盗撮jkアイアンボトム03

 俺はいつもの不定期で変わる電話番号にかけた。取り次ぎのガキが出たので「茨戸創だ。雁来成哉を出せ」と言ったらすぐに電話が変わった。俺の知名度が上がってきているのかもしれない。


「どうした」


「例の盗撮の件で敵のアジトを見つけた。しかし確証がなくてな。そこで誰かメンバーを、そうだなガールズを貸してくれないか。占いとか分かるやつがいい」


「わかった。手配しよう」


「助かる。ビルの上の階で狭くて密室。ひとりで行動するにはちょっと危険だし、理由がつかないんだ。ひとりカラオケするのに理由はいらないけど、するにはもうひとり欲しいかなって」


「ひとりカラオケするのか」


「いや、お前らのメンバーと一緒に行くことはあるけど」


「何を歌うんだ」



 え? リーダー様はそういうの気になるの? 俺はこの間ボーイズが歌っていたアーティストの名前を出した。



「今のガキはそんな音楽を聴くのか。センスないな」


「キングなんとかの曲は今の若者で知らない奴いないんじゃないか。俺もよく知らないんだけど。よくカラオケ行くと流れてる気がする。ヌーの王様だな」


「キングね……それは本当の王を知らないんじゃないか?」


「それはそうかも知れない。少なくともこの街の王はお前ひとりだし、その正体を知っているのは極数人だ」


「お前もそのひとりか」


「もちろん。俺は王の右腕だからな」


「切るぞ。仕事しろ」



 電話を切られてしまった。やれやれ、照れ屋さんなんだから。俺は時代遅れのスペックを誇る今となっては希少なパソコンをインターネットに繋いだ。グループの秘匿掲示板を呼び出し、情報を呼びかけたスレを確認した。そこで俺は驚くべき噂を目にしたのだが、あまりにも噂の域を出なかったので心にしまっておくことにした。比叡の裏金って、まさか氷永じゃないよな。






 ※ ※ ※





 数日後。成哉に手配してもらったガールズの都合がついたとのことだったので、俺は彼女と落ち合った。そこで待っていたのはなんとこの間女子高校生を連れてきたガールズだった。名前は吉野とか言ったか。成哉は分かっていてわざと選んで命令を下し、俺のもとに送り込んだ。そうなのだろう。



「俺がこれからやる仕事、分かっているか」


「はい」


「そのために君を使い、任務を成し遂げようと思っている。あまり人を駒のように、便利に使いたくはない主義なんだけど今回は状況が状況でね。簡単そうに見えてそうじゃない仕事だ」


「何でもします。私はそのためにここに来ました。全部分かっていて、成哉さんからの命令を受けて私はここにいます」


「そうか。じゃあ、俺からもいくつか命令する。作戦命令だ。いいか、場所は占い館、六芒星の煌めきだ。雑居ビルの三階で間取りは送った画像の通りとても狭い。いざとなったときに相手は何をするかわからない。証拠隠滅か、逃亡か。いずれにしてもこちらに情報がない以上不利だ。手筈としてはまず、吉野が占いを受けたいと相手に伝え客として入る。俺は付き人、カップルの男で一緒に来たと話す。この場合俺みたいな男は待合室とか別室で待たされるのが普通なんだろうが、事前に手に入れた内装情報によると布で覆われた占いブースの少し離れた後ろに椅子があり、そこに座らされるみたいだ。俺はそこで小型カメラを使って店内を撮影する。カメラをカメラで撮影し、証拠を押さえる。もちろん吉野の座る椅子の下には相手の盗撮カメラがあるだろう。カメラそのものを回収できれば一番いいが、データはクラウドに送られて直接手に入れることはできないだろう。お金を出せば買えるかもしれないが、それでは奴らにクラウドファンディングしているようなもの。まずはコチラのカメラで向こうの悪事を押さえる。そこからだ。いいな」


