一日目

 「ヨルお姉ちゃん!」

そう呼ばれた私は街の果物屋さんを訪れる。

「最近は西の街道で何か物騒なことでもあったみたいでよぉ、葡萄も桃も全く入ってこないんだよ。困ったな〜。」

買った林檎を店主の娘と半分こして食べながら世間話に花を咲かせる。

「騎士団は動かないの?」

「動いてはいるみたいなんだが、まだ何の知らせもないんだとか。本当おっかないもんだ。んで、今日はお前さん何するんだい?」 

「今日?そうだなぁ......釣りでもしようかな。沢山釣れたらお裾分けするよ。」

「そうかそうか、なら大物よろしくな。」

そうして私は川に向かった。


 私ヨルは今、狩人として暮らしている。剣で邪魔な蔦を斬りながら、とうとう川までやってきた。よし、釣りの準備だ。雑貨屋で揃えた釣竿やらリールを組み立てて、用意したルアーを付ける。そうしたら後は葦の根元目掛けて、糸を垂らす。

 魚に怪しまれない様、竿を少し引いたりしてルアーを動かす。するとすぐに何かが食らいついてきた。私はリールを巻いて巻いて、奴を釣り上げた。正体はいいサイズの鱒だった。その後は別の葦を狙うと、入れ食い状態で鱒が釣れた。そう言えば街の人たちがこの時期は鱒が産卵に来るって言ってたっけ。結局私は十匹も鱒を釣って帰った。

 自分用に二匹、果物屋に三匹、後は魚屋さんに売りに行く。

「ああ、ヨルさん。今日は何を釣って来たんだい?」

「こちらの鱒です。」

「ああ、それなら風魔法で干物にすれば幾らでも日持ちするし、買い取らせてもらうよ。」

「ありがとうございます。」

結局、残りの鱒は銀貨三枚とまあまあいい値になった。私はそれで瓶ビール三本を買って帰る。今日も今日とて晩餐だ!

 鱒の塩焼きに、キンキンに冷えたビール、それを家のベランダで広げて食べる。私の家は街の外れの少し高いところにあるから眺めも最高だ。忙しなく人が行き交う港が、赤煉瓦の建物たちが夕陽に燃える様が、海の果てのどこかの国のために沈む太陽の姿が、街と世界の躍動がビール瓶に映り、飲み込みきれないほどの美しさが一口の喉ごしとなる。今日も世界は美しい。

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