧倒されてしまうな……。」






鼻を動かし、辺りの様子を窺うラウル。



「確かに驚きはしたが、また朝は早いぞ。


 そろそろ寝るとしよう。


 明日中に次の町に着きたいしな。」



「あれ?『星の道』は?」




「どうやら本当にさっきのが目指していた『星の道』だったらしい。


 今まで感じていた方向へはもう何もない。まったく、よく分からんな。」




「そっかぁ……また見てみたかったなぁ。」




「いつもああいった現象が起きるわけじゃない。


 『星の道』を研究する学者もいるそうだが、何も解明には至ってないそうだ。」


 ……ほら。」



落ちている毛皮を拾い、リリナの肩に羽織らせる。




「ん。ありがと。


 ………。


 ……ラウル。ちょっと変わった……?」



顔を見上げる。




「……あぁ……。よく気付くもんだ。


 お前の言う通り、少しは気持ちの整理ができたのかもしれないな。」




「そっか。」



よくは分かっていないのだろうが、にっこりと満足そうにしている。




「さ、俺の用事は一旦終了だ。


 明日は進路を変えてお前を安全な町に送り届ける。」




「……あ。


 …うん。そう…だよね。うん、ありがと!」



笑顔で返事をするリリナ――。






最後に焚き火の調整をし、荷物袋を確認してから寝床の石の方へ向かうラウル。






―――すると。






「あっ!!」



リリナが突如叫び声をあげる。




「!?」


その声に反応し、前傾姿勢で体をひるがえす。



「どうした!大丈夫か!?」








「――下着!乾いてるの!!」



端に紐がついた、途中がくびれている細長い一枚布をピシッと引っ張り


こちらに見せつけている。






「……そうか。」






「これも奇跡かなぁ!ラウル!やったぁ!」



いそいそと下着をつけ始めるリリナ。






「……そうだな…。」






―――夜が更けていく。






   ―――






数時間後。




石を背に、ふと目を覚ますラウル。






傍らには



ラウルの睡眠の邪魔はしないよう、ほんの少しだけ服の裾を握り


顔に何か流れた跡が残るリリナが寝息を立てている。




「………。」




その少女を風から守るように、



大きな獣人は体を丸め、柔らかい尻尾をふわりと乗せる。



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