009. 焚火の残香
焚き火がパチッと弾ける。
「…この近くにあるの?」
「おそらくな。」
「おそらく?」
一息入れ、ゆっくりと話し始める。
「あぁ。『星の道』は獣や獣人にとっては感覚で【そこにある】と感じられるものなんだ。
それが危険な現象かそうでないかも多少は分かる。本能的なものなんだろう。
人間の中にも一部いるそうだが、真偽は分からない。」
リリナに目を向け
「だが、現象を受けるのは何であれ同じだ。
お前が経験した通りにな。」
頷きつつ、
「近くにあるのは危なくないの?」
「多分大丈夫だ。多分な。断定はできない。
無理に付いて来いとは言わんが…。」
「ううん、ラウルと一緒にいる。」
「……そうか。付き合わせてすまないがこればかりは譲れないんだ。
それに、うまくいけばお前の記憶が戻る可能性もある。」
「さっきも話したが、『星の道』は奇跡そのものを指す概念だが、
獣人の間では、【『星の道』を巡れば願いが叶う】とまで言われている。
まぁ、実際にその場所に行くまでは何が起こるか分からないんだが……。」
「ラウルは行ったことがあるの?」
「あぁ、数える程度だがな。だが、奇跡とは言っても
その時は道が波打ったり、突然花畑が広がったりとかで
俺自身には特に何も影響が無かったよ。」
「花畑……。」
裾の水気を絞っていたリリナが興味深げにこちらを見つめている。
「その時の花畑は蜃気楼のようなもので触れることもできなかったがな。」
空を見上げ、日の光の様子を伺い、リリナへ顔をやると
「まだ少し時間はある。服が乾いたら出発するとしよう。」
それを聞くと、少し焦り気味になりながら服を乾かそうと奮闘している少女の姿があった。
―――
リリナが少し不満げにラウルの裾を引っ張っている。
二人の服装は―――
象牙色を基調にさらりとした一枚布を加工し、
袖は肘まで、足側の裾は膝下までの長さがある。
首元、袖口や裾回りには素朴ながら刺繍が入っている。
植物を丁寧に編み込まれた、足の裏側全体を覆う履物を使い、
腰には縄が巻かれているままだ。
「木の実の袋を持たせてやっただろう?
他の荷物はお前には重い。それで我慢しておけ。」
「お手伝いぃ…」
煤竹色の緩やかで大きい頭巾付きの厚手の外套を羽織り、
その下には旅装束らしく丈夫な作りの素材の服を着用し、
所々風通しが良くなるように工夫されている。
動きやすいように腕と脛の部分は紐で交差に結われ、
大きなナイフを腰に佩いている。
「ほら、出発するぞ。」
焚き火の場所を後にする。
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