第9話 案件
「よーし、撮影始めるよっ!」
リーダーであるリンの一言で、起動した撮影ドローンの前に三人が瞬時に並ぶ。
どうやら機材のチェックが完了したらしい。
碧はカメラに写り込まないように気を付けながら、事が進むのを待つことにした。
「はいはいみなさん、こんべるりんっ♪ リンだよー!」
「いきなりダンジョンの底からごきげんよう、ベル子よ」
「大復活のネオンですっ!」
軽快な挨拶から始まるリンベルサウンドの配信。
ダンジョン内からの配信ということもあり多少のラグがあるものの、数秒後には凄まじい勢いでコメントが流れて始める。
どうやら先日の配信が大バズりした影響で彼女たちのチャンネルも急激に登録者が増えたらしく、この様子だと配信同接人数も大幅に増えていることが予測できる。
”うおおおおおおっ!! 待ってましたあああああ!!!”
”無事で良かった!!”
”¥10,000 少しでも病院代の足しにしてください!”
”¥5,000 生きててくれてありがとう!!”
”目立った傷とかも残ってなくて安心した”
「コメントのみんなありがとー! お陰様でこうして無事復活することが出来たよ!」
「天に感謝すべき案件ね。いや、ここはダンジョンだから地に感謝……?」
「この前はやられちゃったけど、今度こそ頑張るからねっ!」
盛り上がるコメント欄とそれに対するアンサーで場の温度が一気に高まっていく。
流石、2年もDライバーをやっているだけのことはある。
エンターテイナーとしては一流と言っていいのかもしれない。
「で、今回の配信なんだけどねっ! なんとなんと! 誰もが知ってるあの大企業、NDKからの企業案件です!!」
「あのねリン、案件なのは事実だけどそんなド直球に言わなくても……」
「あはは……でもはっきり言っちゃうところがリンらしくていいと思うよ!」
企業案件。その言葉に誤りはない。
今回の調査はリンベルサウンドの3人に報酬を支払うことを約束した上でNDKが直接依頼した仕事だ。
だからこそ、彼女たちの配信の概要欄には”提供:NDK(日本ダンジョン管理局)”とはっきりと記載されている。
「それでね、その内容が前回わたし達がやられちゃった”旅人の傷痕”の謎の新エリアの調査なんだけどぉ……」
”企業案件マジか”
”やっぱあそこはNDKも認知してなかったんだな”
”でも大丈夫なのか? この前リンちゃんたち全滅したばっかだろ”
”みんな強いのは知ってるけど、いくら何でも3人だけじゃ危ないんじゃ……”
「うんうん、みんなが心配する気持ちも分かるよ。だからね! 今回は特別な助っ人さんを呼んでいるんだ!!」
「ええ、スペシャルゲストよ」
「ってなわけで! 早速登場してもらいましょー!」
リンがそう言い放つと、こちらに軽く目配せをしてきた。
このタイミングでカメラの前に出ろと言うことなのだろう。
本当はカメラの前になんて立ちたくないのだが、調査の際にリアルタイムで情報を送るために配信は必須とされている。
共に行動する以上、配信に一切映らないというのは不可能なので、それならば予め紹介してしまおうという話でまとまっていたのだ。
碧は大きなため息を吐きながらも、今一度マスクの位置を調整してから前に出た。
「NDKから派遣された
「えぇ、はい。どうも、こんにちは。NDKの御上です。こういった事には
「ひゅー! ひゅー!」
なんとつまらない挨拶か、と自嘲するが、今回の碧の最重要課題は可能な限り目だないように努めることなのでこれで良い。
現在の碧の姿は戦闘用の軽装備に黒のマスクと言った微妙なもの。
本当はフードも纏いたかったのだが、それでは完全に怪しい人として扱われてしまうため却下された。
NDKの職員として顔出しする際に、唯一認められた顔隠しの道具がマスクだったためこのような形となったのだ。
”は? 男??”
”けっこうイケメンで草”
”マスク外せよ”
”つよそう(小並感)”
”僕のネオンたんは渡さないぞ!!”
碧の登場後、案の定コメント欄は不穏な空気に包まれる。
美少女三人組の配信にこんな怪しい男が写り込んだらそりゃそうなる、と冷静に分析し、この居心地の悪さに今すぐ逃げ出したいと考えるのも当然だろう。
中には長文で投げ銭コメントを打ち込む輩も現れるが、リンたちはそれらを適当にあしらいながら今回の経緯を改めて説明し始めた。
そしてところどころベル子とネオンによる補足が入りつつ無事説明が完了した。
「それじゃあ早速、レッツゴー!」
今回も前回同様ネオンによる超火力攻撃によって”地獄の入り口”の壁を破壊し、赤い世界へと踏み込むこととなった。
毎回何故か自動で復活するこの壁だが、碧の手にかかればこんな派手なことをしなくても一瞬で破壊できる。
しかし、それでは必要以上に目立ってしまうので、任せられるところは任せようと思った。
自分の仕事はあくまで彼女たちのサポート役なのだから。
だが、後々そうも言ってられなくなる状況が訪れるという嫌な予感は、きっと当たってしまうのだろう、と碧は憂鬱そうに息を吐いた。
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