010. 森閑の出立
ラウルがナイフを片手に道なき道を切り拓いている。
「…そういえばっ。」
大きな作業音を出しているラウルが聞こえるようにと
少し大声で話し掛ける。
「ラウルはぁっ。どうやってぇっ。私のことを助けてくれたのっ?」
ちらりとリリナの方へ顔を向け
「普通に話して大丈夫だぞ?これくらいなら聞き取れる。」
また前方の作業を開始し、リリナに聞こえるよう少し声を張る。
「この森を迂回している最中だったんだが、
アイツの遠吠えが聞こえたから気になってな。
そうしたら悪い予感が的中したってところだ。」
「じゃあ、本当に偶然だったんだね……。」
助けが来なかった場合のことを考え、身震いする。
「まぁ、そうだな。」
「ラウルが良い人で良かったぁ……。」
目の前の尻尾の動きを目で追いながらしみじみと声が漏れだす。
「……いや……そんなんじゃないんだ……。」
リリナに聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「ん?なぁに?」
少し前に寄り、聞き直す。
「……もう少しで森から抜けられるぞと言ったんだ。」
「ほんとっ?」
自身の背丈程の草でほとんど前が見えない状況ではあったが、
木々の間から光が差し込み始めているのを感じる。
―――
ラウルが草を掻き分け、そこから眩い光が差し込んだ。
「抜けたぞ。」
「やったぁ!」
森から出る最初の一歩の境界を飛び跳ねて越えるリリナ。
「あぁ。」
ナイフに着いた草を落とし、服の
「さて……ここは……。」
周りを見渡し、位置を確認する。
リリナが足元で「草、はたいてあげるねっ」と嬉しそうに
両手で草をぽんぽんと
目を閉じ、鼻をスンスンと動かして遠くの方へ意識を集中する。
……。
「……あっちか。」
目を開けると下の方から声がする。
「……ゥルっ、ラウルっ。屈んでっ。屈んでっ。」
リリナが腕を上へ伸ばし、ぴょんぴょんと跳ねている。
「………。」
大きな狼の獣人がゆっくりと小さくその身を丸め、
小さく、嬉しそうな人間の女の子に服を
―――
大人しく
「……頭、なでてもいい…?」
透かさず
「それは駄目だ。」
と淡々とした口調で答えるラウル。いつもより少し言葉の圧が強い。
少し残念そうに
「そっか…。」
と返事をするも、
耳の後ろに草が付いているのを見つけ、
手を伸ばしてしまう。
「やめろ!!」
声を低くし、勢いよく立ち上がる。
声量自体は抑えているものの、明らかに怒気を感じた上、
一瞬垣間見えてしまった牙がリリナの体を委縮させる。
腕をビクリと引っ込ませ、涙が溢れそうになる。
「ごめん……なさい……っ!
草が…ついてて……。」
遠くの方を見、深呼吸をするラウル。
自身の手で頭上を払い、一度身震いをさせる。
「……行くぞ。」
少し声の低さはあるものの、いつもの声色に近づいている。
「……もう…しないから。頭触ったりしないから…。
ごめんね……。」
両手を胸元で握り、顔を俯かせる。
「……そうだな…。」
沈黙が流れ、ゆっくりと歩き始める。
リリナもその後ろをとぼとぼと付いていく。
が、少し歩いた後に足を止め、
「……やっぱり荷物が少し重いな。手伝ってもらうか。」
前を向いていたラウルがほんの少しだけ横を向き、口を開く。
その言葉に、口をギュッと結びながらも目をぱっと開き、
「うんっ、まかせてっ!」
と、とたとたと嬉しそうに彼の元へ駆け寄っていく。
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