第14話 最後の日①
「……知らない者はいないと思うが、一応補足しておくと、Dトラベラーズは、当時最難関と呼ばれていたとあるダンジョンの攻略を目的に、国内最強の攻略者が呼びかけて集められたトップランカー集団だ。そしてその最難関ダンジョンを攻略した後も、最強のDライバーグループとして他の高難度ダンジョンや新たに発見されたダンジョンの攻略配信などの活動を行って凄まじい人気を獲得していたグループだ」
「……えぇ、
ソロ攻略者も、グループに所属していた攻略者も、年齢立場問わず実力のみを評価して集められたメンバー。
それが碧の過去であり、正体。碧は懐から自らのDライセンスを取り出し皆に見せた。
「――うそっ!?」
「ほう……」
「マジっすかパイセン……」
そこに記されていた碧の最高Dレートは3046。
当時の2番目に高い数値であり、現在でもその記録を更新する者は現れていない。
その異常なまでの数値を見せつけられた彼女たちは皆言葉を失っていた。
「レート2000以上が上級者、レート2500超えは化け物と評価される中、Dトラベラーズは最終的に全員がレート2800を上回っていたが、その中でも3000を超えたのは歴代でたった二人しか存在しない。そのうちの一人がキミという訳だ」
場を整理するような夕花の発言に碧は無言で頷いた。
Dトラベラーズ結成後は基本的に全員でダンジョンに挑んでいたためレートはほぼ一律で上がっていたのだが、碧ともう一人の場合は結成時点で既に他のメンバーよりもレートが高かったのが大きい。
つまり碧は8年前――14歳の時点で、最上位の攻略者として活躍していたことになる。
「……俺の正体についてはこれくらいでいいでしょう。あとは残り二つ、あの大鎌を背負った魔物の正体と、あの
「あぁ、今後あの場所を攻略する以上、あの魔物との戦闘は避けられない。それに少しでも攻略情報を共有しておく方が今後のためになるだろう?」
「……そうですね」
碧は苦々しい表情をしながら一度下を向く。
言わなければならない。つまり、思い出さなければならない。
あの日を。Dトラベラーズ最後の日を。
碧は再度、大きく息を吐き、自分を勇気付けるように己のDライセンスを強く握りしめた。
「……あの大鎌の魔物は、元々はただの人間。無謀にも地獄に挑んだとある愚者の成れの果て。忌まわしき旅人の残影――名はアカリ。本名を――
「――ッッ!!?」
「なっ……」
「そんなッ……」
当然、あんな魔物を自身の姉であると告白すれば、場は騒然とする。
だが、この事実を吐き出してしまった以上、もう碧の口は止まらない。
動揺する皆のことなど一切考慮せず、ただ淡々と、ロボットのように当時のことを語りだす。
「あの日――Dトラベラーズ最後の配信の後に何があったのか。教えてやる」
碧は虚ろな目をしながら、言葉を紡いだ。
♢♢♢
Dトラベラーズ最後の配信。それは後に旅人の傷痕と称される無名の新興ダンジョンを攻略する配信だった。
だがそれは現在Dレート1700でも攻略できる程度と評価されるほどのダンジョンであり、Dトラベラーズにとってはハッキリ言ってヌルゲー、配信としても所謂
だが、その最下層で、彼らは見つけてしまったのだ。否、正確に言えば見つけたのはメンバーの中で最年少だったアオイであり、このダンジョンには隠しエリアがあると確信した彼は、皆を呼び、その壁を破壊して先に進んでしまった。
だが異変が起きたのはそれからすぐのことだった。
「――あれ、ドローンが動いてねえ。ぶっ壊れたのか?」
「えーっ!? これからが良い所なのに困るなぁ……」
赤い謎のエリアに突入してから、彼らの配信を維持していたドローンがその機能を停止したのだ。
それにより配信は強制終了。結果として、配信アーカイブには、彼らが謎のエリアに突入したところまでしか残されていなかった。
当然、配信に乗らないのならば探索する意味も半減してしまう訳で、メンバーの中では一度引き返して体勢を立て直すべきという意見が上がってきた。
だが……
「おいっ! 入り口がなくなってるぞ!」
「そんな馬鹿な……またさっきみたいに壁をぶっ壊してみるか?」
来た道を引き返しても、そこには何もなかった。
確かに降りたはずの階段も、怪しげな壁も何一つ存在しない。
手当たり次第に壁を破壊してみたが、それらしき道など現れないどころか、壁は一瞬にして再生してしまう始末。
結局、話し合った結果、このままダンジョンを攻略してしまおうという結論に至った。
過去の経験上、こうして道を塞がれてしまっても、何らかのギミックを突破するか特定のボスを倒すことで道が開かれる場合が多かったからだ。
後に裏ルートとして扱われるそのエリアの魔物は強かった。
しかし、Dトラベラーズは最強のDライバーグループ。
多少苦戦することもあったが、難なく先に進むことが出来た。
だが、異変が生じ始めたのは、裏ルートに突入してから10回ほど階段を下りた時のことだった。
「――ッ!?」
「な、なんだッ!?」
その階層に降りた瞬間、突如として碧たちは謎の光に包まれた。
皆の声が遠くなっていくのを感じながら、必死に目を覆い光が晴れるのを待つ。
しかし、視界が戻った時、そこに見知った仲間たちの姿はなかった。
「――ッ、みんなは!?」
「アオイ!! 良かった、アオイだけでも無事で……」
「姉さん……」
だが、幸いなことに、碧の隣には最愛の姉がいた。
他の仲間たちとははぐれてしまったが、碧にとっては姉の灯莉が無事であるという事実が最も重要であるため、ひとまずほっとしていた。
しかしこれから先のダンジョンを攻略するにあたって他の仲間たちの存在は必要不可欠。
という訳で、碧と灯莉の二人は、ダンジョンを先に進み、消えてしまった仲間たちを探すためにダンジョンを進むことになった。
「ふふ、懐かしいわね。昔二人でダンジョンに挑んでいたことを思い出すわ」
「そうだね、姉さん。みんながいないとちょっと不安だけど、姉さんと俺ならきっと何とかなるよね!」
「そうね……他のみんなもせめて二人一組になってくれてたらいいんだけど……」
仲間が分断してしまう恐ろしいトラップにかかったにもかかわらずこれほど冷静なのは、碧も灯莉も他のメンバーの実力を強く信頼しているからに他ならない。
みんなならばきっと生き延びてくれる。いつか必ず合流できる。
そんな確信があったからだ。
このような目にあったのは初めてではない。大丈夫に決まっている。
だからこそ、安心して二人は前に進むことが出来た。
そう、信じていた。
♢♢♢
「――う、ごほっ、げほっ……おえぇっ……」
「大丈夫ですかっ!?」
突如として込み上げてくる吐き気を抑えきれずえずく碧。
しかしここまで何も食べていなかったことから、出てくるものは何もなかった。
一番近い席に座っていたリンが慌てて駆け寄ってきて背中をさすってくれるが、碧の呼吸は荒くなる一方だ。
「――すまないね、辛いことを思い出させてしまったようだ。とりあえず一度休憩を挟もう」
「……いえ、大丈夫、です。ここまで来たからには、最後まで話します」
「無理は良くないが……キミが話すというならば我々は黙って聞くべきではあるか」
「で、でも……」
「ありがとう、とりあえずは大丈夫、だから」
碧は深呼吸をして呼吸を整え、手元にあった水をやや強引に流し込む。
荒ぶる心臓の鼓動を感じながらも、当時の出来事を想起する。
ここから先が碧の最も思い出したくない出来事だ。
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