013. 青藍の星夜
―――。
―――くしゅっ。
毛皮に包まれ眠っていたリリナが小さなくしゃみをする。
「ぅ……ん。」
焚き火は消え、陽が完全に落ちて静かな夜空だ。
昼間に聞こえた獣や虫の声も聞こえず、
湖には空の星が反射して
「静か……。」
寝惚け眼を擦り、体をゆっくりと起こす。
全身をぶるっと震わせ
「おしっこ……。」
空には星が満遍なく輝き、辺りは月明りに照らされている。
毛皮を肩に羽織り、周りを見渡す。
ラウルが石を背もたれに目を瞑り座っている。
足元を確かめるようにゆっくりと歩を進め
「ラウル。ラウル。」
とか細い声を掛ける。
「起きてる。
ここにいるから裏の木の方でしてこい。
あそこなら気配くらい分かる。」
そういうと石の裏側の奥の方にある、数本生えている木を指差した。
「……一緒に来てもらっちゃ…だめ…?」
「………。」
―はぁ。と溜め息をつくとその巨体を起き上がらせる。
「ありがとラウル。
……あのね。この縄持っててもらっててもいい?」
腰に巻かれている縄の先をおずおずとラウルに手渡す。
言われるがまま縄を掴むラウル。
― ……甘やかし過ぎだろうか……。
リリナの歩幅に合わせて歩きながら、ふとそんなことを考える。
― ……しかしこの縄、どうにかしてやりたいがナイフで切るには太さがな……
明日、せめて短くしてやるか……。
木まで辿り着き、裏側にリリナが回り込む。
「持ったままね。
ちょっと待っててね。」
木に
「ラウル。私ね。」
屈む衣擦れの音が聞こえる。
「村のことは本当に思い出せないし、
気がついたらこわいことばっかりで【死んじゃうんだ】とも思ったの。」
――シュルッ
「だから、ラウルに助けてもらってすっごく嬉しかった。
やさしいし、おっきいし、いろんなことも知ってる。」
目を細め、静かに聞き入るラウル。
「だからね、ラウルと一緒にいるとすっごく楽しいし、
ラウルにも喜んでもらいたいの。
……
私、何にもできないけど、喜んでもらいたいのに。何にもできないけど……。
でもね……
何だかラウル、いつも悲しそうなの。
ときどき、笑ってくれることもあるけど、どこか悲しそうで……。
何かできないかなって考えるんだけど、何もできなくて……。
ごめんね……。」
「………。」
考えたあと、ゆっくりと口を開くラウル。
「………俺は兄妹が多くてな―――」
話し始めると、目の前に自分の下着を握り締めたリリナが仁王立ちしていた。
「ごめんねラウル、これで拭いちゃったからちょっと洗いに行かせて?」
「……お前さんは……。」
―――
湖の畔でじゃぶじゃぶと音が聞こえる。
水面に反射する星がキラキラと波打っている。
「兄妹いっぱいいたの?」
膝をつき、自分の下着を洗いながらラウルに問いかけるリリナ。
「まぁ……そうだが。」
少し不満気だ。
「いいなぁ。」
洗い終えた下着を落ちていた木の枝に引っ掛け、石に立てかける。
「私ね、一人っ子だったの。それは覚えてる。
……でもね、皆仲良くしてくれたから寂しくなかった。」
そういうと、胸元にしまっていた首飾りを大切そうに取り出した。
紐で吊るされたその先には、透明感のある石のような、
または高純度の鉱石のような雫型のものが付いている。
外側は透明感のある淡い青色、内側は不透明で段々と濃くなっている。
「これも【大切なもの】っていうのだけは覚えてるんだけど……。」
―――その時。
「 待て!リリナ!
―――『星の道』だ!! 」
石に腰掛けていたラウルが急に立ち上がり大声を上げる。
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