盗撮jkアイアンボトム04
この街の金に一番詳しいのは成哉だ。そして裏側の見えることのない金に詳しいのはこの街最大のヤクザ幹部、タカだ。相手にしているのはごくありふれたよくある犯罪組織にすぎないのだろうと、最初はただの盗撮グループだと思っていたが、少し調べただけでそれだけでは終わらないのではないかと思っている。
占いの館に潜入した深夜。遅れ気味の桜の開花を待つ闇夜の公園に紛れることなく一台の黒い車が停まった。俺はドアを開けて勢いよく閉めた。
「すまないな、ふたりとも。忙しいのに来てくれて」
「今回の件では協力するって言っただろ」
「出せ。創、手短に話せ」
「ああ。知っての通り女子高校生の下着を盗撮して金儲けしている占い師を追っている。動画を売りさばいて儲けた金の多くは現金とせずに電子トレードキャッシュ方式で暗号化されていたことが分かった。仮想通貨とは違う、すぐに現金化できる銀行口座みたいなもんだ。本部との取引は赤外線、ワイヤレス通信でインターネットを介さずに行われる。このゲーム機を改造してもらい、それを持って夜中に占いの館のビルに入った。扉には鍵が掛かっていたから外から通信を試みた。向こうの電源は入っていなかったが通信はつながった。データを手に入れることはできなかったが幾つかファイル名みたいなものを写すことができた。スマホで写真を送ってもよかったが、回線を使えばどこから情報が漏れるかわからない。画像はこの小さなゲーム機の画面で我慢して自分で撮ってくれ」
「んー……あっ、これ」
タカが呟く。
「やっぱりそうか?」
「Ironbottom sound。なるほど、戦艦が沈んだところか」
成哉が読み上げて、タカが頷く。
「お前らを信用して話すが、これは組で使っている金の名前のひとつだ。使っている名前は都度違うのに変えたり消したりしているが、これはつい最近使ったやつだ。かなり昔にも同じ名前を使っていたんだが、正さんが気に入っていて。大事な取引に使うことがある。マジでどこにも漏らすなよ」
アイアンボトムサウンド。ソロモン諸島の海域でガダルカナル島の北にある、戦艦比叡が沈み眠る海だ。
「わかってる」
「ああ。創、続けろ」
「ここから先は俺は立ち入れない領域だ。ふたりにしか頼めない。幾ら売り上げを電子情報化しているとはいえ、いつかは現金化する。そんなことできるのは地下銀行しかない。金の流れを探って欲しい」
「創。つまり、この盗撮集団は氷永会の金に手を出していたって言いたいのか」
ガキ共の組長が俺に聞く。俺は頷く。
「たぶん盗撮と違法アダルト動画の販売は目くらましみたいなものだ。でかい犯罪を隠すための小さな犯罪。占いの館は動く組織の金庫。定期的に移動しているのは特定されないため。そして占いで若い女の子をターゲットにしているのはその指紋と手相を入手するためだ。パンツはついで。おそらく暗号の管理に使っているんだろ。下手なパスワードや電子ロックより安全だって、売買されているのを見たことがある。闇市場にも出ていない、たとえば新鮮で未使用の女子高校生の指紋手相とかを無作為に手に入れているんだ」
「盗撮の方はどう考えている。まったくの無意味か」
「いや、あれは復讐だな。最初に聞いた信憑性のない話ではあるが、闇の住人でもない普通の男子高校生でも見つけられて手に入ると話していた。仮にその程度のレベルに放り投げて販売しているとすれば、本命は金儲けではなく復讐だ。何も知らない一般人相手の商売はきっと楽しいほどに儲かるだろうが、そんな収益では彼らのお小遣いにもならない。下手すりゃ経費で消える。大事なのは被害者にも見えるところに、見つかるように分かりやすく見せるということだ。おそらくあの雇われている占い師は何も知らされていない。それこそ占いをカモフラージュに使われている。占いの館の勧誘は高校生みたいな若い子に無料だと誘っていた。無料の言葉に一回くらいならとついて行った女の子であることがきっと重要なんだ。何も知らず、何も疑うことなく、簡単に信じてしまうことをきっと。金儲けにならない盗撮をやろうとするなんて、それはただ悲しいだけだ。誰も幸せになれない。不幸にもなれないだろう。だからそんなことをするのは、きっとその本当のところは、復讐なんだろうと思う」
