第5話 救助
「ん、んんっ……こ、ここは……?」
”旅人の傷痕”の
だが、もう間もなくで地上へとつながる転移結晶に辿り着くと言ったところで、そのうちの一人が目を覚ましたようだ。
声から察するに、リンと呼ばれていたリーダー格の金髪少女だろう。
「目が覚めましたか。ですが動かないでください。今そこから落ちたら命は保証できませんよ」
「……っ! あ、なたは……?」
「NDK(日本ダンジョン管理局)の御上です。救助要請を受けてあなた方の救助に参りました」
「救助……じゃあ、さっきのは……?」
碧の言葉を受けて、先ほどまでの出来事を思い出したのか、リンの呼吸が荒くなる。
何かを探すかのように首を振り、手を伸ばそうとする。
「――そうだ! ネオンとベル子は――っぐ! げほっ、げほっ……」
「暴れないでください。二人とも無事――ではないですが、ちゃんと生きてます」
「あぁ……よか、ったぁ……」
「とりあえず今から地上へお連れします。今は少しでも眠って体力を回復される方が賢明かと」
「ありがと……ございま……」
大切なメンバーの生存が確認できて緊張の糸が解けたのだろう。
お礼の言葉を言いきる前に意識を失ってしまったようだ。
(――あのレベルの傷を受けてすぐに目を覚ますとはな。なかなかの根性じゃないか)
腐ってもリーダーという訳か、と、どこか懐かしそうな眼をしながら、碧は転移結晶の下へと急いだ。
「――碧!」
転移結晶を用いて地上へ戻ると、間もなくして竜生が複数の男たちを連れて姿を現した。
碧は氷の箱に乗せて運んでいた三人を地上へ下ろし、ゆっくりと寝かせた。
三人とも重症ではあるが、息はある。傷の応急処置も済ませてあるので、後は病院に送れば大丈夫だろう。
「通報があったから今から救助に向かうところだったんだが――もう終わらせちまったのか」
「ああ。悪いな竜生。三人とも無事救助完了だ」
「……まぁそんな事だろうと思ったが、一応仕事だからな。救助隊を呼ばねえわけにはいかねえし」
「分かってる。とりあえず全員即病院に運んでくれ。こっちの後始末は俺がやる」
「オッケー。任せとけ」
これは旅人の傷痕において初の緊急事態だ。
未攻略ダンジョンならともかく、
それ以外にも片付けなければならない仕事が大量に発生し、それが終わるまではダンジョンが封鎖されることになっている。
(はぁ……今回の場合、それだけじゃ済まない可能性の方が高いんだよな……)
これからのことを考えると憂鬱になり、碧は大きくため息を吐いた。
倒れた三人の方向へ目をやると、竜生が救助隊の人たちと連携して手早く救急車へと運び込んでいた。
だが、それに乗り込む直前、竜生が慌てて駆け寄ってきた。
「あ、待て碧!」
「ん?」
「言い忘れてたが、事が片付いたら連絡寄こせって
「げっ……まぁ、そうだよな……」
「んじゃ、俺は伝えたからな」
そう言って竜生は素早く救急車の一大に乗り込んだ。
そして爆音のサイレンを鳴らしながら走り去っていく救急車を見送ると、碧は改めて大きなため息をついてから、事務所へ向けてゆっくりと歩き出した。
♢♢♢
「――で、今回のこと、ちゃんと説明してくれるんだろうね。御上クン」
「え、えぇ……それはもちろん……」
電話越しにも拘らずどこか圧のある声で語り掛けてくる女性の名は
彼女は”旅人の傷痕”を含む神奈川西部エリアを担当する、碧の上司に当たる人物だ。
「”リンベルサウンド”によるダンジョン攻略中の事故発生。これはいい。Dレートに基づき適切に対応した君たちに落ち度はない。だが、あのエリアは何だ。あの赤いエリア、旅人の傷痕にはそんなところは存在しないはずだ」
「ええと、それは私には分からないと申しますか……あのようなエリアが存在したことに私も驚いております、はい……」
「……キミはそんな下らない嘘を吐く人間じゃないと思っていたんだが、ひょっとして私をバカにしているのかな?」
「い、いえいえいえ! そんな滅相もない!」
「――ところでキミは今日のネットニュースには目を通したかい?」
「……はい?」
唐突に話題を切り替えてきたことに対して驚く碧。
この緊急事態でネットニュースを見ている暇などあるはずもなかった。
「どうなんだ?」
「い、いえ、見ていませんが――」
「それなら今から記事のリンクを送ろう。それをすぐに確認したまえ」
「は、はぁ……」
そう言われた碧は、スマホを耳から離してスピーカーモードに切り替え、メッセージアプリを開く。
そして天音から送られてきたリンクを開こうとするのだが、
「……うげっ」
そのタイトルを見て碧は言葉を失った。
”失踪した元大物Dライバー、ついに発見される!? ”旅人の傷痕”にまさかの隠しエリアが…”
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