012. 拝戴の夕餉
森沿いの道を歩き続け、数時間。
途中途中で休憩を挟み、遠くの崖の方に見えた町を迂回する。
そこから更に数時間――。
陽の光はまだ明るく世界を照らしているが、
「少し早いが今日はこの辺りで野宿だな。」
街道から少し外れた所にある、湖の畔へ二人は腰を下ろす。
「私、まだ少し歩けるよっ?」
大きな石の上に座り、両足をぷらぷらさせながら元気に答えるリリナ。
「そうか、元気なのは何よりだ。
だが、この先の地理が分からない以上、
安全に休息できる場所を確保するほうが先決だ。
『星の道』まで地図があるわけでもない。」
担いでいた荷物袋の口を開いて中を確認する。
「それに、明るいうちに食料や水を確保しておきたいしな。」
水が残り少ない水筒を取り出し、振って見せ、
その中から物悲しくちゃぽんちゃぽんと音が鳴っている。
「いっぱい飲んじゃった……。」
両手を口で隠し、目は横の方へ泳いでいる。
「この辺りはお前がいた森と違って陸棲の獣の気配が少ない。
……魚は食えるか?」
「うん、大好きだけど。釣りするのっ?」
リリナが期待に満ちた眼差しでラウルを見ている。
「釣りも良いが、今は早めに確保したいからな。
これを使う。」
そういうと、荷物袋の中から黒い縄の束?のようなものを取り出した。
細かく編み込まれていて、とても丈夫そうに見える。
「少し離れていろ。」
束を解くと、縄の途中で作りが変わっている。
縄の端で輪を作り、左手に固定する。
その先の方の
作りが変わった箇所を少し左肘に掛けている。
構えが整ったのか、大きく腰を捻り勢いをつけてから両手で縄を放り投げる。
縄の先は網のようになっており、その裾には重しが付いている。
大きな手から放たれた縄は花開いたかのように広がり、湖へと着水する。
左手に固定した箇所から手繰り寄せていくと、
その網の中には数匹の活きの良い魚が跳ね回っている。
いつの間にか石から降り、横でその一部始終を見ていたリリナが
「すっごぉぉい!!」
目をキラキラとさせて網の中を観察している。
「必要な分だけ獲ってあとは湖に戻してやるぞ。」
「全部は駄目なの?」
「お前が食い切れるのならそれでもいいが…
無駄な殺生はするもんじゃない。」
それを聞いたリリナは少し真面目な顔になり、コクリと頷く。
二人が相談し、それぞれが必要な量の魚を確保。
その後、残った魚を一匹一匹リリナが優しく逃がしている。
「ごめんね。痛かったね。苦しかったね。」
逃がし終えるとラウルは網を手慣れた様子で整え、
乾かすために火の準備をし始める。
「お前は水を汲んでおいてくれ。」
「分かったー!」
水筒を持ち、湖の方に走っていく。
今度は石の上に水で洗った魚を準備し、腰のナイフで鱗を剥がし
魚の内臓を取り出していく。
― これはすまないが……。
湖の中にそれらの内臓を戻し、血が付いた魚やナイフを洗い流す。
細めの木の枝を拾い、その先をナイフで削って尖らせ、
魚に刺していく。
今度は薪を準備していた所へと行き、
自身の腕を毛の根本から撫で、そこから採れた綿のような毛を薪の中にそっと置く。
荷物袋から取り出しておいた鉱石を両手に持ち、
それらを打ち合わせ、飛び出た火花がその毛に着火したのを確認した後、優しく息を吹き掛ける。
次第に火が強くなり、薪にもその火が移り出す。
「よし。」
軽く呟き、準備していた魚をその近くの地面に突き刺していく。
―――
「ふおぉぉぉ……。」
リリナが前のめりに魚を見つめている。
涎が少し垂れているのは気付いていないようだ。
「ラウル凄いね!こんなことできるんだ!」
「旅を始めてしばらく経ったからな。
これくらいはできんとすぐ飢え死ぬ。」
「どれくらい旅をしてるの?」
「そうだな……。
季節が3周したくらいか……?」
「何で旅をし始めたの?」
「それは……。」
言葉を濁す。
「まぁ、気が向いたら話すさ。
魚もそろそろ良い頃合いだ。」
見てみると、表面がじんわりと茶色く焼かれ、
出てきた油でジュウジュウと香ばしい匂いと共に音を発している。
リリナがグインと首を魚の方に向ける。
大きな瞳をぱちくりさせ、口を開けている。
口を開けたまま再びラウルの方を見つめ直し、
屈んだまま何かを訴えるように弾んでいる。
「……頂くとしようか。」
―――
そこには、小さい口を精一杯大きく開けて魚に食らいつき、
感動して得も言われぬ表情を見せている小さな少女と、
魚を食べ終えている大きな狼が、それを微笑ましく眺めている姿があった。
――日が暮れていく。
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