「わかりました。手筈通りに」


「いまさら盗撮されるのが嫌とか言うなよ。できれば事件の当事者を作戦に使いたくはなかった。だから俺はわざわざ成哉にお願いして人を手配してもらったんだ。そうでなきゃ最初から一緒に敵を倒しに行こうと言っていたさ。被害側になるとさ、どれだけ理性的に冷静になっていても、どうしても作戦に対して情が入る。万が一の時に判断が鈍る。でも仕方ない。成哉の判断だ。信じよう。覚悟だけは忘れないように。相手はたぶん雑魚だが、雑魚は雑魚なりに知恵を回す。いいか、これはお前の下着をこちらから撮られることを許すためにやっているんじゃない。みすみす撮れ高を渡すわけじゃないということだけは、分かっているだろうけど分かっておけ。それ以上の撮れ高をこっちが撮る。実はこういうカメラには少し詳しくてな。期待していいぜ」


「お願いします」


「ああ。雪だっけか、女子高校生。彼女のことを助けることはできないが、無念を晴らして金を取ってやろう」


「はい。よろしくお願いします」



 ふたりは昼を挟んで、その午後に作戦を実行した。




「いらっしゃいませー」


「すいません、彼女に占いをお願いしたくて。俺は付き添いというか一緒に来てだけなんですけど、良いですか」


「ええ、もちろん。どうぞ、中へ。狭いところですが」


「お邪魔します」


「失礼します」



 情報通りの内装だった。俺はメガネにつけた複数のカメラのスイッチを入れて主に天井を撮影し始める。高感度の見えないところまで見えるこのカメラは優秀なもので、相手の隠し小型カメラをすぐに見つけることができた。その様子は俺の電子画面時計で確認できる。



 吉野が占いをブースに座って受け始めた。俺も案内されて椅子に座った。店の案内の人、布の向こう奥の占い師、その椅子の下に隠された本命の女の子のパンツ撮影カメラ。存在を認識してカメラで確認することは容易だった。うまくいきすぎて怖い。こういう時は何か見落としていることがいつもの俺。ちょっと前に拉致されてバットで殴られたのは良い思い出。



 占いが終わると俺たちはその場を後にした。尾行や監視を警戒したが特になかった。占いの館から離れた人目が多い喫茶店で互いに戦果を確認することにした。十分に周りを見渡して警戒しながら、ガールズから占いを受けていた所感を聞いた。



「最初は名前、生年月日、生まれた場所、好きな音楽、小説、漫画、言葉、色、黒と白どちらを選ぶかと聞かれました。それからタロットカードみたいなのがでてきて、私が選んだりシャッフルしたりめくったりして過去と今未来を占ってもらいました。結果はまあまあです。合っていると言えばそうだし、当てはまりそうな言葉を言われて当たっているこのように言っているようにも聞こえました。ブースをよく観察しました。茨戸さんからも見えていたと思いますが、布はとても厚く遮蔽に適していました。細工はないように見えました。机にはその天板の裏に何か機械が入っているように感じました。磁石みたいな、重たい感じの。重厚感があるだけで勘違いかもしれないですが。椅子の下の盗撮カメラに関しては分かっていても分かりませんでした。あれは気が付かないですよ。とても卑怯です」


「そうか。分かった、ありがとう。ひとつ聞いてもいいか。手のひらを広げて見せるように言われたり、手相を見ると言って手を机に広げて置いたりしなかったか」


「ええ。少しだけですけど、手相も見てました」


「そうか。わかった、ありがとう」



 それから俺は手に入れたたくさんの仕掛けられた人の目には見えないようなカメラを捉えた動画を成果として見せた。本命はコチラであり、結果は言うまでもなく大収穫大成功である。あの路上でやっていた占い師は盗撮グループの一味で、あの占いの館は低級犯罪組織で間違いなかった。被害があったという女子高校生の話もガセではなく事実だったし、その手口も情報通りだった。あとは問い詰めるか金の流れを特定して巻き上げるか。今回の目標としては金の出どころと行く先、つまり金を手にしている本当の悪者がいる組織本部を特定する。占いの館で手に入れた資金をまとめている場所を。そして流れている金を俺たちが横取りして金銭的に壊滅に追い込む。盗撮事業で稼げないとわかると、すぐに引き上げてまた違う稼ぎを探すだろう。そこまで達成できれば少なくとも盗撮被害をこれ以上増やすことは防げる。この街からひとつ卑劣な犯罪を減らし、別の犯罪が増えるのを見守ることとなる。



 さて、ここまでは下調べ。本当にやるべき秘密作戦はここからである。平成の子供たちを楽しませたアドバンスな携帯ゲーム機を改造してもらって、夜の敵地に忍び込むのだ。



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