008. 出発の準備
「そうか。ではストレラ嬢。このあとの――」
遮るようにして
「リリナ……。」
まだ木の実の渋みが残っているらしく、
顔が
「……分かった、リリナ。
このあとの行動の話だ。
お前を安全な集落に送り届けるのは約束しよう。それは絶対だ。」
真剣な話になったのを感じ取ったのか、渋みを我慢しつつ
木の実の小袋の口を閉め、屈みながらラウルの話を聞く姿勢を整えている。
「ただ、本来は俺一人の旅路だったんだ。
その上、近くの町は迂回するとなると色々と予定が変わってくる。
情報の共有は必要不可欠だ。
人間のことが詳しいというわけでもないからな。」
「ごめん…なさい……。」
申し訳なさそうに顔を俯く。
「いいさ。さっきも言っただろう。
分かっててお前を助けた。これは俺の責任だ。」
続けて、諭すように
「ただし、その気持ちは忘れるな。
それがある限りはお前を見捨てることはない。」
「……もし…忘れちゃったら…?」
「その場でお前とはさようならだな。」
少しおどけた手振りで返事をする。
―――タッ
幼い少女は駆け寄り、服の脇腹部分を両の手で握り、額を付ける。
「絶対に、忘れない…っ。忘れない……から…っ
一緒にいて……一緒に…っ、いさせて……お願い……っ」
声は震えているが、必死に涙を堪えている。
―――。
詳しいことは聞いていないが、察することはできたはずなのに――。
一人でいることに恐怖を感じることは知っていたはずなのに――。
あの、辛い顔を見ていたはずなのに――。
罪悪感に苛まれ、
一度天を仰ぎ、顔を伏せ、手で瞼を覆う。
「…すまない、今のは俺が悪かった。謝る。」
耳をペタリと倒し、尻尾がだらんと垂れている。
「悪かったから、そんな顔をしないでくれ。」
大きな手で優しく頭を一撫でする。
服を握っていた手が離れるや否や、今度は腕をグッと伸ばし脇腹にしがみついている。
顔が脇腹に埋もれている。
―――
そこには鼻水をすすり、甘い木の実を食べて満面の笑みを浮かべている少女の姿があった。
「……さて、落ち着いたところでリリナ。」
咀嚼を一旦止め、向き直る。
「覚えてる限りでいい。
辛いだろうがお前が村から飛ばされた後の話を聞かせてくれ。
あの町がお前にとってどれだけ脅威か知る必要もある。できるな?」
少し躊躇する素振りもあったが、口の中にあったものを飲み込み、
大きくコクリと頷く。
―――
「……それでよく生きていたものだ。」
渋い顔をして口を開く。
「あの川に繋がっている滝だとすると相当な高さだぞ……。
腰の……吊るし縄以外が解けやすかったのは―――。
あの町では人間を、【触れることすら躊躇われる汚らわしいモノ】として扱うから……だろうな。
誰だって汚いと思うものを握り締めたり、ずっと触っていたくはないだろう。」
下を向き、口をギュッと結んでいる。
― ……もしくは。
『わざと逃げられるようにして、狂暴化させた獣に【罰】を執行させる』……だったか。
「心配するな、人間に友好的な集落も多い。
それまでは一緒にいてやる。」
ゆっくり、コクリと頷く。
「今度はこちらの番だな。」
倒木の上に座り直し、
「近くの町は迂回すると言ったが、
多少の物資はその町で確保しなければならない。
お前にはその間だけでも安全な場所で待っててもらってな。」
少女がゆっくりと伏せ目になるが
「……と、思っていたがそれはヤメだ。」
それを聞き、俯きかけていた顔がラウルに向かう。
「当然、食料は侘しい物になる。
あまり期待はしていないが、
その時の調達くらいは手伝ってもらうぞ?」
ニッと口元に笑みを浮かべて話しかけると、
「うんっ!」
目をキラキラさせている。良い返事だ。
「それから…道中にあるはずだ。
俺の旅の本来の目的。
――『星の道』を通る。」
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