第4話 伝説の想起

 黒のフード付きローブに身を包んだ碧は、こちらに対して警戒心をあらわにする竜を忌々しそうに睨みつけた。

 手元に抱えたボロボロの金髪少女は、今の攻撃で限界を迎えたのかゆっくりと目を閉じた。

 かなりの重症だが今すぐに治療してやることはできない。

 仕方ないか、とため息を吐いた碧はゆっくりとその少女を床に寝かせ、懐から取り出した瓶から錠剤を一つつまみ、その口に放り込んだ。


「貴重な秘薬だが特別にくれてやる」


 一言。

 そう呟くと、碧は瞬時に他の二人のところへ移動し、同じように薬を飲み込ませた。

 飲むだけで傷を全て癒してくれるような超万能薬ではないが、一時的に生命力を飛躍的に向上させ、自己回復機能を高める力を持つことから延命にはもってこいだろう。


「……さて」


 ここまでは黙って見ていた竜だが、このまま3人を連れて逃してくれるほど甘くはない。

 宙に浮いた長い体をうねらせながら口元に炎を溜め込み、いつでも攻撃行動を仕掛けられることをアピールしている。

 碧はどこからともなく一振りの剣を取り出して、そのきっさきを竜へと向けた。


 "お、おい、誰だよアイツ"

 "同業者か!?"

 "さっきなんか変なもん飲ませてたぞ"

 "今どっから剣出した!?"

 "一人で戦う気なのか?"


 リンベルサウンドの全滅、そして謎の助っ人の登場。

 そのニュースは瞬く間にネット上に広まり、配信の同接人数、そしてコメントが瞬く間に増えていった。

 しかし碧はそんなものは気にも留めず、ただ目の前の敵を殺す方法を考えていた。


「……これでいこう」


 次の瞬間、爆発のような踏み込みと共に碧が飛び出す。

 それに反応するかの如く、竜は勢いよく極大の火焔を吐き出した。

 碧は両手で柄を握り、右肩のあたりで構える。

 そして勢いよく斜めに薙いだ。


細氷旋風ダイヤモンドダスト


 その言葉と共に、横に渦巻く大突風が発生し、爆炎を飲み込み、弾き返した。

 さらにその風には無数の小さな氷塊が乗せられており、次々とトゲのように竜の体へと突き刺さっていく。


「お前も竜に食われる恐怖を味わってみろ」


 跳ね返った火焔と氷塊混じりの突風を受けて困惑する竜の前に、青く輝く竜が現れた。

 よく見るとその体は氷でできていて、白い冷気を纏いながら竜の魔物を飲み込まんと大口を開けていた。

 そして……


「グルルルォォァァアアッッ!?」


 今までにない、絶叫が響く。

 その体に深く噛み付いた氷の竜は、その傷口から内部を侵食し、肉体を凍り付かせていった。

 竜は必死に抵抗するが、丸太に巻き付く蛇のように絡みついた氷の竜を振り解くことは叶わない。


「……トドメだ」


 2匹の龍が争う上空に移動していた碧は、氷でコーティングした超巨大な剣を構え、重力に従い急降下。

 そして前転するかのように思いっきり巨大剣を振り下ろし、氷の竜ごとその巨体を真っ二つに切り裂いた。


「……運がなかったな」


 そう一言、哀れみの言葉を呟くと、碧の剣が氷のコーティングから解放され元の大きさへと戻っていった。


 "……は?"

 "なんだよアレ、強すぎだろ"

 "コレも含めて演出なのか……?"

 "新メンバー発表ってコト!?"

 "おいおいおい! 認めねえぞ男のメンバーとか!!"


 凄まじい勢いでコメントが流れるが、その大半は困惑や妄想で染まっている。

 戦闘を終えた碧は、改めてドローンの存在に気づき、近づこうとするが、途中でその足を止めた。


(……あのタイプの撮影ドローンは触ったことないな。迂闊に近づいて顔バレするのはごめんだ)


 そう考えた碧は左手をずっと伸ばし、冷気を纏わせた。


「……悪く思うなよ」


 その一言ともに、ドローン二基は瞬く間に氷に包まれ、地面へと落ちていった。

 これでよし、と満足げに頷いた碧は、3人を連れて脱出することにした。

 だが、その最後のコメントを碧は知る由もなかった。


 "あの氷の竜、どっかで見たことあるような……"

 "アレって氷剣ひけんだよな?"

 "あんなイカれた規模で氷を操る奴なんて他に見たことねえよ"

 

 "やっぱアイツ、Dトラベラーズのーー"


 そのコメントが表示される前に、配信は強制終了された。

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