第13話 正体
「――さて、第1回”旅人の傷痕”新エリア調査報告会と題してこうしてお集まりいただいたわけだが……」
死神との戦闘後、速やかに地上へと帰還した碧たちは、一晩の休憩を挟んだ後に事務所の一室に集まっていた。
碧たちの他にこの場にいるのは旅人の傷痕の関係者である3人。
その一人で碧の上司である天音夕花による開始宣言によって、場の沈黙は破られた。
「配信の一部始終を見ていた限りでは、第1層のみの攻略ではあったが、一度情報を整理する必要があると考えた。故にこの場を設けたわけだが――」
夕花の視線は――否、この場にいる全員の視線が碧へと集まった。
リンベルサウンドの3人、須藤竜生、そしてもう一人の同僚である、鮮やかな薄緑色の髪が特徴的な
それぞれの思惑があるだろうが、全員の視線に共通しているのは説明の要求だ。
「御上クン――いや、御上
「――っ、やっぱり下の名前……」
「……はい」
夕花は敢えて碧のことをフルネームで呼んだ。
案の定それを聞いたリンベルサウンドの3人は、すぐに表情を変えた。
口にこそ出さないが、恐らくこれで彼女たちはより確信に近づいたことだろう。
そして夕花の言葉。世間は碧の正体を思い出そうとしている。
その言葉に偽りはない。何故なら昨日の配信で、碧が氷の力を用いて戦闘を行ってしまったことで、ネット上で前回に近しいレベルでバズってしまったからだ。
さらにあの戦闘中、マスクを維持できず素顔を晒してしまった事、普通に喋って配信に声を乗せてしまった事で、恐るべきスピードで特定が進んでいるらしい。
その結果、NDKには問い合わせの電話が殺到しているらしく、こうして夕花が直接動くのは当然の結果と言えた。
「キミに聞きたいことは大きく分けて三つ。まずはキミの正体について。これはもう既に改めて確認しなくても良い状態にあるが、改めてキミの口から直接聞きたい。次に、あの大鎌を背負った謎の魔物について。我々が保有するデータベースにあのような魔物は存在しないのだが、キミはどうやらアレについて知っているようだ。それも話して貰いたい。それにその魔物は、キミに関係がある、
「…………」
「そして最後。あの新エリアについて。キミはどこまで知っている。あの場所で何があった。キミは何の目的であの場所に執着している? それを全て話して貰おう」
「――やっぱり、知っていたんですね。なんとなくどころか、確信レベルで察してはいましたが……」
「……悪い、碧。それは俺が――」
夕花の言葉を受け、どこか気まずそうな顔をしていた竜生が声を漏らした。
まぁ、そうだろうなと碧は納得して頷いた。
そう、碧が事情を話しているのは竜生ただ一人だからだ。
「ああ、彼を責めないでやってくれ。そもそもの問題として、キミの正体については顔と名前と経歴を見た段階で察していたさ。それにキミがこんな辺境のダンジョンの配属を希望した時点で、何かがあると考えるのは当然だろう?」
それについては碧もある程度理解していたことだったので、黙って頷くことしかできなかった。
「だから以前、須藤クンに聞いてみたのさ。カマをかけるような形にはなってしまったが、表に出さないという条件でキミが個人的にダンジョンの調査をしているという事実を教えてもらった」
もともと何か問題が生じたときは、碧が独断で行った事であると言って構わないと伝えてあったので、これを聞いて竜生が裏切ったとは思わない。
もともとルールを破っている自分が悪いのだから、仕方のない事だ。
だが意外だったのは、夕花が本当に碧が秘密裏にダンジョンに潜っているという事実を表に出さなかったことだ。
「……一応勘違いしないで欲しいのは、この場はキミを糾弾するためのものではない。あくまで目的は、今後調査を進めていく上で必要な情報を共有することだ。その証拠に、今回は真の意味での関係者しか呼んでいない」
改めて周りを見渡す。確かにこの場には夕花より立場が上の人間は存在しない。
つまりNDKは今回の件を大事にする気はないということなのだろう。
碧はもうこれ以上、誤魔化すことは出来ないと判断し、大きく息を吐いてから席を立った。
(……調査が始まった以上、いつかはこうなる日が来ると思ってた。だが、いざその時が来ると、憂鬱な気分になるな)
そんな想いを抱えながら、碧は皆の前に立った。
そして改めて深呼吸をして、若干震える手を無理矢理握りしめながら、ゆっくりと声を発する。
「私は――いえ、俺は、お察しの通り、元Dライバーの一人……活動名は、アオイ。6年前、後に”旅人の傷痕”と称されるようになるダンジョンの攻略に
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