「復讐?」
「ああ。女湯や女子更衣室での盗撮は男じゃなくて女盗撮師がやるだろ。盗撮師に一流も三流もないが、男は三流以下であることは間違いない。盗撮は警戒されてはいけない必要がある。女の敵は男ではなく女。性消費する男に売って金儲け。同じ女同士で利用している女性は疑いもしない。獅子身中の虫。何も知らずに、知ることもなく、知らされることもなく被害に遭う。今回の盗撮事件の犯人は女性だ。そして犯人は過去に女性盗撮師による盗撮被害に遭っているんじゃないかと予想している。何も知らない女たちに教えてやりたいんだと思うよ。その恥ずかしさと自分の無知と現実を。悪の組織はその目的を利用して金儲けに利用しているに過ぎない。もしかしたら俺の目測が誤っていて経費の一千倍ボロ儲けしているかもしれないしな。見てはいけないけど、でも実は見てみたい、見れるのなら見てみたいという下心を購入欲求とすり替えて。買う人間も売る人間も罪人だが」
「さすがの洞察力だな。お前にしかできない」
タカが睨むように顔をしかめた。
「うちの金に手を出したのはどう考える」
「奴らにとって手が出しやすかった。そういうことだと思う。犯罪で稼いで組織を大きくしてさらに稼いで。いろんなところに手を出していくうちにでかい金を見つけた。最初はヤクザの金だと分かっていなかっていなかったかもしれない。金の正体が分かった途端に躊躇わず手を出した。ジャパニーズマフィアは映画の出演者のひとり。威厳も脅威も削がれたように見えたんだろ。それぐらいの度胸と勘違いがなければ手は出さない。現代の低級犯罪組織は何もおそれることなく犯罪で金を稼ぎ、強奪する。ヤクザより質(タチ)悪いかもな」
「できそうなところ、手が出せると思ったところ、かよ。それがうちってことか。やってられないな。まったく、今のご時世と法律を盾にすればヤクザに勝てると思ってる。勘違いしてるだけなら相手にする必要もないが、指摘通り直近でマネロンの金が半分くらい消えている。犯人を探していたら、お前が低級犯罪組織を追ってるって聞いたからもしかしたらと思ったが正解だった。いいぜ。任せろ。やってやる」
「しかし、創。お前の推理は推理小説の名探偵もびっくりする理論だが、どうして犯人が女だって決められる。証拠は」
「もちろんある。さっき見せたゲーム画面をよく見てくれ。手にとっていいから。mp4、wmv、avi、mpg、その手前に全部同じ名前が入ってる」
「vrouw、か」
「オランダ語で女性だ。ご丁寧にすべての盗撮動画の隠しファイル名にわざわざついてる。どうだ、わかりやすいだろ?」
「なるほどな。分かった。ガキ共を総動員させる。調べよう」
「こっちもすぐに調べる。分かったら随時報告するが、事件が終わったらその女は渡せよ」
「わかった、わかった。わかってるよ、そんなこと。相手はボロの釣り竿でミニ竜を釣ろうとするような弱小低級犯罪組織なんだ。手を出した金は身の丈に収まりきりやしないのは明白。アジトを見つけ出して敵を追い詰めて壊滅、金をすべて争奪。どっちの組も大活躍できる作戦を立ててやるから任せとけ」
相手にした相手が悪かったことを盗撮団全員に教えてやろう。もちろん教えるのは俺じゃあないんだけどね。俺みたいな小物は精々そのバックのデカさで虎の威を借りて踊っているぐらいが丁度いい。振り返ったときにそのすべてが敵になっていないことを祈りながら。いや、本当に敵に回したら命が幾つあっても足りない。死んでしまう。こぇぇ。
さて、そんなこの街最強のふたりから逃げられるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます