盗撮jkアイアンボトム05
ふたりはあっという間に調べ上げた。俺の少ない情報が頼りとは思えないほどいろんなことが分かった。やはり盗撮集団はただの低級犯罪組織じゃなかった。
やつらの組織に名前はなかった。組織の痕跡を分かりやすく残したくなかったのだろう。名前があるとその名前で噂されて悪い意味で有名になってしまうこともあるからな。
奴らは半年前の氷永会の取引に介入してマネロンを横流し、実質強奪横領して少なくとも半分を手にしていたことが分かった。昔からお馴染みの地下銀行を使い、海外を経由して逆輸入。そうやって洗っていた氷永会の金に手を出していた。しかし、元は賭博と詐欺で手に入れた犯罪の金である。普通に使えばその時点で優秀な警察が見逃さない。たとえ濡れ衣であっても持っていた時点で監獄送りになる。強奪したところまでは良くても、しっかりと洗わなければ使うに使えない。だから狙ったのは綺麗になった直後。違法から合法にすり替わったばかりの、洗い立てマネーを新鮮なうちに手に入れることができればこれ以上の儲けはない。氷永会としては洗い場から戻ってきた資金の半分がなくなっていても、すぐに文句は言えない。洗ったとはいえ一度は汚れた金だ。すぐさまその強奪を糾弾して責任を問い詰められるほど簡単な問題ではない。狡猾にやる相手だ。すぐには見つからない。しかし、やられたら地獄まで追い詰める相手を相手にしたことは間違いない。それが見つかった。盗撮グループみたいな表層犯罪者が犯人だとは思わなかったという。
低級犯罪集団だと繰り返しているが、しかし相手は日本語として使われる低級も同じ低級じゃない。トクリュウドラゴンのような奴らも低級だが、そんな連中とは比べものにならないのがいい例だろう。今回の敵は低級は低級でもプロだ。あんな欲望丸出しでこっちの世界に素手で入り込む素人とは違う。闇だかホワイトだかに応募した一般大学生や高校生なんて、うちのボーイズもガールズもひとりで倒せる。成哉も俺もタカも出るまでもない。しかし、彼らでさえも犯行を遂行出来そうに見えたことそのものがタカの組を怒らせた。安易に手を出してきたこと、安易に手を出せると思ったこと。プロはプロだが、しかしそういう意味では同じ素人だった。
金を取られたこともたぶん許せないと思うんだけど、それ以上に泊が落ちることが許せないんだと思う。安易に、簡単に、子供のお使い気分で本気の仕事を邪魔してくることが許せないのだ。本来なら土俵に上がることすらありえない、組の対戦相手として見られることすらなかった人間が、人種が、表と普通の世界で生きている人間が平気で彼らの道を歩いて目の前を横切る。そんな無礼、無言で撃たれた銃で殺されても文句は言えないハズだった。しかし奴らは世界の仕組みだけはよく知っていた。法律と時代を使って。うまく利用して、笑ったのだ。お前らなんか昔話にしかでてこない、映画と小説の世界の組織だと。時代遅れの連中には何もできないだろと嘲笑って。だから怒っているのだ。本家本業を甘く見るなよと。
「創、お前の言う通りにした。奴らの巣穴は任せろ。バカなガキをしっかり始末してこい」
「ああ、ありがとうな」
成哉の調査報告書によると成哉の傘下会社もひとつ潰されていたことが分かった。それはラーメン屋を開きたいと夢を語っていたボーイズのために開いたラーメン屋だった。俺もよく知っている。あの店は市内でもけっこう有名になったし、なによりとてもうまいラーメンだった。オーソドックスで王道な味噌ラーメン。誰もが求め、これが食べたかったと口を揃える味。受験して進学していく当たり前のような普通の生き方ができなかった彼であったが、周りに感謝して手に入れた夢を必死に頑張っていたのをみていた。成哉の話では口コミなどの評判の操作し、さらには融資などで金を騙し取って潰したらしい。それは成哉の支配する範囲の中での犯行を意味する。成哉は他に幾つか似たような手口で店が攻撃された跡があると言っていた。もちろんそんな連続犯を放って置く男じゃない。事件の直後から敵を探していたことだろう。俺が奴らの話をした時点で勘づいて正体を見抜いていたかもしれない。それでもすぐに手を出さなかったのは、きっとタカの匂いがしたんだと思う。だから様子を見て俺に任せた。どのみち、成哉もブチギレていたわけだ。
※ ※ ※
その日の午後、俺は依頼人だったガールズを呼んだ。美術大学の授業とかで忙しいところを無理言って来てもらった。どうしても急がないといけないと言って。仮にも彼女もガールズのメンバーだ。多少の揉め事に駆り出されることは珍しいことではない。文句ひとつ言わず、時間通りに来てもらった。
彼女を呼んだのは美術大学からほど近い、廃業になったボウリング場。こうやって広くて何もなく、そして誰もいないところというのは都合がいい。入り口のすべてにシャッターが降りて鍵が掛かってどこからも入れないようになっているが、誰かが壁を改造して隠し扉を作った。誰が作ったんだろうな、そんな便利なもの。
「茨戸さん、犯人がつかまったって」
「ああ、つかまえたよ。今仲間が連れてきてる」
「そうですか。それで、どんな人だったんですか?」
「女だったよ。女の子のパンツを撮っていたのは女だった」
「えっ」
「吉野さんだったよな。占いの館に行ったとき、机の下に大きな磁石のような重たい感じのものが入っている気がすると言ったの、覚えているか?」
「えっ、あ、はい」
「実はあれはサーバーだ。奴らは占いという名目で客と会って、占いと見せかけて金の取引をしていたんだよ。あのサーバーはあの場所でしか接続・通信ができず、インターネットみたいな回線からでは通信ができない。多少人手を使うけど動かせるから臨機応変に逃げられる。アナログサーバーを使うのは、インターネットを使って簡単に送金するとすぐにバレるから。今の警察だって歩いて証拠を見つけるだけのアナログ人間じゃない。サイバーセキュリティ専門の警察官はたくさんいる。彼らのほうがヘタクソなハッカーとかネットの住人を自称するバカより遥かにプロだ。ヤクザや犯罪組織による怪しげな連絡や通信がないか日夜監視している。取引に特殊な通信を使って警察の目から逃れようとすればするほど簡単に見つかってしまうものなのさ。だから自分たちで簡単な通信システムみたいなやつを作ったんだろう。そしてそこには金のデータだけでなく、盗撮した画像、動画の元データもある。それを複製コピーしてネットで売り捌いたんだ。アナログサーバーっていうのはさ、ほら、昔あっただろゲームのワイヤレス通信。あれはインターネットを使ったものじゃなくてゲーム機同士の交換だ。それに近い」
「じゃあ、データは、売上金は」
「ほとんどがあの占いの館が保管していると思う。現金じゃなくてデータで。ビットコインとかの仮想通貨じゃなくて、データ。現金にできるやつ。銀行の通帳に記載されている数字を自分で持っているみたいなものが出回ってよく使われていると昔詳しいやつから聞いた。でもそのデータがあれば銀行からすぐに引き出せる。地下銀行だけど」
「データ? サーバーごと盗むとか?」
「まさか。バカみたいに重たいやつを大人数かけて運び出しても、それこそ気づかれてデータを全部消されて移動しておしまいだ。自分たちを狙っている事を知り、警戒を強めてしまうだろう」
「メンバーにサイバー担当とかがいて、盗むとか?」
「もちろんメンバーに詳しいやつはたくさんいるさ。成哉の優秀な部下たちだからな。俊足ハンターから爆弾処理班まで勢揃い。でも今回はサイバーくんの出番はなし。データの世界に金があるからって真っ向からゼロとイチで作られた世界で勝負する必要はない。昔ながらのやり方でやる。アジトを攻めるんだ」
「いや、でも敵のアジトなんて……」
「いや、もう攻めた。実はな、有力な証言者を見つけたんだ。ちょっと待てな。……ああ、いいよ、連れてきて」
すぐに裏側から人が現れた。それは手を後ろで縛られた女子高校生で、大柄な男に後ろから突かれるように歩いてきた。そしてそれは近くで見るまでもなく、一番最初に俺の隣にいるガールズと一緒にパンツ盗撮被害を訴えてきたあの子だった。俺は様子をみてみたが、意識はしっかりとしているし、顔とか見えるところに傷もつけてない。なんとも優しい世界になったものだ。今の時代らしいねぇ〜。ちょっと前なら男女差別のない平等な世界だったから容赦されなかったのに。
「雪……! どうして、ここに。えっ、えっ」
「結論から話す。彼女は盗撮占い師の一味の幹部だ。悪の組織の上の方にいる責任者。盗撮部門に関してはすべて取り仕切っているそうだ。さっき洗いざらい話したから間違いないぜ」
それから待ってましたと言わんばかりにその後ろからぞろぞろと黒い服の男たちがたくさん現れた。何人かの男が顔と腕を腫らして気絶して引きずられているが、気のせいかもしれない。どっちでもいいか。
「この人たちは、リバーサイドの人たちじゃあ、ない……」
「そう。見ての通りヤクザだ。リバーサイドのみんなには敵のアジト本部を攻撃してもらっている」
すると、ボーリング場のスコアを表示するモニターの一つに電源が入り、映像が映った。
「もしもし、こちら突撃部隊。制圧完了しました」
「了解、お疲れ様。金の押収が終わったら集合場所に成哉がいるから。報告して」
「はい、創さん。失礼します」
モニターの電源が切れて、また真っ黒になった。
「そういうことだから。盗撮グループは潰した。ヤクザの金に手を出していた低級犯罪組織だったから知り合いに頼んで恐い人にもけじめをつけてもらった。成哉のグループのいくつかの店にも手を出していたから怒った王様が精鋭部隊総動員で敵のアジトを潰して金をすべて巻き上げた。電子の金もすぐに現金にして使うってさ。またラーメン屋でも出すんじゃないかな。さて、それじゃあ盗撮好きのお嬢さん。言い訳タイムだ。選べよ。これまでの物語を脚色して俺が代わりに話すか、自分の口で事実を言うか。どちらにしても一番の被害者はここにいる美術大学のお姉さんなんだぜ?」
彼女は怯えることも使い果たし、泣くことも忘れてしまったその小さな体に、諦めだけを手に入れたその震える青い唇を震わせた。「ごめんなさい」から始めて。
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